ワールドヘルスレポート

海外の健康や医療に関する旬なニュースをお届けしています。
2022年記事
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2022年12月号記事 vol.223 スマホやタブレットをベビーシッター代わりに使うと後でしっぺ返しを食らう?
電話が鳴ったときや夕食を食べ始めようとするときに限って、幼い子や孫が騒ぎ始める――。そんな経験のある人も多いかもしれません。そんなときには、iPadやスマートフォン(スマホ)などのデバイスを与えて子どもを落ち着かせ、用事を済ませることもあるでしょう。しかし、それがお決まりの対応策になっている場合には、長期的に見て子どもが行動上の問題を抱えるリスクがあり、特に男児と、もともと多動性あるいは衝動性のある子どもでは、そのリスクがさらに高まる可能性があることが、米ミシガン大学小児病院のJenny Radesky氏らの研究で示唆されました。詳細は、「JAMA Pediatrics」に12月12日掲載されました。 Radesky氏らは、3~5歳の子どもとその親422組を対象に、試験開始時(T1)、その3カ月後(T2)、および6カ月後(T3)にオンラインでの調査を実施し、子どもを落ち着かせる目的でスマホ […]
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2022年11月号記事 vol.222 明るい部屋で寝る人は肥満やうつ、全身性炎症になりやすい?
質のいい睡眠を十分にとることは、健康維持のために欠かせない習慣の一つです。以前の健康かわら版でも「睡眠不足で内臓脂肪の蓄積が増える?(2022年4月号)」というワールドヘルスレポートをお届けしました。今回の記事では約3,000人の参加者を対象に、睡眠中の寝室の明るさと健康指標との関連を検討した研究(平城京スタディ)から、明るい寝室で寝ている人には、肥満、脂質異常、全身性炎症、うつ症状、睡眠障害が多いという報告を紹介します。奈良県立医科大学疫学・予防医学講座の大林賢史氏らの研究であり、詳細は「Environmental Research」に9月21日掲載されました。 寝室が明るすぎることが健康上のリスクとなる可能性を示した研究は、これまでにも報告されていましたが、研究の対象人数が限られていたことから、さらに規模の大きい研究が必要とされていました。今回、大林氏らが実施した研究は、奈良県在住の4 […]
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2022年10月号記事 vol.221 魚油で脳機能が高まる可能性
魚は「脳に良い食品」として知られていますが、中年の男女を対象にした新たな研究から、それをさらに裏付ける結果が得られました。研究において、オメガ3脂肪酸の血中濃度が高い中年の人では、思考力テストの結果が優れていることが確認されました。また、認知症を発症した高齢者では通常、記憶に関連する脳領域の萎縮が認められますが、オメガ3脂肪酸の血中濃度が高い中年の人ではその容積が大きいことも明らかになりました。米テキサス大学健康科学センターのClaudia Satizabal氏らによるこの研究結果は、10月5日の「Neurology」に掲載されました。 オメガ3脂肪酸として特によく知られているのは、DHA (ドコサヘキサエン酸) とEPA (エイコサペンタエン酸) でしょう。これらの脂肪酸はサーモンやマグロ、サバ、ニシン、イワシなど脂の多い魚に豊富に含まれていますが、魚油サプリメントなどからも摂取すること […]
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2022年9月号記事 vol.220 50歳未満でのがんの発症が世界中で増加
50歳未満のがんの発症率の増加は世界的な問題であり、そこには質の悪い食生活や肥満、運動不足などの要因が関連している可能性が高いとするレビュー論文が、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院およびハーバード大学医学大学院の荻野周史氏らにより、「Nature Reviews Clinical Oncology」に9月6日発表されました。 この研究ではまず、1990年代以降、50歳未満の成人で、14種類のがんの発症率が世界的に上昇傾向にあることが述べられています。14種類のがんとは、乳房、大腸、子宮内膜、食道、肝外胆管、胆嚢、頭頸部、腎臓、肝臓、骨髄、膵臓、前立腺、胃、および甲状腺のがんです。また増加が見られた国は、米国、カナダ、スウェーデン、イギリス (イングランドとウェールズ)、エクアドル、ウガンダ、韓国などです。さらに、これらのがん発症率の増加傾向は、Global Cancer Observat […]
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2022年8月号記事 vol.219 浴槽入浴が糖尿病患者の治療を後押し?
