ワールドヘルスレポート

海外の健康や医療に関する旬なニュースをお届けしています。
2018年記事
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2018年12月号記事 vol.175 映画館や劇場の利用で高齢者の抑うつリスク減
高齢者は、映画館や劇場などに出かける機会が多いほど、抑うつとなるリスクが低い可能性があることが、英ロンドン大学のDaisy Fancourt氏らによる研究で明らかになりました。詳細は「British Journal of Psychiatry」2018年12月13日オンライン版に発表されました。この研究は、英国の高齢者を調査したELSA(English Longitudinal Study of Ageing)研究に参加し、研究開始時点で抑うつ症状のない50歳以上の男女2,148人を対象としたもので、参加者を10年にわたり追跡し、演劇や映画、コンサート、美術館、博物館に行く頻度と抑うつとの関連を調べました。その結果、高齢者は映画館や劇場、美術館などに出かける頻度が高いほど、抑うつを発症するリスクが低いことが分かりました。このような場所に出かける頻度が数カ月に1回でも抑うつリスクは低下しまし […]
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2018年11月号記事 vol.174 仕事のストレスと職場環境
ストレスチェック制度が導入されるなど、職場でのストレスやメンタルヘルスの管理が重視されるようになってきました。今回は、仕事でのストレスが健康に与える影響と、ストレスの少ない職場環境について、スウェーデンと米国での研究からそれぞれレポートします。 仕事のストレスと健康への影響 まず、仕事でストレスが多いと、どのような健康への影響が考えられるのでしょうか。ヨンショーピング大学(スウェーデン)保健福祉学部のEleonor Fransson氏らによる研究では、仕事のストレスが多い人は、過度なストレスがない人と比べて不整脈の一種である心房細動を発症するリスクが約1.5倍になる可能性が示されました。詳細は「European Journal of Preventive Cardiology」5月30日オンライン版に掲載されました。 心房細動は、不整脈の中で最も高頻度にみられるもので、動悸や […]
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2018年10月号記事 vol.173 鼻をほじってはいけないもう一つの理由
子どもの頃、鼻をほじるのはやめなさい、と母親に怒られた経験がある人は少なくないでしょう。しかし、実際に鼻をほじると自分自身だけでなく周囲の人の健康にも悪影響があることが、英リバプール熱帯医学研究所のVictoria Connor氏らが「European Respiratory Journal」10月10日オンライン版に発表した研究で報告されました。成人の男女40人を対象としたこの研究では、鼻をほじったり、こすったりすると肺炎球菌が拡散する可能性が示され、鼻と手が接触するだけでも肺炎細菌が簡単に広がることを初めて報告したものだということです。 研究では、18~45歳の健康な男女40人を(1)肺炎球菌を加えた水で濡らした手を鼻に近づけて吸い込む“wet sniff群”、(2)肺炎球菌を乾いた状態で手の甲に付着させて鼻で吸い込む“dry sniff群”、(3)肺炎球菌を加えた水で濡らした指で鼻を […]
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2018年9月号記事 vol.172 高齢者の転倒予防に「太極拳」が有効?
