掲載6 「血が足りない」番外編
前回の記事では、理想的な就寝時間と起床時間について、身体のしくみに沿った解説をしました。今回は、睡眠に役立つ入浴について紹介していきます。
入浴といえば、疲れを癒してくれる助けとして有名ですよね。実は、入浴のしかたを工夫すると、他のことにも役立つのです。寝つきが悪くて困っているのであれば、就寝前に入浴するのが良いでしょう。なぜなら、深部体温を上手に変化させることが安眠へと繋がるからです。入浴すると、深部体温は一時的に上がりますが、その後の湯冷めで徐々に下がっていきます。この湯冷めが、深部体温の変化をスムーズにさせて、寝つきを良くしてくれるのです。
ということは、シャワー浴ではなく、「湯船に浸かる」ことが大切だと気付くでしょう。残念ながら、シャワーは身体の表面しか温めないため、深部体温までは上げてくれません。湯船に浸かる長さや温度の目安は、額に汗がにじむ程度です。血液を全身に運ぶポンプである心臓よりも上の高さにある額に汗がにじむということは、重力に逆らって全身に血が流れ、深部体温が上がり、新陳代謝が高まっている証拠といえます。ただし、温まりすぎて具合が悪くなったり、発汗による脱水で倒れたりしないよう、場合によっては換気をしながら入浴すると良いでしょう。
なお、諸事情で湯船に浸かることができない時は、足元から全身の血行を良くして深部体温を上げてくれる「足湯」でも、安眠の助けとなるかもしれません。
ちなみに、入浴は睡眠のためだけでなく、免疫のためにも役に立つことが研究上、証明されています。免疫を高めるために、体温を適度に上げたほうが良いという情報は、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?
国際医療福祉大学大学院の前田眞治先生は、「41℃のお湯に15分ほど肩まで浸かるだけで深部体温が上がる」と結論付けています。この情報そのものは、前田先生の研究結果に基づいた正しいものでしょう。ですが、この情報の中にある「41℃のお湯に15分ほど」というのを実践しても、成果が上がらないと感じる人がいます。なぜでしょう?それは、人によって個体差、つまり体温を全身に運ぶ血流の状態や代謝能が異なるからでしょう。また、季節や地域等の環境要因によっても、お湯の適温は変わる可能性があります。ですので、温度や時間にこだわるよりも、新陳代謝が高まっている証拠といえる「額に汗がにじむ程度まで湯船に浸かる」ほうが成果が上がりやすいかもしれません。
【参考文献:血流がすべて解決する/堀江昭佳・著】