ワールドヘルスレポート

海外の健康や医療に関する旬なニュースをお届けしています。
最新記事
-
2025年3月号記事 vol.250 たった1時間のスクリーンタイムの増加で近視リスクが上昇
目を細めながらスマートフォン(以下、スマホ)を見つめたり、タブレットやテレビなどのスクリーンを凝視したりする時間が長くなるほど、近視になるリスクも高まることが、新たなエビデンスレビューで明らかになりました。1日当たりのデジタル機器のスクリーンを見る時間(スクリーンタイム)が1時間増えるごとに近視のリスクが高まり、近視になりやすい傾向(近視のオッズ)が21%上昇する可能性が示されたといいます。ソウル国立大学校(韓国)医学部眼科学准教授のYoung Kook Kim氏らによるこのレビューの詳細は、「JAMA Network Open」に2月21日掲載されました。 Kim氏らによると、2050年までに世界の人口の約半数が近視になると予測されているといいます。米国眼科学会(AAO)によると、近視とは、近くのものははっきり見えるが遠くのものはぼやけて見える状態のことを指し、例えば、手元の地図を確認す […]
-
2025年2月号記事 vol.249 脂肪の多い筋肉は心疾患リスクを高める
霜降り肉のステーキはグリル料理で高く評価されますが、人間の筋肉に霜降り肉のように脂肪が蓄積していると命取りになるかもしれません。新たな研究で、筋肉中に脂肪が多い人は、心臓に関連した健康問題で死亡するリスクが高いことが明らかになりました。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院心臓ストレス研究室のViviany Taqueti氏らによる研究で、詳細は「European Heart Journal」に1月20日掲載されました。 この研究は、冠動脈疾患(CAD)の評価のために、2007年から2014年の間に同病院で全身PET/CT検査を用いた心臓ストレステストを受けた669人の患者(平均年齢63歳、女性70%)を対象にしたものです。PET/CT検査で左室駆出率(LVEF)、心筋血流量(MBF)、冠血流予備能(CFR)などを評価するとともに、CTで胸部の体組成として、皮下脂肪、骨格筋、筋肉間脂肪組織(I […]
-
2025年1月号記事 vol.248 高齢者の集中力維持に最適な室温はどれくらい?
室温は、高齢者の脳の健康に直接的な影響を与える可能性があるようです。米マーカス加齢研究所のAmir Baniassadi氏らによる新たな研究で、65歳以上の高齢者が、「集中力を維持するのが困難だ」と報告する可能性が最も低い温度は20〜24℃であることが明らかになりました。この研究の詳細は、「The Journals of Gerontology: Series A」に12月3日掲載されました。 本研究の背景情報によると、人間は、加齢とともに気温の急激な変化に対応する能力が低下します。体温を調節する能力は加齢とともに低下するものですが、慢性疾患を抱えていたり、それに対する治療薬を服用していたりする場合には、その傾向がさらに強まります。研究室ベースの研究では、周囲の温度と認知機能は因果関係にあり、極端な温度の上昇が高齢者の認知機能に悪影響を与え得ることが示されています。 この研究は、室温がどの […]
-
2024年12月号記事 vol.247 明晰な頭脳の維持には骨格筋量の維持が重要
筋肉を維持することは認知症の予防に役立つ方法の一つである可能性があるようです。新たな研究で、高齢者の側頭筋の減少はアルツハイマー病(AD)のリスク上昇と関連していることが示されました。この研究を実施した米ジョンズ・ホプキンス大学医学部神経学教授のMarilyn Albert氏は、「骨格筋の少ない高齢者は、他の既知のリスク因子を考慮しても、認知症リスクが約60%高いことが明らかになった」と述べています。この研究結果は、北米放射線学会年次総会(RSNA 2024年12月1〜5日、米シカゴ)で発表されました。 研究グループは、骨格筋は人の体重の約3分の1を占めており、加齢とともに減少する傾向があると説明します。また、頭部の側面に位置する側頭筋は、下顎を動かす際に使われる筋肉ですが、その厚さと面積は体全体の筋肉減少の指標となることが過去の研究で示されているといいます。 これらのことを踏まえてAlb […]
