ドクターからの健康アドバイス

掲載4  腸内細菌と疾患(3):アレルギーと自己免疫疾患

1. 腸内細菌とアレルギー

私自身、最近はずいぶん治ってきたのですが、特に若い頃(20年前ぐらい)は花粉症がひどく、花粉症に効くといわれているものはいろいろ試しました。当時は紫蘇がよい、ヨーグルトがよいなど言われていましたが、年齢とともに揚げ物を避けるようになり、また野菜や全粒穀物を摂る食生活になってからだんだん症状が軽くなり、いまでは花粉症の薬(抗ヒスタミン薬や内服ステロイド)に頼ることもなくなりました。
事の真偽は定かではありませんが、当時腸内細菌がまだ注目されていなかったころ、花粉症にヨーグルトがよいと提唱した人は、腸内環境とアレルギーの関係性に何かしら気がつくところがあったのかもしれません。最近の臨床試験で、花粉症に関連したアレルギー症状である「目のかゆみ」や「くしゃみ」を減らすという結果を示したヨーグルトが登場してきており、現在では腸内環境とアレルギーについて密接な関係があるというのが通説です。
以前メタボの回で、ヒトの腸内細菌をマウスに移植した研究例をご紹介しましたが、同様のことがアレルギーモデルマウスでも検証されました。食物アレルギーと診断された子供と健康な子供の腸内細菌をアレルギーモデルマウスに移植したところ、健康な子供の菌を移植されたマウスのほうはアレルギー症状が軽減したという結果が報告されました(図1)。この検証でも、前回の炎症性腸疾患のコラムで出てきた制御性T細胞と呼ばれる免疫細胞の1種に差がみられており、腸内細菌による制御性T細胞誘導が免疫正常化のキーとなっているようです。
ちなみに私どもの最近の研究では、動物実験の結果ではあるものの、全粒穀物に含まれる食物繊維には腸内細菌を介して、制御性T細胞を誘導する作用があることがわかりました。もしかすると、小麦ブランやもち麦を積極的に摂る生活が、私の花粉症の症状を抑えるのに役立っているのかもしれません(と私が勝手に思っているだけかもしれませんが)。
また、ヒトでも疫学調査により、生後早期に抗生物質を服用し腸内細菌のバランス失調をきたしているとその後、アトピー性皮膚炎や喘息などのリスクが増加するというデータが得られています。別のカナダの出生コホート研究では、喘息発症群において酪酸産生菌であるFaecalibacterium属細菌をはじめとした短鎖脂肪酸産生菌の減少が認められており、炎症性腸疾患だけでなくアレルギー予防においても酪酸が重要な役割を担っていることが考えられます。

図1. アレルギーモデルマウスへの腸内細菌移植実験

2. 腸内細菌と自己免疫疾患

炎症性腸疾患の回でも紹介しましたが、本来は自分の身体を守るために働く免疫が、何らかの理由で暴走して自分の組織を攻撃してしまうと病気になります。腸内細菌を攻撃する際に誤って自分の組織も破壊してしまうのが炎症性腸疾患であり、自分の組織自体を敵と認識し、攻撃してしまうのが自己免疫疾患です。自己免疫疾患には関節リウマチ、1型糖尿病や多発性硬化症などがありますが、これらの疾患を呈する患者では、腸内細菌叢の撹乱がおこっていることが報告されています。興味深いことに実際、最初から腸内細菌をもたない無菌マウスでは、これらの疾患モデルを作成しても発症が軽減することから、腸内細菌と自己免疫疾患の発症には密接な関係があると考えられています。
自己免疫疾患のなかでも、関節リウマチは比較的身近で知られる病気ですが、その原因は免疫細胞が自身の関節組織を攻撃してしまうことにあります。最近の研究から、リウマチ患者でも腸内の酪酸が少なくなっていることがわかっており、先ほどのアレルギーも含め、全身性の免疫を制御する酪酸の重要性が示唆されています。またリウマチ患者群では、酪酸産生能をもたないPrevotella属細菌やLactobacillus属細菌が増加することが報告されていますが、現時点では疾患発症との関係はまだ明らかにされていません。今後、酪酸産生菌以外の腸内細菌についても、自己免疫疾患発症との因果関係の有無に関する解明が待たれます。

[参考文献]
1. Abdel-Gadir A et al. Nat Med, 2019
2. Chudan S et al. Food Funct, 2023
3. Chudan S et al. Molecules, 2023
4. Arrieta et al. Sci Transl Med, 2015
5. Bach JF. Nat Rev Immunol, 2018
6. He J et al. Sci Adv, 2022
7. Xu et al. Front Immunol, 2022
8. Scher JU et al. Elife, 2013
9. Zhang X et al. Nat Med, 2015

ドクタープロフィール

富山県立大学工学部医薬品工学科
バイオ医薬品工学講座 准教授
古澤 之裕 (ふるさわ ゆきひろ)

経歴

  • 富山県立大学工学部医薬品工学科バイオ医薬品工学講座准教授
  • 東京大学医科学研究所 特任助教、慶応義塾大学薬学部 助教、富山県立大学工学部 講師を経て、2020年より現職。
  • 腸内細菌を介した免疫機能の調節機構の研究を進め、Nature誌論文掲載。
  • 近年も「第7回バイオインダストリー奨励賞」「第21回杉田玄白賞・奨励賞」など数々の賞を受ける。
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