掲載2 カンジダ菌は生物進化の歴史の中でコンパニオン微生物になった
第1回のコラムで、カンジダ菌は目には見えないけれど、ヒトの消化管などに住み着いていろいろな影響を与え合う生き物だから、「カンジダ菌はヒトのコンパニオン微生物」だと説明しました。どのようにして、カンジダ菌は私たちの腸に住みつけるようになったのでしょうか。
1)昆虫や哺乳類の腸管でカンジダ菌は進化した
カンジダ菌の祖先は、植物の花や果実などの糖分が多いところで生活する酵母の一種だと考えられます。その酵母は自ら移動手段を持たないため、昆虫によって運ばれていました。花粉を昆虫で運ばれる虫媒花と同じ仕組みです。昆虫で運ばれる酵母の中で特別に昆虫の腸の中でも発育できるタイプの酵母が生まれました。このタイプの酵母は、腸内で増え排泄される便とともに、昆虫の行動範囲すべてに広がることが出来ました。
昆虫と生きていく中で、一部の酵母が注目すべき能力を獲得しました。一個一個の酵母菌が連なり糸状になり、一部が腸管の壁に付着することによって、腸管の内容物が流れても、腸内にとどまれるようになったのです。この能力を獲得したのがカンジダ菌の祖先です。一個一個の細胞がバラバラになって生きるいわゆる酵母形の発育形態と、細胞が連なって長い糸のような菌糸形にもなれる能力のことを二形成の発育能といいます。この二形成発育能がカンジダ菌の特徴です。実際、ハナムグリなどの昆虫の腸管の中には今もカンジダ菌が生きているのが知られています。
さらに、5000万年程度の生物進化の歴史の中で、人の先祖の哺乳類の腸管に入った一部のカンジダ菌が哺乳類の体温35℃程度で活発に発育できるように適応して、哺乳類適応型のカンジダアルビカンスが生まれたと考えられます。実際、調べられたほとんどの哺乳類や鳥類の消化管の中にカンジダアルビカンスの仲間が生きていることが報告されています。もちろん、ペットとして家族一員として生活するかわいい犬や猫にも住み着いています。
微生物生態学では、「寄生体が宿主とともに長期間進化していくと、寄生体と宿主の関係は共生状態になる」という法則が知られています。実際、カンジダはヒトを含めた哺乳類が正常な防御力を保持している間は、ほとんど疾患を起こしません。ヒトの側も、カンジダ菌が少しでも腸管から体内に入ろうとするとそれと対抗する何重もの防御機構を進化の中で獲得し害を被らなくなりました。カンジダ菌はヒトとのかかわりの中で、それらの防御機構に適度な刺激を与えることで、免疫能力を中心とした防御能の成熟を促進するという有益な役割を示します。まさに「コンパニオン微生物」になったわけです。
2)現代生活がカンジダ菌と人との関係にトラブルをもたらす
カンジダ菌は第二次世界大戦までは、ほとんど病原菌として認められていませんでした。ところが現在では、人々の暮らしぶりが変化したことにより、カンジダ菌が様々な健康トラブルを引き起こし、人との関係に問題を起こすようになりました。
問題を起こさせる変化として、食生活や医療面での変化があげられます。食生活が豊かになったなかで、特に分解されやすい糖分の摂取量が多くなったとことです。カンジダ菌は元来、糖分が多い所で育ってきましたので、他の細菌以上に糖分量の変化の影響を受けます。甘い砂糖だけでなく、口の中で素早く消化されブドウ糖などを作るデンプンやグリコーゲンも糖分としてカンジダ菌を増殖させます。さらに、現代医療で用いる抗生物質やその他の薬の使用によってもカンジダ菌は増えていきます。
つぎに重要なことは、人の寿命が延びたことです。40歳以上になると、免疫力が低下するだけでなく、分泌される水分としての唾液の量が低下し、口の中の洗浄能力が低下し、カンジダが増え、その結果として消化管でのカンジダ増殖が盛んになります。
更に女性で大きな問題となっているのは、外陰部を下着やナプキンなどで保護する習慣が出来たことで、その部位の湿度が高まることにより、カンジダ菌が増えやすくなっています。
このような現代生活がヒトとカンジダの相対的な力関係を変化させ、トラブルの原因になります。カンジダ菌がコンパニオン微生物と言えない位に暴れてしまうようになっているのです。カンジダ菌がひとたび暴れだすと、消化管の炎症性疾患だけでなく、免疫の異常や全身の健康をむしばむ健康被害を起こさせることがあります。
3)カンジダ菌と人との関係を改善しよう
現代生活では、カンジダ菌を静かに、おとなしくさせていく生活習慣が必要になります。
詳しい説明は省略しますが、通常生活をしている私たちからカンジダ菌を全く排除することはできませんし、無理にしようとすると逆効果になります。カンジダ菌をおとなしくさせるには、菌量を単に減らすというのではなく、組織侵襲性の高い菌糸形から、侵襲性を示さない酵母形へと変化させるような努力が必要となってきています。
それには、食習慣の改善が最も必要だと私は思っています。カンジダ菌を酵母形にする機能を持つ食品を積極的に利用するのが一つの方法です。その機能を持つ食品の一覧を表1に示します。
驚いたことに、カンジダの菌糸形発育を抑制する機能を持ったものは、天然の植物である香り成分を含むハーブや腸内環境を改善させるといわれる乳酸菌などであり、古くより人の健康に役立つ食品として摂取されてきたものです。さらに、乳児の健康維持に役立つ母乳などに含まれる成分もその様な作用があります。実際に、このような食品を摂取していけばカンジダ菌をおとなしくさせ、健康維持につながることでしょう。
詳しくは次回以降のコラムにて述べたいと思います。