-
2024年11月号記事 vol.246 「週末戦士」でも脳の健康に利点あり
週に1〜2回しか運動をしない「週末戦士」でも、運動を全くしない人に比べると、高齢になったときの頭の回転の速さは定期的に運動をしている人と同等であることが、新たな研究で明らかになりました。ロス・アンデス大学(コロンビア)スポーツ科学分野のGary O’Donovan氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に10月29日掲載されました。研究グループは、「本研究は、週末戦士の運動パターンと定期的な運動パターンの双方が、軽度認知症(MCI)のリスク低下に同程度の効果があることを示した初の前向きコホート研究だ」と述べています。 この研究でO’Donovan氏らは、メキシコシティ前向き研究の参加者から抽出した1万33人(平均年齢51±10歳)のデータを分析しました。これらの研究参加者は、1998年から2004年のベースライン調査と2015年から […]
-
2024年10月号記事 vol.245 人類の平均寿命はここ30年で延び幅が鈍化
「人生100年時代」の到来は、現状では期待できないようです。食生活の向上や医学の進歩の恩恵を受け、19世紀から20世紀にかけて平均寿命はほぼ2倍に延びましたが、ここ30年でその延び方が鈍化し、最も長寿の国でも1990年以降の平均寿命の延び幅は平均するとわずか6.5年だったことが、新たな研究で明らかになりました。米イリノイ大学シカゴ校公衆衛生学部のS. Jay Olshansky氏らによるこの研究結果は、「Nature Aging」に2024年10月7日掲載されました。 Olshansky氏は、1990年に「Science」誌に、人間の平均寿命は85歳で上限に近づいているとする論文を発表しました。この見解に異を唱えた研究者らは、医療と公衆衛生の進歩により20世紀に認められた寿命の延長は加速を続けたまま21世紀に突入すると予測しました。しかし、今回発表された新たな研究では、老化の容赦ない影響を […]
-
2024年9月号記事 vol.244 「声の変化」からCOPD増悪を予測
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪を、患者の声の変化から予測できることを示した新たな研究結果が報告されました。患者の声は、増悪が始まる直前には高くなり、増悪が始まるとかすれることが判明したといいます。この研究を実施したマーストリヒト大学医療センター呼吸器内科学(オランダ)のLoes van Bemmel氏らは、これらのサインを使ってCOPDの増悪に備えられるようにするためのスマートフォン(以下、スマホ)のアプリの開発に取り組んでいます。この研究結果は、欧州呼吸器学会(ERS Congress 2024年、9月7~11日、オーストリア・ウィーン)で発表されました。 Van Bemmel氏は、「アプリの開発に成功すれば、家庭でCOPDの増悪を早期に検知し、診断につなげられる可能性がある。そうすれば、患者自身が自宅で増悪を管理できるようになるだろう」と言います。 COPDは肺気腫や慢性気管支炎を […]
-
2024年8月号記事 vol.243 慢性的なカフェイン摂取で心血管疾患リスクが増加
コーヒーや紅茶などのカフェイン入りの飲み物は、世界中で朝食の定番になっていますが、飲み過ぎは良くないようです。1日に400mg超のカフェイン摂取は健康な人の心血管疾患のリスクを高める可能性があることが、新たな研究で示唆されました。Zydus Medical College and Hospital(インド)のNency Kagathara氏らによるこの研究結果は、米国心臓病学会アジア学術集会(ACC Asia 2024、8月16〜18日、インド・デリー)で発表されました。 この研究では、18~45歳の正常血圧で健康な成人92人(男性62%、30歳超60%、都市居住者79.3%)を対象に、慢性的なカフェイン摂取が心臓にもたらす影響が検討されました。慢性的なカフェイン摂取とは、週に5日以上、1年以上にわたってカフェイン含有飲料を摂取している場合と定義されました。全ての対象者は、3分間の踏み台昇 […]
