電話が鳴ったときや夕食を食べ始めようとするときに限って、幼い子や孫が騒ぎ始める――。そんな経験のある人も多いかもしれません。そんなときには、iPadやスマートフォン(スマホ)などのデバイスを与えて子どもを落ち着かせ、用事を済ませることもあるでしょう。しかし、それがお決まりの対応策になっている場合には、長期的に見て子どもが行動上の問題を抱えるリスクがあり、特に男児と、もともと多動性あるいは衝動性のある子どもでは、そのリスクがさらに高まる可能性があることが、米ミシガン大学小児病院のJenny Radesky氏らの研究で示唆されました。詳細は、「JAMA Pediatrics」に12月12日掲載されました。
Radesky氏らは、3~5歳の子どもとその親422組を対象に、試験開始時(T1)、その3カ月後(T2)、および6カ月後(T3)にオンラインでの調査を実施し、子どもを落ち着かせる目的でスマホやタブレットなどのデバイスを使わせた(以下、デバイスの使用)頻度と、子どもの遂行機能や感情的反応(急激な感情の変化や衝動性の増大など)との関連を調べました。試験開始時の子どもの平均年齢は3.8歳で、そのうち男児は53.1%でした。
その結果、デバイスの使用頻度が高かった子どもは、感情的反応の兆候を示す可能性が高いことが明らかになりました。この兆候はとりわけ男児で強くみられました。また、気質的に外向性(高潮性)の強い子どもでは、T2時でのデバイスの使用はT3時での感情的反応の高さと関連し、T2時の感情的反応の高さは、T3時でのデバイスの使用頻度の増加と関連していました。
こうした結果を受けてRadesky氏は、「子どもが機嫌を損ねて感情的になっているときにスマホやタブレットを渡すと、子どもの気が紛れて一時的には平和が訪れるかもしれない。しかし、それが子どもを宥めるための常套手段になっている場合には、その後、長期にわたって問題を抱えることになるだろう」とコメント。さらに、「子どもはスマホやタブレットで気を紛らわすのではなく、自分の感情を自覚してそれを自分で宥める方法を身に付ける必要がある。幼少期にこうしたスキルを身に付けていない子どもは、成長に伴い学校生活や同級生との関係でストレスがたまって苦労する可能性が高い」といいます。
Radesky氏によると、感情を自覚し、うまくコントロールするスキルは、幼い子どもにもともと備わっているわけではないといいます。同氏は、「3~5歳の子どもが何らかの感情を抱いた場合、子どもはそれを、急激に沸き上がってきたネガティブなエネルギーやフラストレーションであるかのように感じる。しかし、子どもにはそれが何なのかが分からないため、保護者から『あなたは今、こんな気持ちなんだね』と教えてもらう必要がある」と説明。また、「親が子どもの気持ちを言葉で表すことは、子どもが感情と言葉を結び付けて考えられるようになるのを助けるだけでなく、親が子どものことを理解していると示すことにもなる」としています。
一方、今回の研究には関与していない米ワシントンD.C.の小児国立病院小児発達プログラムのMichael Mintz氏は、普段から各家庭に対してデバイスを用いずに子どものかんしゃくを抑える方法を伝えるようにしているといいます。その方法は年齢によって異なり、「低年齢の子どもの場合、まずは機嫌を悪くさせている原因から別の方向に注意を向けさせてみるのが良いだろう」と助言しています。
デバイスの画面が放つ明るい光やどぎつい色、不快感を与える音は、脳を過剰に刺激してしまいます。Mintz氏は、「われわれは、子どもたちに脳を過剰に刺激することが気持ちを落ち着かせる方法だと教えることは避ける必要がある」と主張します。ただし感情を抑えきれなくなりつつある子どもにデバイスが役立たないというわけではありません。同氏は、「実生活の中では、子どもが静かにしなくてはならない状況に遭遇することもある。そのようなときにはデバイスの使用が役立つ。このように、時と場所に応じてデバイスを使用するとよいだろう」と助言しています。