明るい部屋で寝る人は肥満やうつ、全身性炎症になりやすい?

明るい部屋で寝る人は肥満やうつ、全身性炎症になりやすい?

明るい部屋で寝る人は肥満やうつ、全身性炎症になりやすい?

質のいい睡眠を十分にとることは、健康維持のために欠かせない習慣の一つです。以前の健康かわら版でも「睡眠不足で内臓脂肪の蓄積が増える?(2022年4月号)」というワールドヘルスレポートをお届けしました。今回の記事では約3,000人の参加者を対象に、睡眠中の寝室の明るさと健康指標との関連を検討した研究(平城京スタディ)から、明るい寝室で寝ている人には、肥満、脂質異常、全身性炎症、うつ症状、睡眠障害が多いという報告を紹介します。奈良県立医科大学疫学・予防医学講座の大林賢史氏らの研究であり、詳細は「Environmental Research」に9月21日掲載されました。

寝室が明るすぎることが健康上のリスクとなる可能性を示した研究は、これまでにも報告されていましたが、研究の対象人数が限られていたことから、さらに規模の大きい研究が必要とされていました。今回、大林氏らが実施した研究は、奈良県在住の40歳以上の一般成人3,012人を対象とする大規模な疫学研究であり、照度計を用いて2日間にわたり睡眠中の寝室の明るさを測定したものです。解析対象は、照度計の設置位置が不適当だと判断された対象者などを除く2,947人(平均年齢69.3±7.8歳、女性60.6%)。睡眠中の寝室照度の中央値は1.0ルクス (※ルクスとは物体が照らされた時の明るさの単位で、大きいほど明るい) でした。照度の四分位値で全体を4群に分類すると、第1四分位群は0.2ルクス未満(星明かりの夜程度)、第2四分位群は0.2~1.0ルクス(月明かりの夜程度)、第3四分位群は1.0~4.0ルクス(夕闇程度)、第4四分位群は4.0ルクス以上(街灯で照らされた足元程度)でした。

これら4群の健康指標を比較した結果、睡眠中の寝室照度が明るい群ほど、睡眠時間が長く、睡眠薬を飲む人の割合が多く、体重、BMI、腹囲長、中性脂肪が有意に高値であり、HDL(善玉)コレステロールは有意に低値でした。また、睡眠障害(ピッツバーグ睡眠スコア6点以上)やうつ症状(老年期うつ尺度スコア6点以上)の割合が有意に多くなっていました。さらに、体重・BMI、血液数値、全身性炎症に対して寝室照度が与える影響のみを評価できるように、その他の関連因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、収入、教育歴、入床時刻、就床時間、睡眠薬・抗うつ薬の使用など)を調整した多変量解析を行いました。その結果、第4四分位群(最も寝室が明るい上位25%)は第1四分位群(最も寝室が暗い下位25%)に比べて、体重(P = 0.01)、BMI(P = 0.007)、腹囲長(P < 0.001)、LDL(悪玉)コレステロール(P = 0.015)が有意に高く、睡眠障害の割合も有意に高くなっていました〔オッズ比1.43(95%信頼区間1.14~1.79)〕。次に、同じ集団を10ルクスをカットオフ値として二群に分けて比較すると、寝室が明るかった群ではさらに白血球数も高値(P = 0.041)を示し、全身性炎症の亢進が示唆されました。また、うつ症状を有するオッズ比も有意に高くなっていました(P = 0.047)。一方で、糖尿病指標であるHbA1cには寝室の明るさとの相関性は見られませんでした。

以上の結果から大林氏らは「3,000人規模の横断研究により、交絡因子を調整後も寝室の明るさが、肥満、脂質異常、全身性炎症、睡眠障害、うつ症状と有意に関連していることが示された。今後の追跡調査による縦断的研究が必要とされる」と総括。また、「寝室の明るさと白血球数の関連を示した研究は、本研究が初めて。白血球数は心血管や全死亡リスクの予測因子である」としています。なお、白血球数と睡眠の間のメカニズムについて大林氏らは、「夜間の光曝露による睡眠障害やメラトニン分泌の減少が白血球数を増加させたのではないか」と考察しています。

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