ワールドヘルスレポート
海外の健康や医療に関する旬なニュースをお届けしています。
最新記事
-
2024年2月号記事 vol.237 自然の中の散策は注意力を回復させる?
都会でアスファルトの上を歩くよりも森の中を散歩した方が、頭が冴えるようです。米ユタ大学の樹木園を散歩した人では、アスファルトだらけの医学部キャンパスを散歩した人に比べて、散歩後に、注意力に関係する機能の一つである実行制御が改善することが、脳波(EEG)の測定から明らかにされました。ユタ大学心理学分野のAmy McDonnell氏とDavid Strayer氏によるこの研究結果は、「Scientific Reports」に1月22日掲載されました。 Strayer氏らは、人間には自然に対する原始的な欲求があると話します。同氏は、「これは、人間は何十万年にもわたる進化の中で自然や生物とのつながりに愛着を持つようになったとする、バイオフィリアと呼ばれる考え方だ」と説明し、「現代の都市環境は、携帯電話や自動車、コンピューター、交通が密集する都会のジャングルと化している。これは、回復力を備え持つ自然 […]
-
2024年1月号記事 vol.236 料理が苦手な高齢者の一人暮らしでは死亡リスクが高まる?
一人暮らしの高齢者は、調理技術が低いと死亡率が高まる可能性のあることが、東京医科歯科大学大学院国際健康推進医学分野の谷友香子氏らによるコホート研究から示されました。調理技術が高い一人暮らしの高齢者と比較すると、低い人では死亡リスクが2.5倍に上った一方で、同居している高齢者では調理技術と死亡リスクに関連は見られませんでした。研究結果の詳細は「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に11月10日掲載されました。 調理技術が低いことと自炊の機会が少ないことには相関性がありそうだと誰もが想像するでしょう。さらに自炊の機会が少ないことは栄養の偏りなどを引き起こすことで健康リスクにつながる可能性があり、その傾向は一人暮らしの高齢者ほど強くなると考えられています。このような背景から谷氏らは今回、自立して生 […]
-
2023年12月号記事 vol.235 赤ワインで頭痛が生じる人がいるのはなぜ?
ホリデーシーズンには数え切れないほどのコルク栓が開けられ、たくさんのワインが飲まれることになりますが、飲酒を楽しむ人たちの中で密かにひどい目にあう人がいます。それは赤ワインを飲んだ時だけ小さなグラス1杯でも頭痛が起きてしまう人です。今回、米カリフォルニア大学デービス校ブドウ栽培・醸造学部のApramita Devi氏らが、このような「赤ワイン頭痛」が引き起こされる原因の解明につながり得る研究結果を、「Scientific Reports」に11月20日発表しました。それによると、果物や野菜に含まれているフラボノールの一種であるケルセチンが、赤ワイン頭痛を引き起こしている可能性があるといいます。 アルコールは、まず肝臓でアセトアルデヒドに分解され、次いで、主にALDH2 (2型アセトアルデヒド脱水素酵素) により酢酸に分解されます。ALDH2遺伝子には多くの多型がありますが、その中にはALD […]
-
2023年11月号記事 vol.234 生物学的年齢は脳卒中や認知症のリスクに影響を及ぼす
年齢には、出生からの経過年数で表す暦年齢(れきねんれい)のほかに、科学者が生物学的年齢と呼ぶものがあります。これは、老化や健康状態の個人差を加味した年齢で、テロメアの長さ、エピジェネティック・クロックや多様な生物学的バイオマーカー値を基に算出されます。スウェーデンの新たな研究で、この生物学的年齢が暦年齢を上回っている人では、認知症や脳梗塞(虚血性脳卒中)の発症リスクが高まることが明らかになりました。カロリンスカ研究所(スウェーデン)医学疫学・生物統計学部門のSara Hägg氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」に11月5日掲載されました。 一般的に、心血管疾患や神経変性疾患などの慢性疾患のリスクは加齢とともに増加すると考えられていますが、これまでは暦年齢を使って研究を行うことが一般的でした。しかしH […]
-
2023年10月号記事 vol.233 タンパク質摂取量が高齢者の全死亡リスクに関連
日本人高齢者を対象とする研究から、タンパク質の摂取量が多いほど全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが低いという関連が示されました。この関連は、筋肉量や血清アルブミンなどの影響を統計学的に調整してもなお有意であり、独立したものでした。東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科の倉田英明氏(研究時点の所属は慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)らの研究によるもので、詳細は「BMC geriatrics」に8月9日掲載されました。 タンパク質摂取量と健康リスクとの関連については、動脈硬化や腎機能、またはサルコペニア(筋肉量・筋力の低下)、フレイル(要介護予備群)などの観点から世界中で研究されてきています。しかし、食文化の違いによるタンパク源の相違などの影響のため、それらの研究結果は一貫性が見られません。また、日本における研究知見はいまだ少なく、かつサルコペニアやフレイルリスクを有する高齢者の筋肉 […]
-
2023年9月号記事 vol.232 仕事のストレスは男性の心疾患リスクを高める
過酷なのにやりがいの感じられない仕事は、男性の心臓の健康に大きな打撃を与える可能性があることが、6,400人以上を対象にした大規模研究で示唆されました。仕事にストレスを感じている男性の心疾患発症リスクは、仕事への満足度がより高い同世代の男性と比較して最大で2倍に達することが明らかになったといいます。CHU de Québec-Université Laval Research Center(カナダ)のMathilde Lavigne-Robichaud氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に9月19日掲載されました。 この研究は、心疾患のない6,465人(男性3,118人、女性3,347人)のホワイトカラー(平均年齢45.3±6.7歳)を2000年から2018年まで追跡して、職場ストレイン(仕事の要求 […]
-
2023年8月号記事 vol.231 ブルーライトカット眼鏡に目の保護効果は期待できない?
