掲載11 オメガ3とオメガ6のバランス
オメガ3系高度不飽和脂肪酸とオメガ6系高度不飽和脂肪酸とは、代謝に際し多くの酵素系で互いに競合し、さらにそれらの代謝産物であるエイコサノイドの生理機能(例えば、血管の反応性、血小板凝集性、炎症性など)も大いに異なる。ある部分では拮抗的に、あるいは相乗的に作用する。したがってオメガ3とオメガ6のバランスは食事摂取基準の判断に際してだけでなく、種々の循環器系疾患リスクのバイオマーカー値の意義理解に際しても役だつ。
現時点でオメガ3とオメガ6のバランス(n-6/n-3比)は、欧米諸国の食事では10~20程度とオメガ6が非常に高いと見積もられている。現状は、生活習慣病などは全くなかった原始狩猟時代での値1~2のようなオメガ3高値とは大きくかけ離れていて、多くの慢性疾患に苦しめられる原因となっているとの主張がある。現在の生活習慣病全般は、ほとんどがオメガ6系高度不飽和脂肪酸(ほとんどはリノール酸)の過剰摂取に起因するものであると言われており、魚食民族である日本人の平均値4前後のオメガ3系高度不飽和脂肪酸が豊富な食事は、欧米諸国の医師・研究者や栄養学者にとっては羨望の的となっている。
疾病ごとにオメガ3とオメガ6のバランスの最適値は異なる可能性も考えられるので、食事摂取基準などでの推奨に際しては十分な配慮が求められ、日本人の場合、魚類の消費が少ない若い世代では注意してオメガ3を多く摂取する必要がある。
また現在では、摂取比よりもむしろ摂取量そのものに注目する見解もあり、心臓疾患の発症はEPA+DHAという摂取量をバイオマーカーとした場合に良好な結果が得られており、食事摂取基準でも絶対量で示す例が多く見られる。
結論的には、オメガ6系の摂取を減らすこともさることながらオメガ3系の摂取を増やすことがリスクの低減をもたらすことになる。この対応は、心血管の健康を改善することができる唯一の、そしてもっとも有効な食事対応策であることが指摘されている。
心疾患ばかりではなく、これまで述べてきた多くのオメガ3系高度不飽和脂肪酸関連の疾病発症予防効果やリスク低減作用にも、より広い視点からの判断が必要と思われる。