掲載 5 「オメガ3系脂肪酸による炎症性脂質メディエイター産生の制御」
オメガ6系脂肪酸であるリノール酸の過剰摂取、または直接アラキドン酸を摂取した場合には、シクロオキシゲナーゼ産物(プロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TX))などのアレルギー・炎症メディエイター活性が強くなる。 一方α – リノレン酸(オメガ3系脂肪酸)由来、または直接EPAやDHAを摂取すると、上記シクロオキシゲナーゼ産物は作られにくく、作られてもトロンボキサンは活性がきわめて弱い事から、アレルギー・炎症などを抑制できる。リポキシゲナーゼ産物(ロイコトリエン)のうち、オメガ6系脂肪酸由来のロイコトリエンBは血管透過性亢進、白血球遊走等の活性を示し、即ち炎症や浮腫を引き起こしやすくなるが、EPAやDHA摂取はその作用が殆ど見られない。
また、血栓などを引き起こす血小板活性化因子(PAF)の前駆体リン脂質は高度不飽和脂肪酸を含み、摂取油脂のオメガ6を減らしてオメガ3を増やすと、この産生量が大幅に減少して血栓症などを予防できる。高リノール酸サフラワー油群に対して、低リノール酸‐高α – リノレン酸のシソ油群では、PAF産生量が半分ほどに下がる。このことは種々の疾患発症の予防に関わる事も推定できる。
このように、摂取油脂のリノール酸系列(オメガ6)を減らしてα – リノレン酸系列(オメガ3)を増やす(あるいはオメガ6/オメガ3比を下げる)と、アレルギー・炎症メディエイターの産生量、活性が大幅に低下することが明らかになった。実際のオメガ6/オメガ3比を下げることの効果は以下のような報告がある。アレルゲンの連続投与によるマウスのアナフィラキシー様ショック死のモデルで死亡率を比較すると、統計上有意にサフラワー油群よりシソ油群の方が、身体のアレルギー反応性を抑えた。すなわち、全動物レベルでもオメガ6/オメガ3比を下げることの有効性が証明されたといえる。このアナフィラキシーショックは、そばアレルギー、蜂に繰り返し刺された時、薬アレルギーの時などに見られる重篤な症状であるので、生命そのものに食品の選択が影響する事を示すものと言える。さらに、オメガ3系脂肪酸の内、EPAやDHAは、同様な研究によりα – リノレン酸の数倍の脂質メディエイターの産生抑制作用を有することも知られており、海産成分に特有のEPAやDHAの抗炎症・抗アレルギー作用は「知的食生活」においては重要である。