近年、スマホの普及によって対人コミュニケーションの希薄化が危惧されています。今回はスマホが幸福度に与える影響について、米国とカナダの研究報告をご紹介します。
米国の中高生100万人超を対象とした調査データの分析から、スマートフォン(スマホ)などのデジタル機器の利用時間が長い中高生は、利用時間が短い中高生に比べて「自分は幸せだ」と感じている割合が低いことが示されました。この研究結果は「Emotion」1月22日オンライン版に掲載されました。この結果を踏まえ、研究を実施した米サンディエゴ州立大学心理学教授のJean Twenge氏らは「中高生のデジタル機器の利用時間を制限する必要がある」と指摘しています。
Twenge氏らは今回、1991~2016年に米国の中学2年生、高校1年生および3年生の男女110万人を対象に実施された調査データを分析しました。この調査ではスマホやタブレット、パソコンといったデジタル機器の利用時間とともに「人と直接会う」「スポーツを楽しむ」「新聞や雑誌を読む」といったデジタル機器を利用しない活動の時間、さらに幸福度(自尊心や自分の生活に対する満足度、自分は幸せかどうかといった3つの側面で評価)についてデータが収集されました。その結果、全般的にデジタル機器の利用時間が長くなるほど、またデジタル機器を利用しない活動の時間が短くなるほど幸福度が低くなることが示されました。最も幸福度が高いのは、デジタル機器を利用する時間が1日当たり1時間未満の中高生であることも分かりました。さらに1990年代以降、米国ではデジタル機器の利用が広がるにつれて中高生の幸福度が低下し、特に米国民のスマホ所有率が50%を超えた2012年を境に中高生の幸福度が急速に低下したことも明らかになりました。今回の研究結果を踏まえ、Twenge氏はデジタル機器の使用時間は2時間以内に制限し、友人と会ったり運動したりする時間を増やすよう助言。こうした心掛けは「より幸せな気持ちをもたらすはずだ」としています。
また、 ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)のグループが実施した研究からは、スマホを手元に置いておくだけで、せっかくのレストランの食事のおいしさを感じにくくなり、友人や家族との会話も楽しめなくなってしまう可能性が示されました。この研究は同大学心理学のElizabeth Dunn氏らが実施したもので、研究結果は「Journal of Experimental Social Psychology」2017年11月6日オンライン版に掲載された他、米国のパーソナリティ・社会心理学会(SPSP 2018、3月1~3日、アトランタ)でも発表されました。
今回の調査では300人以上の地域住民や学生にレストランで友人または家族と食事を取ってもらい、テーブルに携帯電話を置いたまま食事を取る群と、携帯電話はしまって食事を取る群にランダムに割り付けました。その結果、携帯電話を置いたままだった群では「気が散った」と回答した人が多く、楽しかったどうかを評価するスケールのスコア(7点満点)は携帯電話をしまっていた群と比べて点数が低いことが明らかになりました。
Dunn氏は「スマホが公衆衛生に影響を及ぼすことを示した研究は増えているが、今回の研究もその一つといえる」と説明。また、共同研究者の一人で論文の筆頭著者でもある同大学心理学のRyan Dwyer氏は「自分にとって大切な人と一緒にいるときに携帯電話を使うと、携帯電話をしまっているときよりもその時間が楽しくなくなるものだ」と話しています。その上で、両氏は「友人や家族とともに過ごすときは携帯電話をしまっておくことで明らかなメリットがある」と強調しています。