ドクターからの健康アドバイス

掲載3  カンジダ菌による健康被害から身を守るためには

1.多くの植物成分には、カンジダ病原性を低下させる成分がある。

顕微鏡で、カンジダ菌の姿を見ていると、30度以下の温度では酵母として発育しますが、人の体温の37度では、菌糸形にもなります。菌糸形のカンジダ菌は私たち人間の体の様々な組織の中にその菌糸を侵入させ定着し、病原性を発揮します。写真1は、実験的に口腔粘膜上にカンジダ菌を付着させると3時間という短い時間で、菌糸を伸ばし粘膜の中に侵入しようとするカンジダの顕微鏡像です。この写真からわかることは、カンジダ菌を菌糸にさせなければその病原性を発揮させずに済むということです。

もう20年ぐらい前のことですが、私たちは、多くの健康に良いと考えられていた植物成分がカンジダ菌の発育にどのような作用を与えるのかを調べました。その結果、植物成分に含まれる多くの香り成分が低濃度でカンジダ菌の菌糸形発育を抑制することがわかりました。さらに系統的に調べるために、多くのハーブやスパイス類のカンジダ菌の菌糸形発育を80%阻止する濃度を比較したところ、シナモン、わさび、クローブ、バジル、セージなどが最も低濃度で阻止する活性を示しました。また、若干濃度を高くする必要がありますが、オレガノ、レモングラス、コリアンダー、アニスシードなどにも強い活性があります。この研究に引き続いて、シナモンにも強い活性があることがわかりました。香りが強い植物を食べると口の中がすっきりすると感じるのと関係しているかもしれません。

東南アジアでは食後の口腔清浄に使われているシナモンですが、シナモンの微粉は口腔内のカンジダの異常増殖を抑制します。さらにその効果をよく調べると、経口投与したシナモン粉は1時間以内の接触でカンジダ菌の増殖に影響を与え、その粉が口の中に留まるようにすると効果が強まることも明らかになりました。

前回のコラムの表に示した多くの成分はシナモンと同様に、カンジダ菌の菌糸形発育を抑制する物質として見出されました。それらの多くは、大量に口に入れますと苦味や刺激性を感じるのが欠点ですが、健康に良い食品としてよく食されていることに気づかれることでしょう。健康な生活は、多くの植物成分を食べるのが基本だと言いますが、その理由の一つとして、カンジダ菌の異常増殖の防止があげられます。

2.口腔ケアが大切

カンジダ菌が発育する主な場は消化管です。その口の中で増えたカンジダ菌は、消化管の内容物とともに食道、胃や腸を通り肛門にまで達します。口腔の中で生きているカンジダ菌が便から検出されることは知られており、「口の中でのカンジダ菌をいかに少なく抑えるか」が、カンジダによる健康被害から自分を守るポイントです。

カンジダ菌は流れが滞るところにとどまり、増殖する性質があります。歯と歯の間に付着した歯垢や虫歯が出来た穴などがあると、そこに大量のカンジダ菌がとどまります。また、唾液分泌量は、20歳代に比べ40代ではほぼ半減し、口が渇くとともに唾液の流れが悪くなります。しかも、若い人の唾液にはカンジダ菌を付着物から剝がしとる剥離因子がありますが、高齢者ではその因子が減少します。歳をとるほど体の抵抗力も弱まり、しかも、流れが停滞しやすい複雑な口腔内構造(う歯、義歯装着など)が増加し、一般的に口腔内からカンジダ菌の検出率が80 %以上に増加するという報告があります。

そういう中で、高齢者に希望を与える研究結果もあります。日本歯科大学の馬島、仲村先生らが調べた結果では、若い人に比べて歯学部の歯科医を含む口腔調査では、若い学生よりも60歳ぐらいの教員のほうがカンジダ菌の検出率が低いというデータが出ています。歯科大学に勤める先生たちの口腔ケアは一般の人たちよりはるかにしっかりとしています。ということは、口腔ケアさえしっかりしていれば、口腔内のカンジダ菌の増加は止められるということでしょう。半年に一度の歯科検診は、このためにも必要です。

3.驚きのココナツオイルの作用

すでにココナツオイル健康法はアンチエージングなどで注目されましたが、ココナツオイルを飲むとどうして多面的な健康増進作用が得られるのかわかっていません。ココナツオイルには、カンジダ菌に対する独特な作用があることが最近明らかになっています。米国タフツ大学のキャロル・クマモト博士らのグループは、モデルマウスにココナツオイルを飲ませると、便中のカンジダ菌量が減少することを報告しています。口の中のカンジダ菌を減らせる食品は、前回のコラムの表で示しましたようにかなり知られていますが、その効果を大腸まで到達させ便中の菌量を減らすものは極めて限られています。ココナツオイルのこの効果は驚くべきものです。このメカニズムについて、帝京大学の羽山先生たちは、ココナツオイルが消化管内のリパーゼで分解される結果として、中鎖脂肪酸(デカン酸など)ができ、それがカンジダ菌の消化管内の増殖を抑制していると説明しています。ココナツオイル自身には、カンジダ菌に直接与える作用は明確にされていませんが、間接的に影響を与えるといえます。カンジダ菌による健康被害から身を守るには有力な手段になると期待されます。ココナツオイルは開発途上国で生産されているため、商品管理が難しく販売中止となっている例もありますが、国内の信頼できる業者から入手しやすくなることが望まれます。

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ドクタープロフィール

帝京大学医真菌研究センター所長
(医療技術学部教授兼任)
安部 茂 (あべ しげる)

経歴

  • 東京大学薬学系大学院博士課程修了・薬学博士。
  • 2001年に帝京大学医真菌研究センター教授、2004年に帝京大学医真菌研究センター所長。
  • その後、2007年に医療技術学部教授を兼任。

<主な著書>
「においと医学・行動遺伝」3-1 免疫と香り(2004)、
「アロマセラピストに必要な微生物と感染症の知識」アロマトピア連載(2008) フレグランスジャーナル社、
「標準微生物学」第5章 医真菌学 第10版 2009年 医学書院、
「口腔微生物学・免疫学」真菌学 2010年 医歯薬出版 など。

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