ドクターからの健康アドバイス

掲載 6  「炎症性大腸疾患やクローン病とオメガ3系脂肪酸」

炎症性大腸疾患やクローン病は難治病として特定疾患指定を受けており、正確な発症メカニズムと的確な医薬品が無いのが現状と言える。

1980年代の終わり頃より炎症性大腸疾患に対する魚油による介入試験が見られるようになった。最初の二重盲検法による検討が行われた。29名のクローン病(Crohn’s disease: CD)患者と10名の潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis: UC)患者による、7か月におよぶクロスオーバー試験で、従来の治療は続けたままとした。魚油の投与(3.2gのEPA+DHA/日)により、CDで29人中13名、UCで10人中8名に内視鏡的な改善が見られ、両疾患を総合すると有意に改善が見られた。その後長期の大型介入試験が行われた。96名のUC患者に1年間にわたり4.5gのEPAあるいはオリーブ油を二重盲検法で投与したところ、魚油群では活動期の患者のステロイドを減らすことができたが、寛解期の患者については、再発予防効果は見られなかった。魚油群では好中球からのLTB産生が抑制された。他にも比較的小規模だが、UCに対する二重盲検クロスオーバー試験が2つあり、18名に5.4gのEPA+DHAを4か月投与したところ、プラセボ(植物油)に比較して、大腸生検スコアの改善、体重の増加(1.7kg)、直腸での透析液中のバイオマーカーのLTB4の大幅な減少が見られており、11名にEPA+DHA 4.2gを3か月投与した研究では、プラセボに対し、症状の改善(56%)が認められた。また、再発の危険が高い78名のCD患者での1年間におよぶ二重盲検試験によると、腸容カプセルに入った遊離脂肪酸のEPA+DHA(2.7g/日)では再発率が28%であったのに対して、プラセボ群では69%と高く高度な有意差があった。ほかにもUC、CDに対して介入試験が数報発表されているが、全ての研究においてオメガ3に何らかの効果があることが確認されている。

これらは、生命そのものに食品の選択が影響する事を示すものと言える。さらに、オメガ3系脂肪酸の内、EPAやDHAは、同様な研究によりα-リノレン酸の数倍の脂質メディエイターの産生抑制作用を有することも知られており、海産成分に特有のEPAやDHAの抗炎症・抗アレルギー作用は「魚食による知的食生活」においては重要である。

ドクタープロフィール

早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構
規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 研究院教授
矢澤 一良 (やざわ かずなが)

経歴

  • 京都大学卒業、農学博士(東京大学)。
  • (株)ヤクルト本社・中央研究所、(財)相模中央化学研究所にて勤務後、2000年に湘南予防医学研究所設立(主宰)。
  • その後、東京水産大学大学院(現東京海洋大学大学院)客員教授 、東京海洋大学特任教授を経て、現在、早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部 研究院教授。
  • DHA/EPAに関する研究の功績に対する評価により、日本脂質栄養学会より学会賞「ランズ産業技術賞」、マリンバイオテクノロジー学会より学会賞「岡見賞」を授与される。

<主な著書(全著書120冊以上)等>
「マリンビタミン健康法」:現代書林 (1999)、
「ヘルスフード科学講座」:食品化学新聞社(2007)、
「アスタキサンチンの科学」:成山堂(2009)、
「マリンビタミンで奇跡の若返り」:PHP研究所 (2010)、
「機能性おやつ」:扶桑社(2012)など、その他論文・特許出願多数。

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