掲載4 加齢と生活習慣
人の体は、体内環境を一定に保つホメオスタシスというメカニズムが働き、血圧や血糖値を一定に保つようになっています。
ところが、生活習慣が悪いと加齢とともにそのホメオスタシスが崩壊します。加齢とともに体重、血糖値、血圧、コレステロール値などが上昇してきます。
血糖値を毎年測定していくと基準値内で徐々に上昇してくる現象が確認されます。また、血圧も20代のころに比べ少しずつ上昇してくることは、誰もが経験していると思います。
そのような体内環境を一定に保つホメオスタシスの破たんは、悪い生活習慣によってもたらされます。生活習慣の中心となるのは「食」です。何をどのように食べるか、何時に何を食べるかで、その人の人生を変える可能性があります。
比較的最近、時間栄養学と言われる新しい栄養学の分野が誕生し、活用されるようになっています。たとえば、BMAL1(ビーマルワン)と言われる時計遺伝子の発現が高まる夜中の2時に食事をすると太りやすいと言われています。
逆にその発現が低下するお昼の3時は、太りにくい時間帯となります。昔から言われているおやつの時間というのは、現代医学の視点からしても正しいものになります。
また、食事の仕方、食べる順番によっても太る、太らないが変わります。お米を最初に食べる場合と、おかずから最初に食して最後にお米を食する場合では血糖値の上がり方が異なり、同じカロリーでもお米を最初に食すると血糖値が高くなることがわかっています。太るホルモンであるインスリンもより上昇する結果となります。
血糖値の上昇は、最終糖化産物を産生して体の酸化や老化の原因になります。糖質をより多く摂取すると同じく体が酸化しやすくなります。食事のボリュームや摂取カロリーは家庭によって異なります。1食の食事量が多い家庭で育つと、その子が独り立ちした後でもカロリーオーバーの食を続けるようになり、肥満となります。
青魚をほとんど毎日食べる女性は乳癌になるリスクが約半分低下するという報告があります。また魚、豆、野菜食の多い人は、シワの形成を抑制するという報告もあり、食べるもので抗加齢が実現できることになります。
調理法も生活習慣の一つとして挙げられます。フライパンや炭火を用いた焼き料理、あるいは食用油を用いた揚げ物は、有害物の最終糖化産物やアクリルアミドを発生させ、体を酸化、あるいは老化させます。
睡眠も重要なライフスタイルの一つになります。シフト制勤務で睡眠時間帯がバラバラになる男性は前立腺がんの発症率が、3倍以上になることが知られています。また、睡眠障害があると免疫力が低下することも知られています。
加齢に伴って生活習慣が形成される部分がありますが、その基礎が形成されるのは子供の頃であることは、外来を通した臨床経験を重ねるにつれてそのように考えるようになりました。
親のライフスタイルを見本として、子供はそれをまねるようになります。三つ子の魂百までということわざがありますが、子供の頃、親と一緒に過ごした時間は、その人の食生活やライフスタイルに大きく影響します。親が敷いた生活習慣のレールは、子供の将来を左右する大切なものになります。
外食、添加物、着色料、インスタント、ファーストフード、ジャンクフード、揚げ物、糖質過多、トランス脂肪酸など、食事の質やバランスを気にしない家庭で育つと、子や孫にその習慣が踏襲されるようになり、将来何らかの疾患を発症することになるでしょう。
人生の基礎となる食習慣の良し悪しは、人生の後半で「くさび」のように大きな変化をもたらします。生活習慣は自ら作るものですが、そのほとんどは家庭環境で形成されるものになります。加齢には生活習慣がかかわります。生活習慣を形成する家庭の大切さが重要となります。
生活習慣で加齢が起こるという考えが主ですが、生活習慣はコントロールするものであり、それによって加齢をコントロールする、すなわち抗加齢の実践が可能となります。
本人が自分自身でコントロールすることも重要ですが、家庭ぐるみで将来にわたって子や孫の生活習慣コントロールの基礎となる模範的な生活習慣のレールを敷いてあげることによって、親から子へ抗加齢、あるいは健康のプレゼントをすることになります。
生活習慣が災いして加齢し、発病しないためにも、本日からでも食やライフスタイルについて、家族内で考えてみてはいかがでしょうか?