ストレスにより免疫システムの老化が加速か

ストレスにより免疫システムの老化が加速か

ストレスにより免疫システムの老化が加速か

ストレスは、免疫システムを弱めてさまざまな疾患を引き起こす可能性のあることが、米南カリフォルニア大学のEric Klopack氏らの研究で示唆されました。衝撃的な出来事や仕事の重圧、日々のストレスや不当な扱いなどの経験は、免疫システムの老化スピードを速めることが示されたといいます。研究結果は「PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences)」に6月13日発表されました。

免疫機能は加齢に伴い大きく低下し、老化した白血球の割合が増える一方で、感染と闘える新しい白血球の数は減っていきます。こうした現象は、「免疫老化」と呼ばれています。免疫老化はがんや心血管疾患、肺炎などの発症リスクを高めるだけでなく、ワクチンの有効性の低下や臓器の老化とも関連します。しかし、同じ年齢の人でも健康状態に大きな差があるのはなぜなのでしょうか。Klopack氏らはこの差を、ストレスと免疫システムの老化との関連から説明できるのではないかと考え、今回の研究を実施しました。
まず、研究対象とした50歳以上の男女5,744人に、ストレスを感じた出来事や慢性的なストレス、日常的あるいはこれまでに経験した不当な扱いなどの社会的ストレスを評価する質問票に回答してもらいました。次に、対象者から血液サンプルを採取し、フローサイトメトリーと呼ばれる手法で、抗原に曝されたことのないナイーブT細胞や、最終分化したT細胞の割合などを算出し、免疫システムの老化について分析しました。

その結果、ストレススコアの高い人では、抗原 (感染の原因となる病原体やウイルスなどの外敵) からの刺激を受けてすぐに活性化するナイーブT細胞が少なく、最終分化したT細胞が多いことが示され、免疫システムの老化が進んでいることが明らかになりました。こうした関連性は、教育や喫煙、飲酒、体重、人種あるいは民族といった要素を調整した後も認められました。
免疫細胞の1種であるT細胞は胸腺で作られますが、その産生量は、胸腺の組織が加齢により縮んで脂肪組織に置き換わるに従って年々減っていきます。過去の研究では、胸腺のこのような老化は、不健康な食生活や運動量の少なさといった、社会的ストレスと関連する生活因子の影響により加速することが示唆されています。興味深いことに今回の研究では、質の悪い食生活および低運動量の要素を統計的に調整すると、ストレスと免疫老化の加速の関連性はそれほど強くありませんでした。Klopack氏は、「多くのストレスを抱えている人では、食事の質や運動量が低下しがちだ。このことは、これらの人で免疫老化が進んでいる理由の一つになるのではないか」との見方を示しています。

また、免疫システムを弱める他の要因としては、高頻度に生じる感染症の一つであるサイトメガロウイルス(CMV)感染症が考えられます。先行研究では、社会的ストレスがCMVの活性化を惹起し、それに対応するために我々の免疫システムは多くの資源を注ぎ込んで、T細胞を産生せざるを得ない状態になることが示唆されています。Klopack氏によると、このようにして産生されたT細胞の一部は、機能しなくなった古い細胞として残るのだといいます。
今回の研究では、CMVを抑制することでストレスとT細胞の状態との関連性が弱くなることも示されました。このことからKlopack氏は、「慢性的なストレスによってCMVの再活性化が日常的に起こるようになり、免疫システムの老化が加速するという経路も考えられる。CMVワクチンを開発することで、免疫システムの老化を抑えることができる可能性がある」との見解を示しています。

今回の研究には関与していない、米トゥルー・ヘルス・イニシアチブ会長のDavid Katz氏は、「免疫システムの生物学的年齢を調べることにより、鮮明かつ今までにない観点からの結果が得られた。簡単に言えば、対処できていないストレスが多いと免疫システムの老化が加速する、ということだ」と述べています。

Photo Credit: Adobe Stock

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