ドクターからの健康アドバイス

掲載1  コンパニオン微生物であるカンジダ菌は、消化管に住みつく

犬や猫はずっとヒトとともに暮らし、いわばなかまのようにお互いに影響を与え合って生きていくことからコンパニオン動物と呼ばれています。カンジダ菌もヒトとともに暮らし、影響を与え合って生きることから、私は「カンジダ菌はコンパニオン微生物」と呼んでいます。
このコラムで、コンパニオン微生物カンジダ菌の驚くべき実態を紹介して、いかにカンジダ菌が私たちの生活特に健康に影響を与えるかを知ってもらいます。
より良いコンパニオン微生物と良い関係を結んで、健康になろうと考えます。

私たちの身体の口から腸までを生活範囲としている最も身近な真菌である酵母のカンジダ菌について知ってもらい、身体のカンジダ菌を積極的にコントロールすることにより健康を増進させる方法についてご紹介したいと思っています。カンジダ菌というと、女性の膣カンジダ症の原因であることはよく知られていますが、実は、この酵母は健康に見える老若男女ほとんどの人の体内で増殖して生きている、いわば「コンパニオン微生物」なのです。その微生物が暴れだすと消化管だけでなく、全身の免疫系も異常になり、炎症性疾患などの誘因になります。普通に生活している私たちの健康にも大きな影響を与えています。「どうしたらこのカンジダ菌を自分達の味方に出来るのか」という問題がこのシリーズの中心テーマです。
今回第一回目としまして、カンジダ菌がどれだけ私たちの生活に親密にかかわりあっているか、またカンジダ菌とはどのように生きている生物であるのかについての話をしたいと思います。

1)カンジダ菌は生まれたばかりの赤ちゃんに入り込み、ヒトの常在菌として生き続ける

カンジダ菌は世界中の人で口から腸までの消化管や、膣、皮膚などから検出できる菌です。赤ちゃんは分娩時や、哺乳時にお母さんからカンジダ菌をもらうことで、カンジダ菌は赤ちゃんの消化管の中で急激に増えます。そのカンジダ菌の存在は、赤ちゃんの口の中に白い膜で覆われたカンジダ菌の白苔ができたり、お尻周りが蒸れてカンジダ性のおむつかぶれが起きることでわかります。赤ちゃん時代に一度増えたカンジダ菌は、成長につれて増える他の腸内細菌の影響を受けその数を減らします。そして少年青年時代には、消化管の中に静かに潜むようになります。通常カンジダ菌は、元気な若者に対しては、健康上の被害をほとんど与えません。
被害を与えるのではなく、カンジダ菌は時として口や食道、腸内で増えて、ヒトの免疫系を刺激して、細胞性免疫を強めます。実際、カンジダ菌の菌体の外側には、β-グルカンがあり、私たちの免疫系はそれを認識して応答しながら出来上がっていきます。動物実験の結果ですが、カンジダ菌にあるβ-グルカンをマウスに投与すると、そのマウスの免疫力が強まりガンの増殖を抑制することが報告されています。カンジダ菌に対する細胞性免疫が、ほとんど全ての人でも作られていることは、そのカンジダ菌に対する免疫応答が個人の免疫力のパラメーターとして使われることからもわかります。
カンジダ菌はこのように、身体に入り込み、常在菌として居続けますが、私たちが年を重ね中年以降になると、少し様子が変わってきます。私たちの免疫を中心とした防御力が弱くなるにしたがい、カンジダ菌との力のバランスが狂いだし、徐々にカンジダ菌の勢力が強まっていきます。実際カンジダ菌に対する細胞性免疫は加齢とともに弱くなっていき、カンジダ菌が粘膜に侵入するようになってきます。加齢の防御力への影響は個人差があり、高齢者でも、カンジダ菌に強く反応できるヒトは、身体の中に炎症が少なく健康的だと報告されています。

2)消化管の中のカンジダ菌は少数でも強く免疫に影響を与える

カンジダ菌は酵母と菌糸という2つの形態をとります。酵母とは卵型で1個1個が独立して増殖できるパン酵母のような生物です。カンジダ菌は栄養状態が良いと酵母の形をして、次々に増殖して殖えますが、私たちの身体の中に入ってくると、時として菌糸のような形になります。それをカンジダ菌の二形性発育といいます。(図1参照) 菌糸形になったカンジダ菌は、その先端を組織に侵入させ病変を起こすことがあります。菌糸を粘膜に侵入させると、粘膜の正常細胞を貫通し糸状に伸び組織の奥まで侵入します。この侵入に生体側は反応して、白血球を集め阻止しようと対抗します。この白血球と菌との戦いを起こさせるのがカンジダ菌の特徴です。この戦いが免疫反応を引き起こし、強く免疫に影響を与える主な原因です。

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カンジダ菌が腸管の中にいることは昔から知られてきたのですが、その数は腸管の内容物1gあたり10万個程度ということで少なく、ほかの菌と比べると1/100から1/1000であることから、腸内細菌を研究する人たちにあまり注目されませんでした。しかし、腸内での数は少なくとも、それが腸壁に付着して、しかも深く侵入するカンジダ菌は、ちょうど指に棘が刺さった時のような炎症反応を起こさせると考えられます。その炎症反応は、よく知られたカンジダ性膣炎になったりしなくても、決してめずらしいものではないのです。ひどくなると身体全体の健康にまで影響を与えます。そのようになると、カンジダ菌をヒトの「コンパニオン微生物」などと言っていられない状況になるのです。
次回のコラムでは「カンジダ菌は、どうしてヒトの「コンパニオン微生物」として生きているのか」について、カンジダ菌の生物進化的側面も紹介し、カンジダ菌とヒトとの関係をより深く理解することを目指します。

ドクタープロフィール

帝京大学医真菌研究センター所長
(医療技術学部教授兼任)
安部 茂 (あべ しげる)

経歴

  • 東京大学薬学系大学院博士課程修了・薬学博士。
  • 2001年に帝京大学医真菌研究センター教授、2004年に帝京大学医真菌研究センター所長。
  • その後、2007年に医療技術学部教授を兼任。

<主な著書>
「においと医学・行動遺伝」3-1 免疫と香り(2004)、
「アロマセラピストに必要な微生物と感染症の知識」アロマトピア連載(2008) フレグランスジャーナル社、
「標準微生物学」第5章 医真菌学 第10版 2009年 医学書院、
「口腔微生物学・免疫学」真菌学 2010年 医歯薬出版 など。

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