ドクターからの健康アドバイス

掲載10  ビタミン D の重要性

ビタミン D は、私たちにとってどれくらい重要なのでしょうか。人間のゲノム全体に沿って、ビタミン D 受容体の結合部位は2700 以上もあります。ビタミンD受容体は、ビタミンD によって活性化するタンパク質です。ビタミンD受容体はDNAに付着し、遺伝暗号によるタンパク質の産生に影響を与えます。これが、広範囲にわたって健康と病気に影響を与えるのです。ビタミンDは細胞の増殖、骨の維持、神経筋の活動、免疫系に関与しています。また、ビタミンDは抗炎症ステロイドでもあります。

ビタミンD は、様々な要素の適切なバランスの維持に関与していますが、その中でも最もよく知られているのが、カルシウム代謝でしょう。ビタミン D は、骨のミネラル化のために不可欠であることが以前から知られていますが、人間の体のほぼ全ての組織にビタミンD受容体があり、ビタミンDは、健康を維持するために多くの非常に重要な役割を果たしています。ビタミン D の重要性を裏付ける証拠は、近年、次々と明らかにされています。血中のビタミンレベルの低下は、心血管疾患、高齢者の認知機能障害、癌(特に乳癌)による死亡リスクの上昇だけでなく、糖尿病、耐糖機能障害、高血圧症、多発性硬化症など他の様々な疾患に関係しています。

また、血清ビタミンDレベルの低下は、最近では喘息のリスク上昇と関連があると考えられています。従来の喘息治療と併用してビタミンDを摂取することによって、重度の喘息発作の発生回数を減らすことができます。1,093人の患者を対象とした、6~12ヵ月にわたる7件の試験と2件の研究を検証したところ、ビタミンDを補完することによって、入院を必要とするような重度の喘息発作のリスクが低下し、ステロイド錠剤の必要性が減少したことが明らかになりました。ビタミンD自体は、紫外線の存在下において、体内でコレステロールから合成されるステロイドです。ある研究では、Clalit健康サービス(イスラエルの最大のヘルスケアサービス機関)のおよそ 400万人の会員の医療記録を検証しました。この検証では、ビタミンDが喘息発作のコントロールに役立つことが指摘されました。

また、ビタミンDはインフルエンザの治療と予防における有用性も実証されています。米国の保健当局は、毎年冬期にインフルエンザによって36,000人が死亡していると述べています。しかし、米国疾病管理予防センターが集計した人口動態統計レポートでは、インフルエンザのみによる年間死亡者数は、1,100人だけであると報告されています。”36,000人″のインフルエンザによる死亡者のうち、34,000人以上は、実際には肺炎と心血管疾患による死亡でした。 Dr. Donald Millerは、心臓外科医であり、ワシントン大学の外科教授ですが、インフルエンザワクチンの代わりにビタミンDの摂取を推奨しています。Dr. Millerは、「医師の70%はインフルエンザの予防接種を受けていない。」と指摘しています。

毎年秋になると、ビタミン D レベルが低下し、風邪やインフルエンザの発症率が上昇します。ビタミンDレベルが春に再び上昇すると、風邪やインフルエンザの発生率は着実に減少し、ビタミンDが豊富な夏の間には事実上消滅しているのです。カナダ、ドイツなどの一部の国では、気候が寒い季節に変わるときに、政府がインフルエンザを予防するためにビタミンDの摂取を推奨します。ドイツ政府は、ビタミンDの摂取によって、€400 億もの医療費を節約することができると推計しています。フィンランド政府は、高齢者に対するビタミンD投与量の倍増を提案しました。イギリスの雑誌「Lancet」におけるメタ解析では、「社会生活をしている高齢者にとって、インフルエンザワクチンは、インフルエンザや、インフルエンザ様疾患、肺炎対策としてあまり有効ではない」と結論づけていることから、この提案は多くの人の命を救うことになるでしょう。

