ドクターからの健康アドバイス

掲載6  カンジダ菌との上手な付き合いかた

カンジダ菌が暴れだすと多様な健康トラブルをおこすことを前回までに紹介しました。最終回の今回は、カンジダ菌とどう付き合っていくべきか考えてみましょう。ここまでに述べてきたように、私たちほ乳類は消化管を含めた体の周辺からカンジダ菌を完全に排除することはできません。したがって、うまい付き合い方の基本は、カンジダ菌を増やさないことと、カンジダ菌がたとえ存在しても体内に侵入するのを防ぐ力をつけることだと言えます。

1.カンジダ菌を増やさないためには 

すでに3回目のコラムで書いたように、カンジダ菌を減らす健康習慣を守っていくことが大切です。食生活の注意が一番でしょう。多くの植物成分には、カンジダ病原性を低下させる成分が知られており、それらを毎日の食事でとることがカンジダ菌を増やさないポイントです。野菜に含まれるカンジダ菌を減らす成分としてはテルペノイドが良く知られております。 それらは煮たり焼いたりすると活性がなくなるものが多いので、新鮮なものをとる注意が必要でしょう。さらに、植物油に含まれる中鎖脂肪酸と言われるカプリン酸やラウリン酸を多く含む食事をとることも有用です。

それとともに重要なのは、カンジダ菌の病原性を高める食品を摂取しないようにすることです。最も過剰摂取が危険なものは、糖質です。もともとカンジダ菌の先祖は、花の蜜などを栄養にしていきていたため、利用しやすい単糖がある環境では、勢いよく発育増殖します。最も一般的なブドウ糖のほか、ほとんどの単糖,二糖類の存在で病原性が増します。さらには昆虫や甲殻類の体表成分を作るアセチルグルコサミンというアミノ糖に対して強く反応して、菌糸形という病原性が強い形になり、消化管壁にカンジダ菌が食い込みやすくさせます。私たちの実験結果からは、天然のハチミツも少量で強くカンジダ菌の発育を増やしますので避けたほうが良いと言えます。現在、ロカボ食という糖質を制限した食事療法が流行っていますが、それはとりもなおさずカンジダ菌を増やさない食事法ということになります。ここで注意するべきなのは、糖質ではないコラーゲンを小さくしたゼラチンにもカンジダ菌は反応して、菌糸形発育をすることです。食べるのを控えるべきです。多くのケーキ職人はゼラチンをよく使いますが、彼らに特に言いたいのは,寒天にはその作用が全くありませんので、ソフトな柔らかさをつけるのにはできる限りゼラチンを使わないようにしてもらいたいということです。

食べ物だけでなく、口腔ケアも大切です。口腔はカンジダ菌の居場所であるだけでなく、そこで増えたカンジダ菌は食べたものと一緒に消化管に流れ込み食道、胃、腸にカンジダ菌をばら撒くからです。口腔ケアとしては食後以上に就寝前の歯磨き習慣が重要です。歯磨きの際に注意することは、カンジダ菌は、解剖学的に奥まったところに斑点状に固まって不均一に分布していますので、カンジダ菌が固まっていわば巣を作っているところを念入りに洗浄することです。50歳以上になりますと歯と歯の間に微妙な隙間ができそこが穴状に奥まってくるとカンジダ菌の隠れ家になります。歯間ブラシなどできれいに磨くのがポイントです。最近、殺菌剤が入ったうがい液が販売されて、使用すると口もすっきりします。このうがい液を使うことで、カンジダ菌も一時的に激減できますが、他の常在微生物フローラ、表面の粘膜細胞にも打撃を与えます。その結果、口腔微生物フローラに強い影響をあたえますので、日常的に習慣化することは薦められません。

