ドクターからの健康アドバイス

掲載3  魚油は本当に健康に役立つか?

Jane Brody氏は、栄養や健康についてのニューヨークタイムズの有名な記者ですが、最近のコラムで魚油の健康上の利点に疑問を投げかける研究結果を報告しました。Brody氏は、「そろそろ魚油をやめませんか?」と題したコラムで、心疾患患者に魚油のオメガ-3を摂取させた臨床試験の結果を評価しました。この新しい研究の著者は、魚油のオメガ-3と冠状動脈性心臓病や血管障害のリスク低減に関係性が見られなかったと報告しました。この研究チームは、彼らの研究の結果では「近年、冠動脈性心疾患の既往症を持つ人にこのような[魚油]のサプリメントの摂取が推奨されているが、このことについて科学的根拠は得られなかった」と話しています。Brody氏とニューヨークタイムズの権威を配慮して、他のメディアも同様にこの研究結果を報告しました。

この新しい研究で、魚油の有効性が見られなかった理由は複数あります。レビューに含まれている全ての臨床試験において、被験者は心疾患と診断されていました。これらの被験者の多くは、スタチン系薬剤などの標準治療の薬剤を投与されていました。概して、魚油の効果がほとんど、あるいは全く見られなかった臨床試験では、心疾患患者や心疾患のリスクが高い人を対象としており、これらの被験者はすでにスタチン系薬剤および/または他の「標準治療」の薬剤を投与されていました。したがって、魚油の明らかな効果が見られなかった被験者のほとんどがスタチン系薬剤を摂取しているので、この結果は驚くべきことでもありません。この研究では、心疾患と診断された患者に対する魚油の効果を評価した臨床試験のみを検討したため、最近のエビデンス評価では、心血管疾患の予防のための魚油のオメガ-3の活用は検討されていません。

米国心臓協会(AHA)は、心疾患や心臓発作のような心血管有害事象の主要な危険因子を減らすためには高用量のオメガ-3が必要であるため、高トリグリセリド血症の心疾患患者には2~4g/日のオメガ-3の摂取を推奨しています。しかし、魚油の効果について否定的な結果を報告した研究の10件中8件において、このAHAによる心疾患患者に対する一日当たりの推奨投与用量を下回っており、中には大幅に下回っているものも見られました。血中のトリグリセリドを下げる必要がある患者には、オメガ-3を1日あたり2~4g摂取することお勧めします。魚油の効果を示した2件の最も規模が大きい臨床試験は、否定的な結果であった大規模な臨床試験よりも、いずれもオメガ-3脂肪酸の投与量が最大で3倍、少なくとも80%多いものでした。そのうえ、否定的な結果が見られた試験のうち 1件を除いて、オメガ-3の投与量が少ないだけでなく、被験者も少ない小規模のものでした。

Brody氏は魚が豊富な食生活について、母親と子供のいずれも効果が見られ、子供は脳の発達が促進され、大人は脳の活動が改善され、高齢者では認知機能低下が改善されると述べました。

しかし、魚油のオメガ-3脂肪酸の利点は、明らかに心調律、高血圧、心拍数の障害に対して予防効果があり、血管の機能を向上させます。魚油のオメガ-3脂肪酸は、トリグリセリドを下げて炎症も抑制します。これらは、いずれも心臓や血管の危険因子であることが知られています。ハーバード大学公衆衛生学部の科学者は、オメガ-3の有益な効果についてのエビデンスを検討したのちに、「血流が良好な人とオメガ-3摂取量は、総死亡率、特に高齢者のCHD(冠動脈疾患)による死亡率の低下と関係している」と結論付けました。 別のハーバード大学の研究チームは、米国人の平均的に低い血中オメガ-3レベルを上げることができれば、それによって数万人もの命を救うことができるだろうと報告しました。

オメガ-3脂肪酸を摂取するには、魚油よりもクリルオイル(オキアミの油)の方が優れています。オキアミはプランクトンをえさとする、小さなエビのような甲殻類です。クリルオイルはオメガ-3脂肪酸が豊富なだけでなく、リン脂質と呼ばれる物質が豊富です。これらは、脳の健康のために特に必要ですが、クリルオイルは、細胞膜を介して魚油よりもはるかに効率的に栄養を届けるのです。この効率の高さによって、クリルオイルには魚油の48倍もの抗酸化力があり、高い代謝効果もあるのです。つまり、少量の摂取で同じ効果を得ることができるのです。ある研究では、クリルオイルを摂取している人は、魚油を摂取している人の63%で同じ効果を得られることが明らかになっています。

クリルオイルには、脳に重要な栄養素であるホスファチジルコリンと肝臓保護効果のあるトリメチルグリシンも含まれています。ホスファチジルコリンも、オメガ-3の栄養を吸収するために大切です。クリルオイルは、血圧、トリグリセリド値、LDLコレステロール値の低下に役立つだけでなく、HDLコレステロール値を上昇させます。クリルオイルは、変形性関節症やリウマチのような炎症や炎症全般(ループス、クローン病、自己免疫性腎症など)を軽減します。治療、月経困難症、月経前症候群(PMS)などの月経異常の治療や予防に役立っています。

抗凝固薬を服用している場合、または血液凝固障害がある場合は、クリルオイルを服用する前に医師に相談するようにしましょう。

ドクタープロフィール

Acupuncture and Integrative Medical College
(AIMC Berkeley)
Dan Kenner, Ph.D., L.Ac. 氏

経歴

  • 1979年に明治東洋医学院専門学校(日本)を卒業後に鍼灸師の国家試験に合格。
  • 大阪医科大学ペインクリニックおよび近畿大学医学部付属病院で研修を受ける。
  • National University of Naturopathic Medical Sciences(米国)で自然療法医療科学(ナチュロパシー)のPh.D.を取得。
  • 現在、NHF(米国国民保険連合)およびBarkeley鍼灸統合医療専門職大学院(米国)において委員を務め、多くの著書がある。
他のコラムを見る
TOP