掲載 2 エイコサペンタエン酸の血小板凝集抑制作用と医薬品化
「魚食」や「魚油摂取」に関する疫学調査は、1970年代初期以来、枚挙の暇がない程であるが、その成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の研究にはその後20年が費やされてきた。疫学研究より推測されたEPAの血小板凝集抑制作用(抗血栓、抗動脈硬化作用)のメカニズムを明らかにするために、イワシ油由来の高純度EPAエチルエステルの健常人、及び種々の血栓症を起こしやすいと考えられている疾患(虚血性心疾患、動脈硬化症、糖尿病、高脂血症)患者に投与し、血小板および赤血球機能や血清脂質に与える影響を検討した。その結果、EPA投与によりヒト血小板膜リン脂質脂肪酸組成、血小板エイコサノイド代謝および血管壁プロスタグランジンI産生を変動させ、血小板凝集抑制作用が見られた。また、EPAは赤血球膜リン脂質に取り込まれ、その化学構造に由来する物理化学的性状から赤血球膜の流動性が増し、すなわち赤血球変形能が増加することにより血栓症の予防に役立っていることが推測された。さらに、血清トリアシルグリセロ-ル値の低下がみられた。つまり、高純度EPAエチルエステルは高脂血症患者の血清脂質の改善、各種血栓性疾患での昂進した血小板凝集の是正、血栓性動脈硬化性疾患の臨床症状の改善が推定された。
このように先行したEPAに関する研究・開発の結果、1990年に我が国で世界にさきがけて高純度EPAエチルエステルが「閉塞性動脈硬化症」を適応症とした医薬品として上市され、さらに1994年には中性脂肪低下作用から「脂質低下剤」として薬効拡大の申請が認可されており、以来20数年以上も臨床医からは副作用の少ない使いやすい医薬品であるとの評価を得ている。その後ジェネリックの出現とスイッチOTCへの移行(2012年)などEPA市場は拡大の一途である。
なお、2004年には中性脂肪の低下作用が認められ特定保健用食品に認可されている。