転倒や骨折は高齢者に身体障害をもたらす主要な原因となっています。米国では、年間に高齢者の約28%が転倒を経験し、5件のうち2件は救急受診や入院を要し、最悪の場合には死亡に至るとされています。また、65歳以上で転倒すると自立した生活が送れなくなったり、早期死亡や医療費の増大と有意に関連することが知られています。 米国予防医療作業部会(USPSTF)は2017年9月26日、これらの予防策に関する勧告の草案を発表し、高齢者の転倒予防のための対策として運動を推奨しました。 高齢者の転倒予防に関する勧告案では「転倒リスクが高い高齢者に中等度のベネフィットがある」として運動を推奨しました。勧告案の執筆者の一人で米バージニア・コモンウェルス大学准教授のAlexander Krist氏は「専門家の指導の下で行うバランス能力や歩行能力などを向上させる運動は役に立つだろう」と話しています。 太極 […]
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2018年8月号記事 vol.171 よく噛み、甘いものを食べるのを日中に限るとメタボ予防に有効か
近年、日本でも中高年を中心にメタボリックシンドロームが大きな問題となっています。メタボリックシンドロームは放置しておくと生活習慣病の発症の原因となり、悪化すると高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病の発症や心臓や血管の病気を引き起こすと懸念されています。今回は、日常生活の中で手軽にできる「メタボ予防」を日本の研究2本からご紹介します。 よく噛んでメタボ予防 よく噛める人ほどメタボリック症候群になりにくいことが、新潟大学と大阪大学、国立循環器病研究センターらの共同研究グループの検討でわかりました。詳細は「Journal of Dentistry」オンライン版に2016年10月25日掲載されました。 研究グループは、大阪府吹田市民を対象に行っている疫学研究「吹田スタディ」の参加者中、50~70歳代の男女1,780人(平均年齢66.5歳)を対象に、基本健診と歯科検診を行いました。参加者に […]
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2018年7月号記事 vol.170 座りすぎで死亡リスクが上昇する14の疾患
近年、座って過ごす時間が長いと死亡リスクが高まるとする報告が相次いでいます。しかし、死因別では、がんや心血管疾患以外の死因を幅広く検討した研究はほとんど行われていませんでした。そこで「American Journal of Epidemiology」6月26日オンライン版に発表された米国がん協会(ACS)のAlpa Patel氏らが実施した研究では、がん予防研究-Ⅱ(Cancer Prevention Study-II)栄養コホートのデータを用いて、余暇を座って過ごす時間の長さと全死亡リスク、さらにさまざまな死因別の死亡リスクとの関連について検討しました。 対象は、登録時に主要な慢性疾患がなかった男女12万7,554人。年齢や性、学歴、喫煙の有無、食生活、運動習慣などを考慮して解析した結果、余暇を座って過ごす時間が1日に6時間以上の人では、3時間未満の人と比べて全死亡リスクが19%高いこと […]
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2018年6月号記事 vol.169 シュガーレスガムの効果
「噛むこと」の健康に対する様々な効果は、近年注目を集めています。今回は、シュガーレスガムをかむことの「健康」と「脳」に対する効果について、日本と海外のレポートからご報告します。 ガムを噛みながら歩くと、噛まなかった場合と比べて心拍数が増え、エネルギー消費量が増加する可能性があることが、早稲田大学スポーツ科学学術院准教授の宮下政司氏と濱田有香氏らの研究グループを中心とする研究で分かりました。詳細は「Journal of Physical Therapy Science」2018年4月号に掲載されました。 ウォーキングは手軽に行える運動の一つとされ、広く一般に親しまれていますが、宮下氏らの共同研究グループは、健康な男女を対象に歩行中のガムの咀嚼が身体機能や生理機能に与える影響について検討しました。 研究では、21~69歳の健康な男女46人を対象に、安静に1時間過ごしてもらった後に […]
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2018年5月号記事 vol.168 音楽はアルツハイマーや心疾患の症状緩和に効果的?
アルツハイマー病患者の焦燥性興奮(アジテーション)や不安などの軽減に、患者が好む音楽を聴かせる治療法が有効である可能性を示した研究結果が「The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease」2018年4月のオンライン版に発表されました。 Anderson氏らのグループは、以前の研究で音楽をベースとした治療によってアルツハイマー病患者の焦燥性興奮や不安、行動症状が改善することを既に確認していましたが、そのメカニズムは不明でした。今回の研究では、アルツハイマー病患者に自分で選んだ音楽を聴いてもらい、機能的MRI(fMRI)を用いた脳画像検査を実施した結果、脳の全領域において機能的回路の伝達度が高まっていることが確認されたということです。 同大学アルツハイマー病ケアセンターのNorman Foster氏は「それぞれの患者にと […]
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2018年4月号記事 vol.167 朝型の人と夜型の人、どちらが長生きする?
