アルツハイマー病患者の焦燥性興奮(アジテーション)や不安などの軽減に、患者が好む音楽を聴かせる治療法が有効である可能性を示した研究結果が「The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease」2018年4月のオンライン版に発表されました。
Anderson氏らのグループは、以前の研究で音楽をベースとした治療によってアルツハイマー病患者の焦燥性興奮や不安、行動症状が改善することを既に確認していましたが、そのメカニズムは不明でした。今回の研究では、アルツハイマー病患者に自分で選んだ音楽を聴いてもらい、機能的MRI(fMRI)を用いた脳画像検査を実施した結果、脳の全領域において機能的回路の伝達度が高まっていることが確認されたということです。
同大学アルツハイマー病ケアセンターのNorman Foster氏は「それぞれの患者にとって意味のある音楽が、患者とのコミュニケーションの橋渡し役となることを示す、脳画像に基づいた客観的なエビデンスが得られた」と説明しています。また、「個人個人向けにアレンジした音楽プログラムによって、特に見当識を失っている患者の脳を活性化させる可能性がある」との見方を示しています。Anderson氏も「音楽によってアルツハイマー病が治るわけではないが、アルツハイマー病の症状をより管理しやすくし、治療費の削減や患者のQOL向上につなげることもできるかもしれない」と期待を寄せています。
一方で、音楽は心疾患の症状緩和にも効果があることが、医学誌「The Cochrane Library(コクランライブラリー)」2009年4月15日号に掲載された研究で報告されています。この研究は、米テンプル大学(フィラデルフィア)で実施されたもので、心臓手術または入院2日以内の冠動脈心疾患患者1,461人に対する音楽の影響について、過去の23件の研究を検討したものです。冠動脈心疾患(CHD)の入院患者は、音楽を聴くだけで心拍数、呼吸数、血圧が低下することが明らかにされました。
この沈静作用(soothing effect)は患者が自分で曲を選んだときに最大となるということです。研究を行った同大学アート・生活の質Arts and Quality of Life研究センター副所長のJoke Bradt氏は「患者が自分の好きな音楽を選び、それがスローテンポであり、ハーモニーが予測でき、突然の変化がないなどの鎮静的特性(sedative quality)を持っていれば、よりリラックスできることは臨床経験から明らかである」と述べています。
また、音楽は疾病の症状緩和だけではなく、日常生活で安眠にも効果があることが指摘されています。米国睡眠財団の報告(2017年9月)では、寝る前に落ち着いた静かな音楽を聴くことが、睡眠の向上に役立つことがあるとされています。音楽は身体をリラックスさせ、眠りに備えさせる副交感神経系に直接作用するといいます。そのため、音楽により心拍数が下がり、血圧が降下し、呼吸が整い、筋肉の弛緩が促されると考えられます。理想的な音楽は、クラシック、ジャズ、フォークソングなどのなかでも1分あたり60~80拍のゆったりしたメロディーだということです。
音楽は様々な場面で私たちの脳や身体に働きかけると考えられます。疾患の症状緩和や生活の質の向上に、音楽を上手に取り入れられると効果的でしょう。