ドクターからの健康アドバイス

掲載8  免疫系と不眠症

不眠症

不眠症も首コリ症からくる合併症としては大変重要です。ですが不眠症の原因は患者さんを取り巻く環境によって様々であり、的がなかなか絞れません。たとえば会社の人間関係、仕事上の葛藤、あるいは家族内の精神的な葛藤など、一筋縄でいきません。
昼夜関係なく働いているような極端な場合を除き、通常ヒトの身体は「24時間とちょっと」を一日のリズムとして、体温やホルモン分泌などの身体機能をうまいこと調整しています (サーカディアンリズム[*1])。しかし私たちの体が刻むリズムは地球の1日の周期よりも若干長くなっているので、私たちは体外からの様々な情報によりこのサーカディアンリズムを補正しながら生活しています。体外からの様々な情報というのは、五感はもとより前回のコラムで述べたような自律神経の感覚情報や求心線維情報が含まれます。嗅覚、視覚、聴覚と平衡覚を除く体感からの感覚神経情報は、視床という場所を通って大脳へ行って処理されます。それ以外の自律神経である交感神経系と副交感神経系の感覚 (求心) 情報量は未知ですから推測するしかないですが、多量であることは間違いありません。これら体外からの膨大な情報の中継点として最重要な部位が視床下部という脳の小さい原始的な部分なのです。これと松果体に連なる網様体賦活系の複雑なニューロンの連携が、睡眠を造り出しているといわれています。
注目すべきは、情報の原因は体の外にあるという点です。この異常が不眠症の原因です。本来は情報が少ないはずの夜の時間にさまざまなゲームやスマホ通信、動画視聴などして過ごすのはいかがでしょうか。夜中になると急に元気になって、バクバク食べまくったりすると視床下部に入った情報から内分泌系に作用して体重が急速に増えだします。ショックな出来事をきっかけに月経が止まったりもします。あるいはどんどん痩せて体重が30kgまで落ち込むような神経性食思不振症です。情報過多はこわいものです。
この視床下部という部位には、本能に関する私たちの「気」が宿っているわけです。ここでいう「気」とは、様々な未知の感覚情報から形成されているものです。私としては視床下部は「キノモト」=「気の元」ですから、視床下部はまさに「元気」です。この元気は朝に日の光を浴びることで活性化され、神経伝達経路上で視床下部の下流に位置する脳下垂体に信号を伝えると、内分泌系を介して体中に元気が行き渡るのです。

免疫系と睡眠の関係性

バイオブラン[*2]という修飾米ぬかアラビノキシランは、ヒトの免疫系の細胞たちを上手にサポートしてその働きを調整します。免疫系の主力細胞のマクロファージとリンパ球は神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体を持っていることが証明されています。つまり免疫系は、アセチルコリンという物質を介して自律神経系と互いに話し合えているわけです。ということは視床下部とも話し合えていることになるわけで、脳下垂体を介して内分泌系とも情報が共有されていることになります。現在、免疫系-自律神経系-内分泌系の三系統がお互いの機能に影響を及ぼし合うということが証明されてきており、バイオブランの「元気さを誘導するメカニズム」がわかりつつあるのです。これらの関係を、睡眠の場合で考えてみると次のようになるでしょう。
体の末梢にある免疫系と自律神経系が話し合い、鎮静を促す求心情報が視床下部に到達します。自律神経の中枢である視床下部は内分泌系の上位に位置しているので、さらに内分泌系を介して体全体に「静まれ」と命令することで、身体全体が睡眠状態に陥っていくことになります。末梢からの免疫系の働きかけが、質の良い睡眠へとつながっているのです。

不眠症の治療

姿勢からくる首コリ筋の緊張を原因とする入眠障害に対して、松井法は大変に有効です。後頚部の温めを加えることで、頚部筋肉の弛緩化は症状改善の重要なきっかけとなるはずです。一方で継続的な頚部筋肉の弛緩化にはやはり「前のめり姿勢」に十分気を付けて行く必要があります。この姿勢矯正については、次回以降の稿で詳しく説明します。

*1 サーカディアンリズム:
概日リズムとも。体内時計により形成される、およそ24時間周期を刻むリズムのこと。
*2 バイオブラン:
大和薬品株式会社で開発された米ぬか由来の食品原料で25年以上、56の国と地域で販売されている。

ドクタープロフィール

浜松医科大学(第一病理) 遠藤 雄三 (えんどう ゆうぞう)

経歴

  • 昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。
  • 虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。
  • カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。
  • 現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。
  • 免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題>
生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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