75歳以上の日本人高齢者を対象とする研究から、適度な頻度でアルコールを摂取している人の方が、認知機能が高いことを示すデータが報告されました。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座の赤木優也氏、樺山舞氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に2月28日掲載されました。アルコールの種類別ではワインを飲んでいること、飲酒状況では機会飲酒(宴会等)があることが認知機能の高さと関連しているといいます。
認知機能低下のリスク因子の一つとして、過度のアルコール摂取が挙げられます。ただし、そのエビデンスは主として壮年~中年期の成人を対象とした研究から得られたものであり、75歳以上の後期高齢者ではどうなのか、よく分かっていません。また、ワインの認知機能保護効果がよく知られていますが、その効果を示した研究は地中海諸国で行われたものが多く、食事スタイルの影響を否定できません。加えて、人種的にアルコール耐性が低い日本人での効果は不明であり、さらに日本酒や焼酎の認知機能に対する影響はほとんど知られていません。
そこで赤木氏らは、東京都と兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究「SONIC研究」の参加登録時データを用いて、飲酒頻度、飲酒量、アルコールの種類、機会飲酒の有無と認知機能との関係を横断的に解析しました。なお、SONIC研究の参加者の年齢は、75~77歳または85~87歳のいずれかであり、本研究の解析対象(飲酒習慣に関するデータのない人を除外した1,226人)のうち60.6%が75~77歳でした。また、48.5%が男性でした。
飲酒の頻度は、毎日が25.7%、週に1~6日が13.5%、週1日未満が5.4%で、55.5%は飲酒の習慣がありませんでした。飲酒量は、中程度(純アルコール40g/日未満)が34.8%、中程度を超えて多量未満(同40~60g未満/日)が5.8%で、多量飲酒(60g/日以上)が3.6%でした。アルコールの種類は、ビールが24.3%、焼酎13.1%、日本酒10.8%、ワイン4.4%、ウイスキー2.6%で、一部の人は複数の種類のアルコールを習慣的に摂取していました。
認知機能は、日本語版モントリオール認知評価(MoCA-J)という指標で把握しました。MoCA-Jは0~30の範囲でスコア化され、スコアが低いほど認知機能が低いことを表します。本研究の解析対象者は、平均22.7でした。
認知機能(MoCA-Jスコア)に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、喫煙習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中の既往、メンタルヘルス状態、教育歴、居住形態(同居/独居)、外出頻度、経済状況など〕を調整後、飲酒頻度について解析したところ、週に1~6日飲酒する人は、飲酒習慣のない人、および毎日飲酒する人に比較して、MoCA-Jスコアが統計学的に有意に高いという結果が得られました。一方、飲酒量での比較では、MoCA-Jスコアに大きな差は見られませんでした。
さらなる解析の結果、お酒の中でも特にワインを摂取することと、機会飲酒があることがMoCA-Jスコアの高さに、それぞれ独立して関連することが明らかになりました。一方で、ビール、焼酎、日本酒またはウイスキーを飲む習慣は、MoCA-Jスコアとの間に有意な関係がありませんでした。
適度な飲酒習慣が高齢者の認知機能に対し保護的に働く可能性が示されたことの背景について赤木氏らは、「飲酒関連の行動の一部には社会参加が含まれるため、社会活動による認知機能の保護効果が影響を及ぼしている可能性がある。ただし本研究では、外出頻度や居住形態の影響を調整後にも有意な関連が示された。よって、飲酒に関連する行動パターンそのものが、認知機能に対して保護的に働くのではないか」との考察を加えています。
一方、研究の限界点として、解析対象が後期高齢者のみであるため、元来健康でヘルスリテラシーが高い集団である可能性があることや、生存バイアスの存在が否定できないことなどを挙げています。
以上より赤木氏らは結論を、「毎日ではない中程度の頻度での飲酒とワインの摂取、機会飲酒は、75歳以上の高齢日本人の認知機能の高さと関連していた。この因果関係を明らかにするための縦断研究が望まれる」と総括しています。
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