50歳未満でのがんの発症が世界中で増加

50歳未満でのがんの発症が世界中で増加

50歳未満でのがんの発症が世界中で増加

50歳未満のがんの発症率の増加は世界的な問題であり、そこには質の悪い食生活や肥満、運動不足などの要因が関連している可能性が高いとするレビュー論文が、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院およびハーバード大学医学大学院の荻野周史氏らにより、「Nature Reviews Clinical Oncology」に9月6日発表されました。

この研究ではまず、1990年代以降、50歳未満の成人で、14種類のがんの発症率が世界的に上昇傾向にあることが述べられています。14種類のがんとは、乳房、大腸、子宮内膜、食道、肝外胆管、胆嚢、頭頸部、腎臓、肝臓、骨髄、膵臓、前立腺、胃、および甲状腺のがんです。また増加が見られた国は、米国、カナダ、スウェーデン、イギリス (イングランドとウェールズ)、エクアドル、ウガンダ、韓国などです。さらに、これらのがん発症率の増加傾向は、Global Cancer Observatoryのデータ (2000〜2012年) を用いた分析でも確認されたといいます。
このような増加の原因としては、乳がんや大腸がんなどの一部のがんでのスクリーニング検査数の増加が考えられるでしょう。しかし、「50歳未満でのがんの発症率の上昇は、ほとんどの場合、がん検出例の増加から予測される数字を超えている」と荻野氏は述べます。また、増加しているがんの多くは消化管に沿って発生するものだといいます。同氏は、「これは、腸内細菌叢ががんの発生に影響している可能性を示唆している」と話します。
腸内細菌叢は、主に我々の消化管内に生息する膨大な数の細菌のことです。様々な種類の微生物から構成され、免疫系に影響を及ぼし、慢性的な炎症を抑えるなどの重要な機能を持つ腸内細菌叢が、我々の健康にとっていかに重要であるかを示す研究結果が近年、相次いで報告されています。
腸内細菌叢の構成は、親からの遺伝による影響を受けます。しかし荻野氏は、「食事、アルコール摂取、喫煙、運動、抗菌薬の使用などの環境要因も重要だ」と述べ、「こうした環境要因への曝露の状況は、ここ数十年で大幅に変化した」と説明します。その例として同氏が挙げるのが、“西洋型の”食生活です。西洋型の食生活とは、加工度の高い食品、砂糖、赤肉の摂取量が多い一方で、果物、野菜、食物繊維、良質な脂肪の摂取量が少ない食事を指します。西洋型の食生活は、大腸がんなどの特定のがんのリスク要因であることが示唆されています。米国立がん研究所によると、大腸がんの発症率は、65歳以上では減少傾向にあるのとは対照的に、50歳未満では増加傾向にあり、1990年代から2倍以上になっているといいます。
早期発症型の大腸がんに腸内細菌叢が果たす潜在的な役割について研究を進めている、米MedStarジョージタウン大学病院のBenjamin Weinberg氏は、「50歳未満で発症する大腸がんは、腫瘍に対して免疫系がうまく機能できていないことを示唆している。免疫系の機能は、腸内細菌叢の多様性によりサポートされていることを示す学術的な証拠もある」と話します。
もちろん、小児や若年成人で近年急増している肥満の影響も、50歳未満での大腸がんの増加に関連していると考えられます。しかしWeinberg氏は、「確かに人口レベルで見ると、肥満と大腸がんリスクとの間に関連は認められるが、大腸がんの診断を受けた若年成人の多くは肥満ではない。そのため、このがんの発症率上昇の背後にある理由は、単一の要因では説明できないのではないか」との見方を示しています。

Weinberg氏は、「がんの発症を抑えるためには、栄養豊かなホールフードの多い食生活、定期的な運動、禁煙、アルコールの制限、必要に応じた抗菌薬の使用といった、これまで専門家たちが長きにわたって助言してきたことを守るのが賢明だろう」と話します。
一方、荻野氏は、「健康的な生活習慣は、人生の早期の段階で身に付けるようにするべきだ。今回の研究から導き出せる最も重要なメッセージは、将来の子どものがんリスクは、親の今の行動にかかっているというものだ」と話します。ただし同氏は、ジャンクフードの摂取やスクリーンタイムが当たり前になった現代では、親自身も助けを必要としているとし、「健康的な食事、定期的な運動、健康的な睡眠パターンなどを優先させられるかどうかは社会にかかっている」と結論付けています。

Photo Credit: Adobe Stock

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