早寝早起きが苦にならない朝型の人と比べ、宵っ張りで朝寝坊の夜型の人は短命に終わる可能性が高いことを示唆する研究結果が「Chronobiology International」2018年4月11日オンライン版に発表されました。クロノタイプ(日中の活動や睡眠のリズムの傾向)が夜型の人では、朝型の人と比べて早期死亡リスクが10%高いことが分かったということです。 この研究は、米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部神経学准教授のKristin Knutson氏らが実施したもので、38~73歳の男女43万3,268人を対象に平均6.5年追跡し、クロノタイプと全死亡リスクとの関連について検討しました。クロノタイプは質問票を用いた調査データに基づき「完全な朝型」(対象者に占める割合は27%)、「どちらかといえば朝型」(同35%)、「どちらかといえば夜型」(同28%)、「完全な夜型」(同 […]
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2018年3月号記事 vol.166 スマホは若者を不幸せな気持ちにする?
近年、スマホの普及によって対人コミュニケーションの希薄化が危惧されています。今回はスマホが幸福度に与える影響について、米国とカナダの研究報告をご紹介します。 米国の中高生100万人超を対象とした調査データの分析から、スマートフォン(スマホ)などのデジタル機器の利用時間が長い中高生は、利用時間が短い中高生に比べて「自分は幸せだ」と感じている割合が低いことが示されました。この研究結果は「Emotion」1月22日オンライン版に掲載されました。この結果を踏まえ、研究を実施した米サンディエゴ州立大学心理学教授のJean Twenge氏らは「中高生のデジタル機器の利用時間を制限する必要がある」と指摘しています。 Twenge氏らは今回、1991~2016年に米国の中学2年生、高校1年生および3年生の男女110万人を対象に実施された調査データを分析しました。この調査ではスマホやタブレット […]
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2018年2月号記事 vol.165 顔面エクササイズで見た目年齢が3歳若返る?
歳を重ねても若々しい外見を保ちたい、誰もが考えることでしょう。今回は、「見た目の若さ」に関係する研究報告をアメリカ、デンマークのそれぞれからご紹介します。 顔面の「ストレッチ」で見た目を若返らせることができるかもしれない―。中年女性を対象とした小規模臨床試験で、20週間の顔面エクササイズプログラムによって見た目年齢が約3歳若返ることが「JAMA Dermatology」1月3日オンライン版で紹介されました。 臨床試験を実施した米ノースウエスタン大学フェインバーグ医学部のMurad Alam氏らによると、顔の見た目の老化には皮膚のたるみやシミだけでなく、その下層に位置する脂肪や筋肉が加齢に伴い減少することも影響することが分かってきているということです。このことから近年、顔の筋肉を増やし、顔の見た目年齢を若返らせることができる可能性があるとして期待されているのが顔面エクササイズで […]
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2018年1月号記事 vol.164 赤ワインで「リラックス」、蒸留酒で「攻撃的」に?
お酒を飲んでどんな気分になるかは、飲んだお酒の種類によって左右されるという研究結果が「BMJ Open」11月21日オンライン版に掲載されました。英国の研究グループが21カ国の約3万人を対象とした調査データを分析した結果、赤ワインやビールはリラックスした気分をもたらす一方、蒸留酒は攻撃的な気分や涙もろさにつながりやすいことが分かりました。この研究は、パブリックヘルス・ウェールズNHSトラスト(英)のMark Bellis氏らによって実施されました。 対象は、2015年11月~2016年1月に実施された調査に協力した21カ国の18~34歳の男女のうち、調査時点から遡って1年間にビール、赤および白ワイン、蒸留酒の4種類を全て飲んだことがあり、自宅および自宅外でよく飲む飲み物としてこれらの中から1種類を挙げた2万9,836人。調査では、これらのアルコール飲料を飲んだ時に(1)活力がみなぎる、(2 […]