ドクターからの健康アドバイス

掲載6  プライムエイジングと医療(エクソソーム、細胞治療)

皆さんこんにちは。最終回の今回は細胞治療を含めた再生医療とプライムエイジングについてお伝えしたいと思います。
再生治療とは本来私達の体にある「細胞の力」を使った治療で、傷ついた組織を修復し、機能改善を目的とした治療です。この再生治療の良い点は、化学薬品の様な重篤な副作用や毒性が無い点と、科学の力ではまだまだ解明できていない不治の病の症状を改善できるかもしれない可能性があるという点です。エクソソーム(細胞外小胞)という言葉を聞いたことがありますか?エクソソームとは細胞から分泌される小さな顆粒状の物質で、以前「細胞のゴミ」と考えられていた物質ですが、近年では細胞間のコミュニケーションに重要な役割を果たしている事がわかってきました。癌細胞は正常細胞よりもエクソソームの放出量が多く、また癌細胞から放出されたエクソソームには固有のDNAやタンパク質が含まれています。この事実をいかし、現在癌の症状が出る前の初期段階でごく少量の血液から癌の早期発見をする事ができるようになってきました。エクソソームは癌の転移にも深く関わっていて、悪性度の高い癌細胞から放出されたエクソソームが悪性度の低い細胞に働きかけ、細胞の性質を変化させてきます。また癌細胞から放出されたエクソソームは癌細胞が生存しやすい環境を整えるため、新しい血管生成を誘導したり、免疫細胞を抑制したりしています。逆に正常な細胞から放出されたエクソソームは、正常細胞の生存に適した環境を整え、傷ついた細胞を修復する手助けをしています。この様にエクソソームは細胞にとって非常に重要な働きをしていることが分かってきており、幹細胞治療をはじめとした細胞再生治療の鍵となっています。

幹細胞とは木の幹の細胞と書くように、木の幹から枝が出て葉が出て花が咲き実がなる様に、体の中に存在する色々な細胞へ変化して老化や怪我炎症などで傷つき不足している細胞を補充する役割を担っています。膵臓には膵臓細胞があり、インスリンを分泌したりする働きがありますね。それと同様皮膚には皮膚細胞、神経には神経細胞がありそれぞれ特殊な機能を持っています。例えば、多くの方がお困りの変形性膝関節症による膝の痛みは長年膝関節に過重と負担により関節内のクッションの役割をしている軟骨細胞やヒアルロン酸が減少し、関節内でスムーズな動きが出来なくなり炎症が起こり最終的には炎症による痛みが発生してきます。炎症を抑えて痛みを軽減する為に、現段階では、幹細胞から抽出されたエクソソームを多く含む幹細胞培養上清液が使われていますが、残念ながら細胞が含まれていないこの上清液では軟骨細胞などを再生する事はできません。また上清液といっても中に含まれているエクソソームを含めた数千万種類のたんぱく質は幹細胞の培養の条件などによってもかなり変わってきますし、そもそもその幹細胞を採取する個体間でも差があります。軟骨を再生するにはそれの材料となる細胞が必要となるため、幹細胞を関節内に局所注射で移植する必要があります。現段階では幹細胞治療は自分自身の組織から採取しなければいけません。他人の組織から取った幹細胞を移植すると拒絶反応が起こってしまうからです。将来的にはこの拒絶反応を取り除き、他人の組織から取った幹細胞を使用できるようになる可能性があり、そうなると、自分の組織を取らずに幹細胞治療が可能となり、お薬としての汎用性がでてきます。

私達の体の中で毎日200億個程度の細胞が死んで、新しく細胞が作られていますが、1つ1つの細胞の活性を高め、組織の機能を維持する事がいつまでも若々しく元気でいられる鍵となります。最先端の細胞治療は失われかけた体の再生能力を科学の助けで最大限に引き出し、細胞を活性化して機能を維持する助けになりますが、最後に皆さんにお伝えしたいのは、健康の基本となるのはやはり毎日の生活です。1日1日の生活の中で、いかに体に良い食べ物やサプリメントを摂取し、適切な運動をし、良質な睡眠をとり、ストレスをためない様に生きるかという事が重要だと思います。1日で目に見えた変化はなくても、日々の積み重ねが10年20年すると健康寿命という形で必ず私達に跳ね返ってきますので、それをよく念頭において、皆さんに1日1日を大切に過ごして頂きたいと願っております。

ドクタープロフィール

M再生クリニック 院長 飯塚 翠 (めしつか みどり)

経歴

  • 2008年北京大学医学部卒業。
  • 中国医師国家試験、日本医師国家試験合格。
  • ハーバード大学医学部(米国)、北京大学医学部付属第三病院、東京大学付属病院、東京女子医科大学病院を経て、2019年M再生クリニック院長に就任。
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