ドクターからの健康アドバイス

掲載9  腸内細菌のコントロール(1):〜◯◯バイオティクス〜

これまでのお話を通して、腸内細菌叢が撹乱されると我々の健康状態に悪影響があることがみえてきましたが、ではどうすれば腸内環境を整えることができるのか?その具体的な方法が知りたくなってきます。そこで今回は、腸内細菌叢をコントロールする方法の1つとして、〇〇バイオティクスについて紹介していきたいと思います。

 
〇〇バイオティクスは現在知られているものとして、
①プレバイオティクス(腸内細菌の餌になるもの)
②プロバイオティクス(菌そのもの)
③シンバイオティクス(①+②の合わせ技)
④ポストバイオティクス(菌がつくるもの、あるいは菌のもつ成分)
に分類されます。以下でそれぞれについてご紹介していきます。

 

図1. 〇〇バイオティクスの概要

 

1. プレバイオティクス

プレバイオティクスは微生物学者Gibsonによって1995年に提唱された用語で、大腸の有用菌を増殖あるいは有害菌を抑制する難消化性食品成分と定義されました(大筋は変わりませんが、2017年時点では定義が多少アップデートされています)。
プロバイオティクスが微生物を指すのに対して、プレバイオティクスはpre(前、先立ち)と名称がつくように、微生物そのものではない点が特徴です。また、以下の4つの条件を満たしています。
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①消化管上部で分解・吸収されない
②大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進する
③大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持する
④人の健康の増進維持に役立つ
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腸内細菌は大腸にもっとも多く生息するため、①の条件を満たさないと、食品成分は小腸で消化・吸収されてしまい、大腸に生息する腸内細菌へ直接影響しません。そのため、プレバイオティクスは基本的にヒトにとって「難消化性・難吸収性」となります。一方、腸内細菌はプレバイオティクスを利用するための酵素をもち、腸内細菌の栄養になります。
具体的なプレバイオティクスの例としては、食物繊維や難消化性オリゴ糖(例:フラクトオリゴ糖・ガラクトオリゴ糖)など、構成成分が糖のものが主です。また、ブドウなどに含まれるポリフェノールも小腸での吸収性が悪く、大半が大腸に到達するため、プレバイオティクスとして機能することがわかっています。
オリゴ糖は母乳中に含まれており、ビフィズス菌などの有用菌を増やす作用があります。そのため、現在販売されている乳児用の粉ミルクは、母乳に似せるためにオリゴ糖が添加されています。また、大人の腸内環境を整える目的でも、オリゴ糖入りのシロップなどがドラッグストア等の健康食品コーナーで販売されているのをみかけます。ただ、陳列されているオリゴ糖シロップの中には、ラベルに「オリゴ糖」と大きく書かれているものの、実際にはオリゴ糖の含有割合が少ないものも散見されますので、購入の際には成分までチェックすることが重要です。
食物繊維は水溶性・不溶性に大別されますが、特に水溶性のものが腸内細菌叢に強く影響することがわかっています。例えば、大和薬品が製造しているバイオブランの主成分は、水溶性食物繊維に分類される米ぬか由来のアラビノキシランであり、最近ヒト試験で腸内細菌叢を変化させるという報告がありました。私も最近バイオブランによる腸内細菌叢への影響評価を行い、バイオブランによる免疫調節作用に腸内細菌が関わる可能性を見出しています(2025年3月の日本薬学会第145年会にて演題発表予定)。食物繊維は水溶性・不溶性以外にも性質の異なるものがたくさんあるため、詳細は次回のテーマとして紹介させていただきたいと思います。
ポリフェノールは、植物がもつ苦味、渋みや色素の成分であり、お茶、ブドウやカカオなどに含まれています。共通の特徴(フェノール性水酸基)をもつ以外は、由来する植物により構造が大きく異なっており、アントシアニン(ブドウやベリー系)、ケルセチン(玉ねぎやブロッコリー)、クルクミン(ウコン)など、その種類は多岐にわたります。上記で例に挙げたポリフェノールは、いずれも腸内細菌叢に対する影響が報告されています。例えばブドウ由来のポリフェノールについては、アルコールを除いた赤ワインとそうでない赤ワインをボトル3分の1程度、20日間ヒトが摂取した場合、ビフィズス菌やプレボテラ菌が増加することが報告されています。

