掲載3 神経疾患
前回のコラムではニュートラシューティカルズとがんの関係について述べました。今回は神経疾患にニュートラシューティカルズが及ぼす有益性についてみていきましょう。
高麗人参は、東アジアの伝統医学において免疫調節剤として広く用いられており、神経変性や神経炎症を予防してくれることでも知られています。マサチューセッツ大学アマースト校のCalabrese教授は、高麗人参とその成分 (ジンセノサイドRh1、Rb1、Rc、Rd、Re、高麗人参サポニン、ギントニン、ポリアセチレン) の用量依存的なホルミシス効果について、様々な文献をまとめて概説しています [4]。Calabrese教授は特に、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中および新生児の脳低酸素症の神経保護研究について触れながら、高麗人参成分のホルミシス効果が普遍的に適用可能であることを示す証拠であるとしています。ホルミシス効果とは、高用量では人体に有害なものであっても、低用量では適切な生理的刺激を与えることで、有益な効果が期待できることをいいます (たとえばラジウム温泉など)。しかし、その人気のために高麗人参が過剰に消費されてしまうのは、公衆衛生上の混乱を引き起こす可能性が懸念されます。
Chouらは、in vivoモデルを用いて脳の認知能力にグルコサミンが及ぼす効果について研究しました [5]。グルコサミンはアミノ糖の一種で、タンパク質や脂質のグリコシル化に必要な基質です。マウスを用いた実験によると、グルコサミンは環状アデノシン一リン酸 (cAMP)、プロテインキナーゼA、cAMP response element binding protein (CREB) 依存的な経路を介した脳由来神経栄養因子 (BDNF) の発現レベルを上昇させ、認知機能の改善に働くことが示唆されました。BDNF存在量の異常は脳の慢性炎症を示すサインでもあるため、アルツハイマー病、パーキンソン病、線維筋痛症、多発性硬化症あるいは慢性疼痛などの神経炎症疾患へのグルコサミンの応用も可能かもしれません。
末梢神経損傷 (PNI) も神経炎症を誘発する要因の一つです。Ehmedahらは、大腿神経損傷モデルラットを用いて、ビタミンB複合体を利用した新たな治療法について検討しました [6]。ビタミンB群の投与により、M1マクロファージからM2マクロファージへの極性変化を促進し、非ミエリン形成シュワン細胞からミエリン形成シュワン細胞への移行が加速する可能性が示唆されました。したがって、もしかしたらビタミンB群治療により、神経炎症を抑制して神経再生を促すことで、損傷を受けた神経を修復することができるようになるかもしれません。
[References]
- Calabrese, E.J. Hormesis and ginseng: Ginseng mixtures and individual constituents commonly display hormesis dose responses, especially for neuroprotective effects. Molecules 2020, 25, 2719, doi:10.3390/molecules25112719.
- Chou, L.Y.; Chao, Y.M.; Peng, Y.C.; Lin, H.C.; Wu, Y.L. Glucosamine enhancement of BDNF expression and animal cognitive function. Molecules 2020, 25, 3667, doi:10.3390/molecules25163667.
- Ehmedah, A.; Nedeljkovic, P.; Dacic, S.; Repac, J.; Draskovic-Pavlovic, B.; Vučević, D.; Pekovic, S.; Nedeljkovic, B.B. Effect of vitamin B complex treatment on macrophages to schwann cells association during neuroinflammation after peripheral nerve injury. Molecules 2020, 25, 5426, doi:10.3390/molecules25225426.