パソコンなどのスクリーンを見る時間が長い人は、目を保護するためにブルーライトカット機能がある眼鏡の購入を検討したことがあるかもしれません。しかし新たなレビュー研究によると、ブルーライトカット眼鏡は、少なくとも短期的には眼精疲労、目の健康、睡眠の質にほとんど影響を及ぼさないことが示されたといいます。メルボルン大学(オーストラリア)ダウニー研究室のLaura Downie氏らによるこの研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic Reviews」に8月18日掲載されました。 この研究では、ブルーライトカット眼鏡の効果を従来の眼鏡と比較した17件のランダム化比較試験(RCT)の結果を再解析しました。これらのRCTは世界6か国で実施されたもので、対象者が5人から150人以上、研究期間は1日未満から5週間までと、さまざまでした。 解析の結果、ブルーライトカット眼鏡を […]
-
2023年7月号記事 vol.230 水断食の安全性や効果のほどは?
一定期間、水のみを摂取するダイエット法である水断食は、減量という点では効果があると言われています。しかし、水断食により減った体重をどの程度維持できるかは不明である上に、血圧低下やコレステロール値の改善といった代謝に関わる効果は水断食を終えるとともに消失する可能性が、新たな研究で示唆されました。米イリノイ大学シカゴ校のKrista Varady氏らによるこの研究結果は、「Nutrition Reviews」に6月27日掲載されました。 水断食は、通常は5〜20日間、時にはそれ以上の期間、水だけを摂取するダイエット法ですが、専門家の監督下で、朝食に少量のジュース、昼食にごく少量のスープなど、1日に250kcalまで摂取できるような水断食も行われています。Varady氏らは今回、8件の研究を対象にしたナラティブレビュー (著者の知識や経験に基づいて特定のテーマに関する過去の文献を参照・統合し、系 […]
-
2023年6月号記事 vol.229 「AIドクター」が退院患者の再入院リスクを高い精度で予測
人工知能 (AI) コンピュータープログラムを使って、電子カルテに記録された医師のメモから患者の死亡リスクや入院期間などを高い精度で予測できることが、新たな研究で示されました。米ニューヨーク大学 (NYU) ランゴン・ヘルス病院では、退院した患者が1か月以内に再入院するかどうかの予測に実際にこのAIプログラムを使っているといいます。NYUデータサイエンスセンターのLavender Jiang氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に6月7日掲載されました。 NYUTronと名付けられたこのAIプログラムは、膨大なデータの学習により得た知識を基に翻訳や文書要約などのさまざまな言語処理タスクを実行する「大規模言語モデル」と呼ばれるものです。NYUTronは、医師が頻繁に記録に残す独創的で個人的なメモを直接読んで理解することができる点が、これまでのAIプログラムと異なります。これまでのAIプ […]
-
2023年5月号記事 vol.228 歯科治療の中断が全身性疾患の悪化と有意に関連
歯の治療を中断することと、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、心・脳血管疾患、喘息などの全身性慢性疾患の病状の悪化が有意に関連しているとする研究結果が報告されました。近畿大学医学部歯科口腔外科の榎本明史氏らの研究によるもので、詳細は「British Dental Journal」に4月11日掲載されました。 近年、口腔疾患、特に歯周病が糖尿病と互いに悪影響を及ぼしあうとする研究が注目を集めており、歯科と内科の診療連携が進められています。また、糖尿病との関連に比べるとエビデンスは少ないながら、心・脳血管疾患や高血圧症なども、歯周病との関連性が報告されています。歯周病およびこれらの全身性疾患は、どちらも継続的な治療が重要な疾患であり、通院治療の中断が状態の悪化 (歯周病の進行、血糖値や血圧などのコントロール不良) につながる恐れがあります。今回、榎本氏らは歯科治療を中断することが全身性疾患の病状に影 […]
-
2023年4月号記事 vol.227 CAR-T細胞療法はがん患者のQOLを向上させる
CAR(キメラ抗原受容体)-T細胞療法と呼ばれる免疫系を強化する治療法は、特定のがん患者を長生きさせるだけでなく、QOL(生活の質)も高めることが、新たな研究で明らかにされました。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の腫瘍学者Patrick Connor Johnson氏らが実施したこの研究の詳細は、「Blood Advances」に3月20日掲載されました。 CAR-T細胞療法は、患者自身の血液から免疫細胞のT細胞を取り出し、がんを標的とするように遺伝子を改変した後に、再び患者に戻す治療法です。この治療法の対象となるのは、標準的な治療が奏効しない難治性の白血病やリンパ腫などの血液がんです。CAR-T細胞療法は、血液がん患者の治療に革命を起こしました。進行した血液がん患者でも、この治療法によりがん細胞が一掃され、何年間もがんが再発することなく生存している人もいるくらいです。その一方で、治療 […]
-
2023年3月号記事 vol.226 田舎生活は人々を幸せにする?
都会の喧騒を離れて田舎に移り住むことは、穏やかで幸福な暮らしをもたらすように思うかもしれませんが、必ずしもそうではないようです。米ヒューストン大学心理学分野のOlivia Atherton氏らが実施した研究によると、農村部に住んでいる人は都会に住んでいる人よりも、生活に対する満足度が高いわけではなく、また、生きていく上でより多くの目的や意味を見出しているわけでもないことが示されました。さらにこれらの人では都会の人よりも、不安や抑うつを抱えやすく、神経症的傾向も強いことも示唆されたといいます。この研究結果は、「Journal of Personality」に2月1日掲載されました。 この研究では、Midlife in the United States(MIDUS)とHealth and Retirement Study(HRS;健康と退職に関する研究)の2件の大規模縦断研究のデータを用いて […]