ドクターからの健康アドバイス

掲載12  頚コリ症候群の治療法と対策②

「キツツキ」体操

枕について人それぞれ色々なご意見があろうかと思いますが、まず私の見解を述べます。枕の高さは5cmをお勧めします。枕の材料などについても様々な議論はあろうかと思いますが、私は自宅にある使い古しのタオルを重ねて約5cm厚に調整しています。上からシーツを被せれば大きな枕が出現しましょう。日本の学会にも5cmを推奨しているものがあるようです。この段差は心臓と頭部との関係を考慮したものです。循環動態的にみて、頭蓋内の静脈系には洞構造(静脈洞)として静脈血が溜まりやすいことは先のコラムで既に説明しました。ですから睡眠中に緩斜面で脳内から静脈血がゆっくり流れて心臓に戻るようにすることは良いことです。
寝る姿勢にもコツがあります。後頭部をこのタオル枕に向かって押し付けるように下方に力を入れることです。慣れないうちはアゴが上がりやすいですが、ゆっくりアゴを引くように意識すると、うまく出来るようになります。これを何回か繰り返して、あとは寝てしまってください。これを毎晩くりかえし行います。

「ハトポッポ」体操

椅子に座るか、立位の状態で行います。2拍子でアゴを前に少し出したり、大きく引いたりする基本運動です。その際、顔を少し前に出した時に吐き出し呼吸でハーハーの2拍子、次いで顎をグーっと引いてスースーの吸い込み2拍子を行います。前後に頭が動くのでハトポッポ体操です。2拍子の呼吸はマラソンなどの運動時の呼吸法であり、自然と腹式呼吸になります。この体操は動かないで行っても、歩きながら行ってもよいでしょう。日ごろの動作として常に行える姿勢の改善法です。
この姿勢は、たとえば事務仕事の際だけでなく、歩行時や電車内での立位あるいは座位の際でも揺り動かすとより効果的です。私はこの体操のおかげで深刻な症状から脱することができました。

「背中枕スタイル」体操

布団あるいはベッドの上で仰向けになり、頭の位置を枕の上にずり上げると、枕の上に背中が来ます。枕の位置を動かすことで頭が少し下がるか、大きく下がるか調節ができますね。日ごろから大きく前のめりの人は、頭を少し枕の上に置いて、背中に広く枕が来るようにします。頚に痛みが無いくらいでアゴを後ろに引き、すぐに前に戻しと繰り返します。この運動により前のめりが直って頭の位置が後方にいきます。こうなると、徐々にストレートネックが治って、最終的に健康な前弯状態に戻ります。

サプリメントの活用

大和薬品のサプリメントNKCPは微小循環改善効果があります。抗炎症剤であると同時に、血栓形成を防ぐバイアスピリンなどもありますが、薬物であり強力過ぎます。頚部の筋肉群は頭の重さをものともせずに、ハエを追いかけるほどの強力な力を発揮します。これらの筋肉群の微小循環障害を解消しなければなりません。NKCPは肩コリ、頚コリに有効という臨床治験が学会誌に報告されています。
同じく大和薬品のバイオブランは免疫調整作用を有します。マクロファージとリンパ球の話し合いである免疫機能を調整し、NK細胞を活性化させることが示されています。これら免疫細胞の表面には自律神経系のシナプス伝達物資であるアセチルコリンの受容体が発現しているのですが、このことは、免疫系と自律神経系がお互いに話し合っているという驚くべき事実を我々に伝えてくれます。この関係性により首コリからくる自律神経障害がうつ症状も起こすわけですから、たとえば松井法に加えてバイオブランを服用することは、私達の体のバックボーンをサポートすることにつながるわけです。