 
[参考文献]
1. Gibson G.R. et al. Nat Rev Gastroenterol Hepatol, 2017
2. Schupfer E et al. Molecules, 2023
3. Queipo-Ortuno M.I. et al. The American Journal of Clinical Nutrition, 2012

 

2. プロバイオティクス

プロバイオティクスは、腸内細菌叢のバランスを改善し有益な作用をもたらす生きた微生物であり、日常的に摂取しているヨーグルトに含まれる乳酸菌やビフィズス菌がそれに当たります。現在では乳業に関連する企業が、ヒトに有益なプロバイオティクスを精力的に探索し製品化しており、スーパーに足を運ぶだけで多数の保健機能を謳う乳製品を目にすることができます。個々のプロバイオティクスを紹介するにはとても紙面が足らないため、ここでは1つ、プロバイオティクスの機能を理解するためのTipsを紹介したいと思います。
「ヨーグルトや乳酸菌飲料を摂取すると、中に含まれている菌がお腹の中に住み着くようになり、わたしたちを健康にしてくれます」というのは、プロバイオティクスの作用メカニズムとして誰もが一度は考えるのではないでしょうか?しかし現在では、このようにヒトに生着するようなプロバイオティクスのほうが稀で、大半は体外に排出されることがわかっています。そのためプロバイオティクスが保健機能を示すメカニズムとしては、
①排出されるまでの間に常在菌と栄養を競合し、菌叢に影響を与える
②排出されるまでの間に代謝物を産生し、代謝物が宿主に影響を与える
③生菌としてではなく、菌体成分そのものが生体や菌叢に影響を与える
といったことが考えられます。
まだプロバイオティクスとしては実用化されていませんが、Parabacteroides goldsteinii は、マウスに生菌として投与すると抗肥満作用を示すものの、低温殺菌した菌では効果がないことが報告されています。このようなケースでは、①や②の機構が作用発現に重要であることが窺えます。
一方、もしプロバイオティクスが生菌でなくとも機能するなら、つまり「死菌を摂取した場合と生菌を摂取した場合に、両者で同程度の保健機能を示す」ようなら、そのプロバイオティクスの作用機序は③の寄与が強いと言えます。実際、常温保存可能な乳酸菌飲料は、その製造工程で中の菌が殺菌処理されており、製品中に生菌が含まれていないのですが、免疫の調節や睡眠を改善する効果が立証されています。
以前、肥満の回で紹介したAkkermansia muciniphilaですが、生菌ではなく死菌を投与しても抗肥満効果があることが認められており、すでに殺菌処理したAkkermansia菌が実用化されています。Akkermansiaは嫌気性要求の高い菌であり、生菌としての製品化が難しい例です。ですが難培養性のプロバイオティクスがAkkermansiaのように死菌で効果を示してくれるならば、実用面での大きな壁が取り払われます。
ちなみに、このように殺菌処理したプロバイオティクスは、生菌との区別のため、「パラプロバイオティクス」と呼ばれていますが、プロバイオティクスに比べるとまだ一般には耳に馴染みのない言葉になっています。

 
[参考文献]
1. Wu, T.R. et al. Gut, 2019
2. Choi Y et al. Microorganisms, 2021

 

3. シンバイオティクス

シンバイオティクスは、上述のプレバイオティクスとプロバイオティクスを同時に摂取することや、あるいは双方を含む製品のことを指します。菌そのものを摂取するだけでなく、菌の栄養になるものも同時に摂取してやろうという目的で使われています。プレバイオティクスとプロバイオティクスを個々に摂取することも可能ですが、最近の製薬でみる合剤(血圧の薬なんかでよくありますが)のように、すでに両者を配合している製品もみかけるようになりました。製品化の例としては、乳酸菌やビフィズス菌入りの飲料やヨーグルトに対して、オリゴ糖や食物繊維を加えたものが多くみられます。また、酪酸菌に対して、酪酸のもととなる食物繊維を加えたものも製品化されています。

