魚は「脳に良い食品」として知られていますが、中年の男女を対象にした新たな研究から、それをさらに裏付ける結果が得られました。研究において、オメガ3脂肪酸の血中濃度が高い中年の人では、思考力テストの結果が優れていることが確認されました。また、認知症を発症した高齢者では通常、記憶に関連する脳領域の萎縮が認められますが、オメガ3脂肪酸の血中濃度が高い中年の人ではその容積が大きいことも明らかになりました。米テキサス大学健康科学センターのClaudia Satizabal氏らによるこの研究結果は、10月5日の「Neurology」に掲載されました。
オメガ3脂肪酸として特によく知られているのは、DHA (ドコサヘキサエン酸) とEPA (エイコサペンタエン酸) でしょう。これらの脂肪酸はサーモンやマグロ、サバ、ニシン、イワシなど脂の多い魚に豊富に含まれていますが、魚油サプリメントなどからも摂取することができます。オメガ3脂肪酸を多く摂取することで脳機能や認知症のリスクが低下する可能性がこれまで数多くの研究から示されていました。しかし、そうした研究のほとんどは高齢者を対象としたものでした。Satizabal氏は、中年期は異常な脳の老化を示す兆候が出始める時期であるため、「脳の健康状態をより長く保つためには、中年期にできることが何なのかまで考える必要がある」と研究背景を説明しています。
Satizabal氏らは今回、心臓病や脳卒中のリスク因子に関する長期研究プロジェクトである「フラミンガム心臓研究」の参加者データを基に、中年期でのオメガ3脂肪酸の摂取が脳の構造や機能に与える影響について解析しました。解析対象者は認知機能に異常がなく、脳卒中の既往歴もない2,183人 (平均年齢46歳、女性53%) で、脳MRI検査と記憶力および思考力を評価する標準的な検査を受けていたほか、ガスクロマトグラフィーを用いて赤血球中のDHAとEPAの濃度も測定されていました。
その結果、全般的にオメガ3脂肪酸の血中濃度が高い人では低い人に比べて、記憶に関与する脳領域である海馬の容積が大きかったほか、抽象的推論の検査結果も優れていました。抽象的推論とは高次脳機能の一つで、たとえば初めて遭遇した不慣れな問題を解決するために必要な能力などが挙げられます。
ただ当然ながら、積極的にオメガ3脂肪酸を食品あるいはサプリメントから摂取する人とそうではない人とでは、さまざまな点で違っている可能性があります。そこでSatizabal氏らは、年齢や体重、喫煙習慣、高血圧や糖尿病の有無など、結果に影響する可能性のある多くの因子を考慮して解析しました。しかし、その結果もオメガ3脂肪酸の血中濃度は脳の容積や認知機能検査のスコアに関連することを示していました。
Satizabal氏は、「今回の研究により、オメガ3脂肪酸と認知機能との間の因果関係が証明されたわけではない」としつつも、「他の研究でも、オメガ3脂肪酸が良好な認知機能に関連することが示されている。また、オメガ3脂肪酸が炎症を抑制し、海馬で細胞が死滅するのを防ぎ、新たな細胞の形成を促すことが動物実験で示されている」と付言しています。
今回の研究には関与していない、米国の栄養と食事のアカデミー (AND) のスポークスパーソンで、米ジョージア大学のEmma Laing氏によると、一般的に成人は4オンス (約113 g) の魚を週に2回摂取するべきだといいます。また、魚を食べる選択肢はないという人でも、魚油や海藻などのサプリメントからでもオメガ3脂肪酸は摂取できるといいます。
ただしLaing氏は、サプリメントを使用している人たちに対して、出血などの副作用が出る可能性があるため、過度の摂取に注意するよう呼び掛けています。同氏は、「米食品医薬品局 (FDA) は、医療用に処方された場合を除き、EPAとDHAを1日当たり3 g以上摂取しないよう勧告している」と説明しています。