掲載3 首の構造と頭痛=頭皮痛のおこりかた
頭-首-背中-腰の軸と肩・上肢ならびに腰-下肢の解剖生理学的構造と機能にはどのような特徴があるのでしょうか。私たちの体は骨、筋肉、運動神経、からだの津々浦々にひろがる感覚神経 (侵害神経=痛み神経を含む)、自律神経、筋膜などの結合組織そして栄養補給の血管、リンパ管系がものの見事に調和が取れて分布しています。まさにオーケストラ調和ですし、優勝チームのグループスポーツです。
古代の狩猟時代、私たちの祖先は、頭を支えながら背伸びして、周囲を見まわし、怖い動物や敵を見張らなければなりませんでした。そのために重要な身体器官である頸椎 (頚部の骨) は7個あります。その数は哺乳類で保存されており、ヒトでも、「首の長い」で連想されるキリンといえども変わりません。頚椎はゆったりと前弯しているのが特徴で、これを形造っているのが、首全周にある30数個の首コリ筋群です。頚椎の前弯は、ちょうどバネのような役割を果たしていて、重量約4 kg *1の頭部を効率的に支えています。頸椎からさらに下にいくと胸椎は後弯し、腰椎は前弯、下肢は大腿部と下腿部が側方に弯曲しているわけです。ヒトはバネ仕掛けで4 kgの頭部を運ぶ動物であるということができます。
頸椎周辺の多数の筋肉群は、ただ頸椎を背伸びさせているだけではありません。たとえばハエがあなたの方に飛んできた時、即座に対応できるような素早い筋肉群でもあります。4 kgもある頭部を自在に上下左右に動かして、ハエを狙い、払い落とそうとする時の各種神経と筋肉群の瞬時の反射運動を考えると大変な驚きであり、私は奇跡かと思うほどです。これらの筋群の不調がまさに、頚部の構造と機能と密接にかかわる自律神経障害であり、うつ症状であり、頚静脈うっ血に伴う内耳リンパ障害からくるめまいと耳鳴りなのです。
首の後ろには、もう一つ重要な大きな筋肉があります。それは肩こり筋 (僧帽筋) という単純で大型の筋肉で、首から腰に近い部分まであります。首コリ筋群とは対照的です。何をしている筋肉かというと、両耳の間の後頭部の頭蓋骨に付いており、一日中頭を引っ張り上げている「クレーン車」みたいな単純筋です。ところが、この筋肉の頭蓋骨との付着部には左右4対の重要な頚髄神経が通り、その他にも細かい神経が通過する部位でもあります。パソコン仕事などで長時間前のめり姿勢でいると、肩こり筋はこれらの4対の神経と周辺の細かい神経を逆なでしてしまい、それぞれの神経の領域の痛みになって症状が激烈となります。頭痛の本体とは実は、この肩こり筋が起こす神経痛であり、実は頭痛ではなくその周辺部位の「頭皮痛」なのです。他の研究者たちは頸性頭痛という呼び名を提唱しています。*2
4対の頭皮痛の特徴は、大変興味深いです。たとえば、前のめりの姿勢から起こる肩こり筋のツッパリが刺激となり大後頭神経を痛めると、目玉の痛みあるいは重苦しさ、眼精疲労と称する症状が起こります。「眼精疲労」ということばの不思議さとごまかしは理解できません。「目に精神」はありますか?眼科的な定義にある様々な症状はまさに首コリ症状と瓜二つです。わたしは、眼症状のある患者様の頭部MRIを1000例以上観察、診断しましたが、眼球後部自体には全く異常はありませんでした。患者様の訴える目の症状は、実は大後頭神経の広がりによる関連痛を勘違いしているものなのです。大後頭神経は後頭部から頭のてっぺんの方に広がっています。この神経の枝が、目の方から広がる三又神経の眼神経の枝とからまり刺激することにより、関連痛を引き起こしているのです。ですから、目玉の痛みや眼精疲労の症状があれば点眼などせずに、姿勢をよくして後頚部を温湿布で温めることを根気よく毎日繰り返すと、一週間から数週間で改善します。松井法という特殊な低周波電磁波と遠赤外線の理学療法を用いれば、数回の治療で改善します。この「局所温め」治療効果を分析すると、「頭皮痛」も「眼精疲労」も、「炎症」とは全く反対の首コリ筋群内の「微小循環血流障害」だったのです。ということは「大和薬品のNKCP」の微小循環改善サプリも有効という推論は成り立ちますし、実際に臨床データでも効果が確認されています。*3
さらにヒトの解剖学的構造の特徴として、魚のように首と胴体が直接接続しているわけではなく、7個の頚椎骨の長さでせり出しているという形です。これは進化論的には、ヒトや哺乳類の生活習慣として頭部がかなりの長さで伸び出すように頚部が進化するような選択圧を受けた結果なわけです。さて、首の長さの不思議さを考えたとき、付随する様々な身体構造も首に引っ張られる形で伸び切っているのでしょうか。
例えば、副交感神経の迷走神経はどうなっているのでしょう。脳神経系の第10番目の迷走神経は延髄から発して頭のてっぺんから腹部の大部分にまで支配領域があります。首のないイルカやクジラのような哺乳類と、首の長くなった類人猿のような哺乳類とではどのように迷走神経の走行に差があるのかが興味深い点です。あるいは頚部の伸び縮みするカメではどうなっているのでしょうか。類人猿では、声帯に分布する反回神経は頭から発した神経が胸部まで降りて大動脈弓部を潜り抜けた後、再び頭部の方へ上行して、喉ぼとけの高さで声帯にたどり着きます。この神経を胸部外科手術で傷つけますと、しゃがれ声となってしまいます。反回神経の解剖学は、外科手技の基本です。
[注釈]
- :頭部の重量は首の上端で水平断すると、大脳、小脳、中脳と延髄 (約1500g)、それに顔と頭の皮膚と筋肉、頭蓋骨などで約2500 gの総計4000 gが妥当な推定です。米国の最近の論文では、5000 gとなっていますSurg.Technol.Int. 2014, 25, 277.
- :頸性頭痛:小島、黒岩:脊椎脊髄 7(11):837-842, 1994.
- :Effects of Products Containing Bacillus subtilis var. natto on Healthy Subjects with Neck and Shoulder Stiffness, a Double-Blind, Placebo-Controlled, Randomized Crossover Study, Biol Pharm Bull. 2018 Apr 1;41(4):504-509