ドクターからの健康アドバイス

掲載7  「血が流れない」前編

前回までの記事では、「血が足りない」原因とその解決策について紹介しました。今回からは「血が流れない」状態について、解説していきます。

血が流れない状態のことを、東洋医学の世界では“気滞” (きたい)または“瘀血” (おけつ)と呼びます。気滞とは、気鬱(きうつ)とも呼ばれ、生命活動を営む根源的なエネルギーと考えられている気の循環が停滞してしまっている状態を指します。一方で、瘀血(おけつ)とは、血の流れに障害をきたしてしまっている状態を指します。この状態には、血の流れる速度の低下、うっ滞、血流の途絶なども含まれます。つまり、いくら血をつくって、それを増やしても、血が流れない状態だと、身体の各部分へ血が行き渡らないことによる弊害が起こりうるということです。

この状態を招く原因として見逃せないのが、“ストレス”です。ストレスの影響があると、交感神経の過緊張状態を引き起こします。交感神経には血管の収縮を促す働きがあるため、この神経の働きが優位な状態であればあるほど、全身の血管が縮こまり、血が流れづらくなってしまいます。なお、心臓から全身に送り出された血が心臓へ戻る道のことを静脈と呼びますが、この静脈血の流れが滞ると冷えの原因になります。なぜなら、体温も栄養と同様、血の流れを介して全身に運ばれるからです。静脈血はリンパ液と同じように、心臓ではなく、筋肉がポンプの作用を果たすことで流れます。であれば、血の流れを良くするコツは「運動」にあるようです。

具体的な運動法について紹介する前に、ここで“ストレス”の定義を明確にしておきましょう。辞書によると、精神的・肉体的に負担となる刺激や状況がストレスであると定義づけられています。何故ここで、わざわざ“ストレス”の定義を明確にしたのかといいますと、ストレスは精神的なものだけでなく、肉体的なものもあるという事実が忘れられがちだからです。つまり、心にかかるストレスだけでなく、身体にかかるストレスも「血が流れない」状態を招く原因として見逃せないということです。重いものを持ち続けるといった状況が身体にかかるストレスとなりうるのは、理解できるでしょう。一方で、夜更かしやお酒の飲み過ぎも身体にかかるストレスとなりうるものです。なぜなら、身体の一部である内臓に負担をかけるからです。現に、お酒の飲み過ぎが続くことによって身体の一部である肝臓にストレスがかかり、「血が流れない」状態が慢性化すると、血のうっ滞をきたし、食道などに静脈瘤ができてしまいます。このような状態になってしまうことを『肝硬変』といいます。したがって、心だけでなく、身体にかかるストレスにも目を向け、対処していく必要があることを肝に銘じたいものです。

【参考文献:血流がすべて解決する/堀江昭佳・著】

ドクタープロフィール

野口基礎医療クリニック 院長
内科医・産業医
野口 勇人 (のぐち はやと)

経歴

  • 2003年に日本大学医学部を卒業。
  • 研修医時代にオーストラリアの薬物リハビリテーション施設へ留学。
  • そこで病の真の原因と免疫、栄養の大切さを学ぶ。
  • 帰国後、首都圏内の民間病院・クリニックで総合的かつ根本的なケアに関する医療に従事する傍ら、予防医学やセルフ・ケアをテーマとした各種講演活動および動画出演、特別養護老人ホームの産業医活動、被災地ボランティア活動等を展開している。
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