 

4. ポストバイオティクス

プレは「前の」という意味でしたが、ポストはその逆で「後の」という意味をさしまして、ポストバイオティクスは菌の代謝物や菌のもつ成分を表します。プロバイオティクスの項にもありましたが、ほとんどのプロバイオティクスは摂取しても生着せず、観光地(宿主)にお金(代謝物)を落としてくれる一見さんのようにして機能するか、あるいは菌体そのものが有益な効果をもたらしていると考えられます。
そのため近年では、生きた菌ではなく、菌の代謝物や死菌でも、生菌と同程度あるいはそれ以上の効果があるというエビデンスも得られてきており、ポストバイオティクスという概念が浸透してきています。以前紹介した短鎖脂肪酸は、腸内細菌の代謝物であるため、少々雑な話にはなりますが、例えばヤセる目的で酢を飲むと、結果的に酢酸産生菌のポストバイオティクスを摂取していることになります(ただお酢が苦手な人もいますし、あまりたくさん飲んでると歯が溶けそうで怖いですが…)。
ポストバイオティクスのメリットとして、生菌の管理をしなくてもよいことがあげられます。ヨーグルトや一部の乳酸菌飲料にしてもそうですが、生きた菌を取り扱う際には、保存管理に気をつかいます(冷蔵かつ賞味期限が短い)。ポストバイオティクスは菌の代謝物や構成成分であるため、プロバイオティクスほどの厳しい管理条件が必要なく、それでいて生菌を摂取するのと同程度の効果が得られるということで、注目を集めています。
ポストバイオティクスの例としては、先ほどの短鎖脂肪酸もそうですし、ストレス緩和効果をもつことで有名なGABAがあります。大和薬品の製造するLactobacillus kefiranofaciensの米培養物である「米ケフィラン」は、乳酸菌培養物由来のアミノ酸(GABAなど)が含まれており、これもポストバイオティクスの例になります。  
ちなみに米ケフィランには乳酸菌の構成成分も含まれていますが、近年では菌由来の成分が腸内細菌叢に影響を与えることで、有益な効果をもたらすという報告が多数なされています。そこで我々はポストバイオティクスである米ケフィランの腸内細菌叢に対する影響を調べたところ、デブ菌であるFirmicutes門細菌が減少し、さらにヤセ菌であるBacteroidetes門細菌(特に抗肥満作用をもつBacteroides属やAlistipes属の細菌)が増加することを見出しました。これらの細菌は酢酸を産生し肥満を改善する菌であるため、ケフィランを摂取させたマウスの腸管の酢酸濃度を調べたところ、実際に酢酸が増加し、肥満や肥満性糖尿病に伴うインスリン抵抗性の改善、さらには脂肪肝症状を抑制することを見出しました。
以前より、米ケフィランによる整腸作用が認められておりましたが、今回の研究で米ケフィランによる腸内細菌叢の変動と抗メタボリックシンドローム作用のつながりを明らかにすることができました。さらなる検証は必要ですが、米ケフィランは腸内環境を改善するポストバイオティクスとして機能することが期待されます。

 
[参考文献]
1. Kurakawa T et al. Microorganisms, 2024

 

図2. ポストバイオティクス・米ケフィランによる腸内細菌叢の変動と抗メタボリックシンドローム作用

ドクタープロフィール

富山県立大学工学部医薬品工学科
バイオ医薬品工学講座 准教授
古澤 之裕 (ふるさわ ゆきひろ)

経歴

  • 富山県立大学工学部医薬品工学科バイオ医薬品工学講座准教授
  • 東京大学医科学研究所 特任助教、慶応義塾大学薬学部 助教、富山県立大学工学部 講師を経て、2020年より現職。
  • 腸内細菌を介した免疫機能の調節機構の研究を進め、Nature誌論文掲載。
  • 近年も「第7回バイオインダストリー奨励賞」「第21回杉田玄白賞・奨励賞」など数々の賞を受ける。
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