ドクターからの健康アドバイス

掲載10  予防接種の盲点

「予防接種」といえば、皆さんは何を思い浮かべますでしょうか。予防接種といえばインフルエンザを思い浮かべる方が多いかもしれませんね。予防接種はインフルエンザに限らず、「伝染のおそれがある疾病の発生および蔓延を予防するために、予防接種を行い、公衆衛生の向上および増進に寄与する」と厚生労働省がその目的を掲げています。目的達成のために、様々な予防接種が実施されているのにもかかわらず、伝染病が完全に撲滅されない現状を皆さんも目の当たりにしていると思いますが、これは一体、どういうことなのでしょうか。例えば、インフルエンザの予防接種を毎年、受けているのに、毎年、インフルエンザ感染症にかかってしまう人がいるのは何故なのでしょうか。

「受けた予防接種に含まれるインフルエンザの型と流行しているインフルエンザの型とが一致していなかったから」という理由を述べる方がいますが、それは真実ではないでしょう。何故なら、受けた予防接種に含まれるインフルエンザの型と一致している型のインフルエンザ感染症にかかってしまう人たちを、実際の臨床の現場で、私は診てきたからです。その一方で、受けた予防接種に含まれるインフルエンザの型と一致していないインフルエンザ型が流行していてもインフルエンザ感染症にかからない人たちもいましたし、予防接種を受けたことがないのにインフルエンザ感染症にかかったことのない人たちも実在します。これは一体、どういうことなのでしょうか。

そもそも、予防接種の中身は、病原体を感染の心配のないとされる程度まで弱毒化したものを用いるのが原則です。その弱毒化された病原体を接種すると、それが体内の免疫細胞と反応を起こし、その免疫細胞等によって処理されることで、いわゆる「免疫が付く」という状態が達成されます。ということは、予防接種が役に立つためには、体内の免疫細胞が正常に働ける状態にあることが必要だという仕組みに気が付くでしょう。つまり、免疫細胞が正常に働ける状態にない人が予防接種を受けた場合、「免疫が付かない」可能性があるということです。では、病原体と闘う免疫細胞が正常に働ける状態を達成するためには、どうすれば良いのでしょうか。

それが、これまでのコラムで述べさせていただきました『くう・ねる・あそぶ』…つまり、血流を良くするための食事(栄養)・睡眠・運動(排泄)です。これが病原体に打ち勝つための免疫細胞を養う礎です。ですから、予防接種を受けるとか、受けないとかといった議論をするのではなく、予防接種を受けても受けなくても、免疫を養うための『くう・ねる・あそぶ』を実践することが肝要であるという視点を持つようにしたいものですね。そうすれば、予防接種を受けただけで安心し、自らの不摂生を一切、正そうとしないことがいかに危険であるかに気付くでしょうから。

ドクタープロフィール

野口基礎医療クリニック 院長
内科医・産業医
野口 勇人 (のぐち はやと)

経歴

  • 2003年に日本大学医学部を卒業。
  • 研修医時代にオーストラリアの薬物リハビリテーション施設へ留学。
  • そこで病の真の原因と免疫、栄養の大切さを学ぶ。
  • 帰国後、首都圏内の民間病院・クリニックで総合的かつ根本的なケアに関する医療に従事する傍ら、予防医学やセルフ・ケアをテーマとした各種講演活動および動画出演、特別養護老人ホームの産業医活動、被災地ボランティア活動等を展開している。
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