テーブルで食事に塩をふりかける習慣のある人は、そうした習慣のない人に比べて寿命が短い可能性がある――。そんな研究結果が、50万人以上の英国成人を対象にした大規模研究から示唆されました。食事に塩をかける習慣のある人では、50歳時の余命が平均で2年縮むことが示されたといいます。米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のLu Qi氏らが実施したこの研究結果は、「European Heart Journal」に7月10日掲載されました。
健康の専門家たちは長年にわたり、食事中のナトリウム摂取を制限するように勧めてきました。その主な目的は血圧コントロールのためです。ですが、ナトリウムの摂取制限により寿命が延長するのか否かについては、研究間で一致した見解は得られていません。Qi氏によると、そうした状況を作り出している原因の一つと考えられるのが、ナトリウム摂取量の測定方法の違いだといいます。例えば、ある研究では、対象者の尿サンプルを使ってナトリウム量を測定していますが、この方法では直近のナトリウム摂取量しか確認できません。また別の研究では、対象者の摂取した食事内容からナトリウム摂取量を算出していますが、十分に信頼できる推定値とは言いがたいでしょう。
これに対して、今回の研究でQi氏らは、食事に塩をふりかける習慣に着目し、UKバイオバンク参加者のうち食事に塩をかける頻度について回答のあった50万1,379人を対象に、塩をかける頻度と早期 (75歳未満) 死亡リスクとの関連を検討しました。同氏は、「食事のたびに塩をかけるという習慣から、その人の長年にわたる味の好みをうかがい知ることができる」と話します。
中央値で9.0年にわたる追跡期間中に、1万8,474件の早期死亡が生じていました。解析の結果、塩をかける習慣のない人を1とした場合の早期死亡の調整ハザード比は、塩をかける頻度を「たまに」と答えた人で1.02(95%信頼区間0.99〜1.06)、「たいてい」と答えた人で1.07(同1.02〜1.11)、「常に」と答えた人で1.28(同1.20〜1.35)であり、これはつまり食事のたびに塩をかける人では早期死亡リスクが28%上昇することを意味します。さらに、塩をかける頻度を「常に」と答えた人では、「たまに」や「たいてい」と答えた人に比べて、50歳時の平均余命が男性で2.28年、女性で1.50年短いことも明らかになました。
Qi氏は、「もちろん、これらの人々の間には多くの違いがあるだろう。例えば、塩をかける習慣のない人は、他にも健康的な習慣を持っている可能性が高い」と述べます。しかし同氏らが、運動レベル、喫煙や飲酒の習慣、体重、糖尿病や心疾患などの健康状態などを考慮して解析しても、塩をかける習慣と早期死亡リスクの関連は失われませんでした。
この研究だけでは、塩をかける習慣によりなぜ早期死亡リスクが上昇するのかまでは明らかにすることはできません。しかしQi氏は、「塩の過剰摂取が血圧上昇に及ぼす影響が主な原因だと思われる。食事に塩をかける習慣を持っていた人では、特に脳卒中や心疾患による死亡リスクが高かった」と話しています。
Qi氏は、「この研究結果は、テーブルの上に置かれた塩が凶器であることを証明しているわけではない。しかし、その摂取量を減らすべきであることを支持する結果ではある」と強調します。その上で、「塩の摂取量の低減は、すぐに修正できる単純な行動だ。ナトリウムを含有する多くの加工食品などから摂取してしまう塩分を低減するのは難しいが、卓上の塩を使わないようにするのは簡単に実行できる」と話しています。
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