湯に漬かる入浴 (浴槽入浴) の頻度が高い糖尿病患者は、血糖コントロールの指標であるHbA1c値が良好であるという研究結果が報告されました。国立国際医療研究センター国府台病院糖尿病・内分泌代謝内科の勝山修行氏らによるもので、詳細は「Cardiology Research」6月発行号に掲載されました。HbA1c以外に体格指数 (BMI) や拡張期血圧も、浴槽入浴の頻度が高い患者の方が良好だったといいます。 サウナや浴槽入浴の頻度が、心血管系イベント発生率と逆相関することは以前より報告されています。しかし、これまでに国内で行われた研究は解析対象者数が少なく、また、心血管イベントの既知のリスク因子を網羅的に解析できていないという問題がありました。勝山氏らは、同院の外来糖尿病患者約1,300人を対象とする横断研究を実施し、この点を検討しました。 2018年10月~2019年3月に同院を受診し、入浴 […]
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2022年7月号記事 vol.218 食事に塩をかける習慣は寿命を縮める?
テーブルで食事に塩をふりかける習慣のある人は、そうした習慣のない人に比べて寿命が短い可能性がある――。そんな研究結果が、50万人以上の英国成人を対象にした大規模研究から示唆されました。食事に塩をかける習慣のある人では、50歳時の余命が平均で2年縮むことが示されたといいます。米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のLu Qi氏らが実施したこの研究結果は、「European Heart Journal」に7月10日掲載されました。 健康の専門家たちは長年にわたり、食事中のナトリウム摂取を制限するように勧めてきました。その主な目的は血圧コントロールのためです。ですが、ナトリウムの摂取制限により寿命が延長するのか否かについては、研究間で一致した見解は得られていません。Qi氏によると、そうした状況を作り出している原因の一つと考えられるのが、ナトリウム摂取量の測定方法の違いだといいます。例えば、ある研 […]
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2022年6月号記事 vol.217 ストレスにより免疫システムの老化が加速か
ストレスは、免疫システムを弱めてさまざまな疾患を引き起こす可能性のあることが、米南カリフォルニア大学のEric Klopack氏らの研究で示唆されました。衝撃的な出来事や仕事の重圧、日々のストレスや不当な扱いなどの経験は、免疫システムの老化スピードを速めることが示されたといいます。研究結果は「PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences)」に6月13日発表されました。 免疫機能は加齢に伴い大きく低下し、老化した白血球の割合が増える一方で、感染と闘える新しい白血球の数は減っていきます。こうした現象は、「免疫老化」と呼ばれています。免疫老化はがんや心血管疾患、肺炎などの発症リスクを高めるだけでなく、ワクチンの有効性の低下や臓器の老化とも関連します。しかし、同じ年齢の人でも健康状態に大きな差があるのはなぜなのでしょうか。Klopack氏 […]
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2022年5月号記事 vol.216 どの栄養素を「いつ」取るかで血圧に差が出る
ナトリウム (塩分) の摂取量が多いと血圧が高くなりやすいことは広く知られていますが、新たな研究から、ナトリウムの多い食事をいつ摂取するかによって、血圧への影響が異なる可能性が報告されました。早稲田大学先端生命医科学センターの柴田重信氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に3月4日掲載されました。朝食のタンパク質量が多いことや、昼食の食物繊維量が多いことと、血圧の低さとの有意な関連なども明らかになりました。 栄養学では長年、摂取する栄養素の量と健康との関連が研究されてきましたが、近年、栄養素を「いつ」摂取するかという点も重要であることが分かり、「時間栄養学」と呼ばれる研究が活発に行われています。特に血圧は、朝から日中は高く、夕方から夜間は低下するという日内変動があることから、栄養素の摂取タイミングの違いが血圧へ異なる影響をもたらす可能性が考えられ、動 […]
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2022年4月号記事 vol.215 睡眠不足で内臓脂肪の蓄積が増える?