-
2024年7月号記事 vol.242 排便回数は健康状態に関連
健康な人において、1日の排便回数(bowel movement frequency;BMF)は、健康に大きな影響を及ぼしていることが、米シアトルにあるシステム生物学研究所のJohannes Johnson-Martinez氏らの研究で明らかになりました。BMFにより、腸内細菌叢の属、血中代謝物、および生活習慣因子に違いが認められ、便秘と下痢は、それぞれ腎臓や肝臓の機能に悪影響を及ぼし得る可能性が示唆されたといいます。この研究の詳細は、「Cell Reports Medicine」に7月16日掲載されました。 Johnson-Martinez氏らはこの研究で、1,425人の健康な成人の医療と生活習慣に関するデータを収集して分析しました。対象者はBMFに基づき、1)便秘群(週1~2回)、2)低頻度群(週3~6回)、3)高頻度群(1日1~3回)、4)下痢群の4群に分けられました。その上で、BMF […]
-
2024年6月号記事 vol.241 生活習慣の改善でアルツハイマー病の進行が抑制か
食事や運動などの健康的な生活習慣を組み合わせて取り入れることにより、軽度認知障害(MCI)や初期の認知症の患者の認知機能維持に役立つことが、米国の非営利団体である予防医学研究所(Preventive Medicine Research Institute)所長のDean Ornish氏らが実施したランダム化比較試験(RCT)で示されました。このRCTでは、健康的な食事、定期的な運動、ストレスマネジメントなどを組み合わせた生活習慣改善プログラムを受けた患者の約71%で認知症の症状が安定、または薬剤を使わずに改善していました。それに対し、こうした生活習慣の改善を行わなかった対照群では約68%の患者で症状の悪化が認められたといいます。この試験の詳細は、「Alzheimer’s Research and Therapy」に6月7日掲載されました。Ornish氏らは、「生活習慣の改善が認知症やアルツ […]
-
2024年5月号記事 vol.240 IBSの治療、食事法の効果が薬を上回る?
腹痛などの過敏性腸症候群(IBS)の症状を軽減する最善の治療法は適切な食事法であることを示唆する結果が、ヨーテボリ大学サールグレンスカアカデミー(スウェーデン)のSanna Nybacka氏らが実施した臨床試験で示されました。同試験では、IBSの症状に対する治療法として2種類の食事法の方が標準的な薬物治療よりも優れていることが示されました。詳細は、「The Lancet Gastroenterology and Hepatology」に4月18日掲載されました。 IBSは、消化器疾患の中で最も高頻度に生じる上に、治りにくい疾患の一つです。米国人のIBSの有病率は約6%で、患者数は男性よりも女性の方が多いです。IBSの症状は、腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘などの無視しがたいもので、死に至る場合もあります。IBSに対しては、食事の改善のほか、便秘薬や下痢止め薬、特定の抗うつ薬、腸管内の水分の分泌 […]
-
2024年4月号記事 vol.239 気候変動により脳卒中による死者数が増加か
気候変動による気象の激しい変化は、脳卒中による死者数の増加につながっているようです。新たな研究で、2019年には、厳寒をもたらす寒冷前線や灼熱の熱波が年間50万人以上の脳卒中による死亡に関係していた可能性のあることが示されました。中南大学湘雅医院(中国)のQuan Cheng氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に4月10日掲載されました。 Cheng氏は、「近年の劇的な気温の変動は、人間の健康に影響を及ぼし、広範な懸念を引き起こしている」と述べ、「われわれの研究では、このような気温の変動は世界中で脳卒中の負担を増加させ、特に高齢者や医療格差の大きい地域においてその影響が強い可能性が示唆された」と同誌のニュースリリースの中で述べています。 研究グループは、「気温は、高過ぎても低過ぎても、脳卒中のリスクを高め得る」と説明します。気温が低いと、血管が収縮して血圧が上昇します。高血圧 […]