付録:病理専門医としての頚コリ体験

私は大学卒業後の1年間、母校で病理診断医となるべくトレーニングを受けました。病理診断医とは、患者様の病気の原因を顕微鏡レベルで追求し、確定診断をする専門医です。顕微鏡は皆様もご存知と思いますが、双眼顕微鏡をのぞきながら、多くの患者さんの病気を形でとらえて診断し、治療に結び付けるというキーパーソンです。治療の効無く、不幸にしてお亡くなりなった患者さんの体を解剖して、最終診断を下す時にも主役でかかわります。私は700例以上の患者さんの最終診断の責任を取った、世界でも稀な経歴の医師であると自負しています。
しかしその顕微鏡観察時の姿勢は決して素晴らしいものではなく、前のめりでの無理な姿勢のまま何時間も顕微鏡をのぞき続ける過酷な仕事でした。今でも顕微鏡の双眼での観察は、別世界に飛び込むみたいに大好きですし、新たなものを他人よりも早く観察できることは、無上の喜びでもあります。しかし当時の私はいわゆる職業病としての姿勢異常を理解していなかったのです。ある日背中に槍が刺さった様な激痛に襲われてから、原因が首の微小循環障害であることに気づきました。それは「冷え症」に効果のあるという「修治附子末」という漢方との出会いがきっかけでした。その後約5年をかけて姿勢の矯正にも努めました。
頚コリは前のめりの姿勢と深くかかわっており、仕事の内容と密接にかかわります。システムエンジニア、パソコンを使った事務系仕事、哺乳の姿勢、ネイル関係、絵画家、漫画家、ピアニストなどなどの姿勢は頚コリ症候群の頻度が高い職種です。頭の重みは背部の僧帽筋群と前胸部の大胸筋群に負担をかけるので、前胸部痛や肩甲骨間部痛となります。前胸部痛は心臓の病気とかかわることで、患者の自覚的に重症度が増します。頭の重さがもたらす影響は背中から腰までに及びます。

森田療法と東大学生のノイローゼ

いわゆるノイローゼ症状の治療に用いられる手法の一つに、森田療法と呼ばれるものがあります。この精神療法では、初めに1週間薄暗い部屋で横臥の状態で落ち着いて瞑想する必要があります。これを別の角度から見ると、横臥することは頭の重さの負担を首にかけないようにするということでもあります。松井病院(香川県観音寺市在)での治療法は、横臥することが前提です。そして理学療法もあります。瀬戸内海からの海の幸は体にも精神的にも良い影響を患者さんに及ぼすはずです。
以前からいわれていたノイローゼや不安神経症などはおそらく頚コリ症候群でしょう。

「東大学生のノイローゼ」が一時期問題となりました。いわゆる「ガリ勉」は前のめりで朝から晩まで勉強しているイメージでしょう。このような長時間硬直した頚の前のめり姿勢はまさに現代のスマホ病と共通のものでしょう。

英語の論文 4報

Matsui T,…Endo Y,…: Effect of intensive inpatient physical therapy on whole-body indefinite symptoms in patients with whiplash-associated disorders. BMC Musculoskeletal Disorders. 2019:20:251-259. doi: 10.1186/s12891-019-2621-1

Matsui T,…Endo Y,…: Cervical muscle diseases are associated with indefinite and various symptoms in the whole body. European Spine J. 2020:29:1013-1021. doi: 10.1007/s00586-019-06233-5

Matsui T,…Endo Y,…: Possible involvement of the autonomic nervous system in cervical muscles of patients with myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome (ME/CFS). BMC Musculoskeletal Disorders. 2021:22:419-428. doi: 10.1186/s12891-021-04293-7

Matsui T,…Endo Y,…: Cervical muscle stiffness and parasympathetic nervous system improvements for treatment-resistant depression. BMC Musculoskeletal Disorders. 2022:23:907-915. doi: 10.1186/s12891-022-05860-2

ドクタープロフィール

浜松医科大学(第一病理) 遠藤 雄三 (えんどう ゆうぞう)

経歴

  • 昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。
  • 虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。
  • カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。
  • 現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。
  • 免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題>
生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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