ドクターからの健康アドバイス

掲載5  カンジダがあなたの体調悪化に関係しているかもしれない

カンジダ菌は、感染症を起こすだけでなく、一見カンジダ菌の感染とは関係のないように見える様々な健康トラブルの誘因になることがわかってきました。今回のコラムでは、そのような体の不調に、カンジダ菌の異常な増殖が関係している可能性を紹介いたします。

1.カンジダがかかわる様々な消化器系のトラブル

現代生活がカンジダの消化管での増殖を増加させています。一昔前と比べ今の食生活では、糖分の摂取量が多く、しかも消化しやすい食事とるようになっています。これがカンジダ菌の過剰増殖の原因となります。カンジダ菌は糖が分解されてできるブドウ糖によって勢いよく増殖するからです。また、人口の高齢化、医薬品の服用機会の増加などの影響で、カンジダ菌の増殖を阻止する生体防御の力が弱まります。カンジダ菌の過剰増殖が私たちの体の中で起こっていることは、健常人の口腔からの菌検出率の増加のほかに、菌がヒトの体に侵入するのを示すカンジダ菌抗原に対するアレルギー反応陽性率が加齢とともに相対的増加することでもわかります。(図1参照)

カンジダ菌の増殖による健康トラブルで、消化管に関連するものが良く知られています。口腔トラブルとしては、典型的な口腔カンジダ症のほかに味覚異常や舌痛症などもカンジダ感染が関与します。高齢者が歯を失う危険性がある歯周病にもカンジダが関与しうると言われています。呼吸器の炎症性疾患で、ステロイド吸入薬などを喉に吹きかけると咽頭部にカンジダ菌が住み着いて、喉ガレなどをおこします。また、胃がん検診で内視鏡で観察しますと、食道にカンジダが白苔を作り、食道炎をおこしている人が多いのもよく知られています。胃でもカンジダは増加して炎症を起こすことが、動物モデルにより証明されています。これらは、すべてカンジダ菌が消化管粘膜に侵入することで起こります。

カンジダの過剰増殖は腸の炎症性疾患である潰瘍性大腸炎やクローン病にも関係することが明らかになってきました。潰瘍性大腸炎の国内患者数は、現在約16万人以上と増加していますが、この炎症の悪化原因としてカンジダ感染があることが報告されています。

潰瘍性大腸炎が主にその病変が大腸の一部に限定されるのに対して、クローン病は食道から大腸までの消化管粘膜のところどころが障害される難病であり、我が国には5万人以上の患者がいると言われています。腹痛、下痢、肛門の異常、体重減少などをおこす患者の苦しみは大きいものの、生命に危険を及ぼすようなことは少なく、今では、免疫を制御する薬もできて状況は昔より良くなってきています。この病気をおこす原因に、抗酸菌などと共にカンジダも関係する場合がありそうです。

2. カンジダの過剰増殖は、全身の免疫異常の誘因になる 

カンジダ菌の異常増殖は、消化器系だけでなく、全身的な炎症性疾患にかかわることが、知られてきました。動物実験ですが、カンジダ菌が腸内で異常増殖すると、喘息や関節リウマチが悪化することが報告されています。このメカニズムとしては、カンジダ菌が消化管粘膜に侵入すると、消化管の防御壁としてのバリア機能が低下して、内容物の一部が体内に漏れ出る状態(リーキーガットと呼ばれる)になるため、免疫制御が乱れると考えられています。実際、不必要な免疫応答を抑制する機構である免疫寛容という働きが、カンジダの過剰増殖によって、障害されることが報告されています。

カンジダの過剰増殖によって、腸管から異物が侵入すると、カンジダ菌や腸管内容物が抗原となり、液性免疫を引き起こします。図1の皮膚反応も液性免疫で起こるものと推定されています。液性免疫は、体内で慢性炎症を起こす原因となります。近年の長寿研究では、慢性的な炎症の持続は寿命を短くさせることが示唆されています。それを考え合わせると、カンジダ菌感染は、寿命にも関係すると言っても過言ではないかもしれません。

次回は、最終回です。多様な健康トラブルをおこしうるカンジダ菌とどう付き合っていくべきか考えてみましょう。

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ドクタープロフィール

帝京大学医真菌研究センター所長
(医療技術学部教授兼任)
安部 茂 (あべ しげる)

経歴

  • 東京大学薬学系大学院博士課程修了・薬学博士。
  • 2001年に帝京大学医真菌研究センター教授、2004年に帝京大学医真菌研究センター所長。
  • その後、2007年に医療技術学部教授を兼任。

<主な著書>
「においと医学・行動遺伝」3-1 免疫と香り(2004)、
「アロマセラピストに必要な微生物と感染症の知識」アロマトピア連載(2008) フレグランスジャーナル社、
「標準微生物学」第5章 医真菌学 第10版 2009年 医学書院、
「口腔微生物学・免疫学」真菌学 2010年 医歯薬出版 など。

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