睡眠不足でいると摂取カロリーが増え、内臓脂肪の蓄積につながることが、小規模ランダム化比較試験により明らかになりました。米メイヨークリニック医科大学教授のVirend Somers氏らが実施したこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」4月5日号に掲載されました。 内臓脂肪とは、腹部内の内臓の周りについた脂肪のことです。Somers氏は、「内臓脂肪は、表面上は目に見えないが、実際には極めて危険な脂肪だ」と話します。なぜなら、「内臓脂肪の蓄積は、高血圧や高血糖、高コレステロール血症などを招き、それらが心臓や血管の疾患を引き起こすからだ。これらは全て、糖尿病の発症リスクも高める」と同氏は説明します。 今回の試験では、19~39歳の肥満ではない健康な12人を、4時間の睡眠を取る睡眠制限群と、9時間の睡眠を取る対照群にランダムに振 […]
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2022年3月号記事 vol.214 75歳以上では飲酒が認知機能低下を防ぐ?
75歳以上の日本人高齢者を対象とする研究から、適度な頻度でアルコールを摂取している人の方が、認知機能が高いことを示すデータが報告されました。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座の赤木優也氏、樺山舞氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に2月28日掲載されました。アルコールの種類別ではワインを飲んでいること、飲酒状況では機会飲酒(宴会等)があることが認知機能の高さと関連しているといいます。 認知機能低下のリスク因子の一つとして、過度のアルコール摂取が挙げられます。ただし、そのエビデンスは主として壮年~中年期の成人を対象とした研究から得られたものであり、75歳以上の後期高齢者ではどうなのか、よく分かっていません。また、ワインの認知機能保護効果がよく知られていますが、その効果を示した研究は地中海諸国で行われたものが多く、食事スタイルの影響を […]
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2022年2月号記事 vol.213 塩分摂取量を減らすためのヒント
健康のために減塩が重要であることは、よく指摘されています。 しかし、実際に生活の中でどのように減塩を進めていけばよいのでしょうか。 今回は、減塩について国内外のレポートからご報告します。 塩分の取り過ぎによる害、他の栄養で帳消しにはできない? 塩分の取り過ぎによる心臓への害は、野菜や果物をたくさん食べるなど他の面で健康的な食事を心掛けたとしても帳消しにはできないことが、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのQueenie Chan氏らによる研究から明らかになりました。この研究結果は「Hypertension」2018年3月5日オンライン版に掲載されました。 塩分の取り過ぎは、心疾患や脳卒中の主な原因である高血圧のリスクを高めることが知られています。しかし、塩分以外の栄養素の摂取状況が塩分と高血圧リスクとの関連に影響するのかどうかは不明でした。そこでChan氏らは米国や英国、日本 […]
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2022年1月号記事 vol.212 テレビの見すぎは要注意
新しい連続ドラマを見始めたら次から次へと見続けてしまい、気が付けば何時間も経っていた。そんな経験のある人は少なくないのではないでしょうか。 コロナ禍で外出を控え、テレビを見る時間が長くなってしまった方もいらっしゃるかもしれません。今回は、テレビの見すぎによる健康リスクを海外の研究からレポートします。 長時間のテレビ視聴で血栓リスクが上昇 長時間にわたってテレビを視聴するなど体を動かさない時間が長引くと、静脈血栓塞栓症(VTE)発症のリスクが35%上昇する可能性のあることが、英ブリストル大学のSetor Kunutsor氏らの研究から明らかになりました。この研究結果は、「European Journal of Preventive Cardiology」において2022年1月20日に発表されました。 VTEは、ふくらはぎや太ももなどの下肢に血栓ができる深部静脈血栓症(deep venous […]