米国癌協会を含む複数の団体の研究者達による国際的な研究グループによる調査では、血液中の十分なビタミンDレベルは、大腸癌のリスク低減と関連していることが明らかにされています。以前の研究では、このような可能性が示唆されていましたが、結論付けられてはいませんでした。この新しい研究は約12,800人のデータを使用したもので、2018年6月14日に米国癌研究所の研究誌にオンラインで掲載されました。この研究は、これまでで最大規模の研究です。

「European Journal of Cluinical Nutrition (欧州臨床栄養学雑誌)」で発表された研究では、ビタミンDを十分に摂取することによって、 2 型糖尿病の発症リスクを低減することができる可能性があると指摘されています。数多くの研究で、ビタミンD欠乏症と2型糖尿病の関係が示唆されています。米国栄養士会の広報のVandana R. Shethは、「ビタミンD が欠乏している人は、欠乏していない人と比べて糖尿病を発症する可能性が高い可能性があることを研究者達が発見した」と述べました。2型糖尿病の患者は、膵臓のβ細胞が正しく機能せず、血糖レベルの制御に十分なインスリンを作り出すことができないことがあります。Shahzadi Devje(RD、CDE、トロント、カナダ)によると「膵臓特異的受容体は、十分なビタミンDが供給されている場合のみ機能すると考えられます。つまり、ビタミンDが膵臓の機能をサポートしている可能性があります。」

ビタミンDの利点の全てがこの記事で完全に網羅されているわけではありませんが、皮膚炎の予防、食物アレルギー、がん予防だけでなく、うつ病の予防と治療に対する有効性についても科学的証拠があるのです。また、研究ではビタミン D は、特定の制御性免疫系細胞を活性化することも明らかにされています。これらの制御性免疫系細胞は、アレルギー反応を調節する化学伝達物質を放出します。

ビタミンD の10% が食品摂取、90%が日光への暴露後の皮膚における合成を介して獲得されると推定されています。現在、ハワイやフロリダのような暖かい地域でさえ、ビタミンDの欠乏が頻繁に見られます。これは、屋外で過ごす時間が短くなっているため、日光を浴びる時間が減ったことによるものです。また、他にも様々な理由が挙げられますが、皮膚癌を防ぐために、日光を避けることや日焼け止めの使用が全国的に推奨されたこともその一因です。

ビタミンDを含む食品には、鮭、サバ、ニシン、イワシ、牡蠣、エビ、牛肉の肝臓、一部の種類のチーズや卵の黄身があります。きのこは植物性のビタミンD供給源です。十分な量のビタミンDを日光浴や食品だけで得るのは難しい場合もありますので、ビタミンDのサプリメントを活用することも有効でしょう。米国で古くから使われている伝統的なビタミンDサプリメントは肝油ですが、他にも様々なビタミンDのサプリメントがあります。

著者の注記: 私は数年間にわたって、私の患者の大半に血液レベルが100 nmol/L を超える用量のビタミンDを投与してきました。私の患者で、インフルエンザやインフルエンザのような疾患を発症する人は非常に稀です。インフルエンザを発症した患者には、ビタミンD3を50,000 IUを1回/日、もしくは10,000 IUを3回/日、2 ~3日間推奨します。これによって48~72時間で症状が消滅します。

ドクタープロフィール

Acupuncture and Integrative Medical College
(AIMC Berkeley)
Dan Kenner, Ph.D., L.Ac. 氏

経歴

  • 1979年に明治東洋医学院専門学校(日本)を卒業後に鍼灸師の国家試験に合格。
  • 大阪医科大学ペインクリニックおよび近畿大学医学部付属病院で研修を受ける。
  • National University of Naturopathic Medical Sciences(米国)で自然療法医療科学(ナチュロパシー)のPh.D.を取得。
  • 現在、NHF(米国国民保険連合)およびBarkeley鍼灸統合医療専門職大学院(米国)において委員を務め、多くの著書がある。
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