2.カンジダ菌の体内への侵入を防ぐ力をつける 

ここまでに述べてきたように、カンジダ菌を完全に身の回りの環境中から排除することはできません。したがってうまくカンジダ菌と付き合うためには、カンジダ菌を体内に侵入させないようにすることが大事です。私たちの体には、侵入を阻止する仕組みが何重にも張り巡らされています。その中で一番外側にあるのが粘膜の外側で外部との仕切りにある粘液の層です。腸のような消化管の壁でも食物消化物は粘液に覆われた消化管壁の細胞と接触しています。最近いくつかの乳酸菌は、カンジダに結合してカンジダが消化管壁に付着するのを強力に阻止することが明らかにされてきました。

粘液中には、抗体やデフェンシンと呼ばれる抗菌ペプチドが存在しておりカンジダ菌などが粘膜に付着するのを阻止します。免疫増強能があるキノコ成分は消化管で最も強く働くIgA抗体の産生を増強します。粘膜細胞にまでカンジダ菌がせまると、細胞はそれに反応してサイトカインを分泌し、それが周辺の細胞の防御機能を増強します。そのサイトカインはさらに、血液中にある好中球、NKリンパ球などの白血球をカンジダ侵入部位に集合させ、働かせることでカンジダ菌排除に働きます。多くの免疫増強物質にはこれらの白血球の機能を増強します。ちなみに、このコラムを主催している大和薬品が販売しているバイオブランにも、NKリンパ球を強く活性化する機能があります。

表1に、「現代人がカンジダ菌との付き合いをしていくため役立つ」と、私が思う生活習慣をまとめました。多くの皆さんが、カンジダ菌について関心をもって上手に付き合うことができるようになることを期待しながら、6回わたったこのコラムを閉じます。

表1.健康を守りながらカンジダ菌と付き合うための生活習慣

1.食事

・ 新鮮な野菜を食べる。特に香りの強いものやポリフェノールを含むものを食べる。

・ シナモンなどのハーブを積極的にとる。

・ 糖分 特にブドウ糖、ショ糖、麦芽糖、アミノ糖、ハチミツを少量に控える。

・ ゼラチンの入ったものを避ける。

・ 乳酸菌 ヨーグルト、キノコ、中鎖脂肪酸類を積極的に摂取する。

2.薬、サプリメントなど

・ 抗菌剤は正常細菌叢を破壊するので極力控える。

・ 抗炎症薬も適切に使用する。

・ 抗真菌薬は必要最小限の使用に留める。

・ 免疫力を高めるキノコ(担子菌)、乳酸菌、ラクトフェリンなどのサプリメントをとる。

・ カンジダ菌の病原性を弱めるサプリメント(ココナツ油、アロマキャンディなど)をとる。

3.口腔ケア、体調管理など

・ 就寝前に念入りに歯磨きを行う。特に歯の間の汚れをよく取る。朝、口の中にあるネバネバは、飲み込まずうがいで出す。唾液や粘膜分泌液の量を増やすために、適切な運動を行い、ストレスをためない。

・ 40歳以上の方:胃カメラで検査の時、食道に斑点(カンジダ菌でできる)がないかチェックしてもらう。舌の上に白苔が、口角に炎症が、できた場合、カンジダ症の疑いを持つ。

・ 成人女性:膣カンジダ症は、カンジダ菌に対する防御力が低下した場合が発症することを、考慮して全身的な免疫力の回復をはかる。

ドクタープロフィール

帝京大学医真菌研究センター所長
(医療技術学部教授兼任)
安部 茂 (あべ しげる)

経歴

  • 東京大学薬学系大学院博士課程修了・薬学博士。
  • 2001年に帝京大学医真菌研究センター教授、2004年に帝京大学医真菌研究センター所長。
  • その後、2007年に医療技術学部教授を兼任。

<主な著書>
「においと医学・行動遺伝」3-1 免疫と香り(2004)、
「アロマセラピストに必要な微生物と感染症の知識」アロマトピア連載(2008) フレグランスジャーナル社、
「標準微生物学」第5章 医真菌学 第10版 2009年 医学書院、
「口腔微生物学・免疫学」真菌学 2010年 医歯薬出版 など。

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