掲載2 ナトリウムと心血管リスク
数10年もの間、医師達は患者に高血圧の治療や予防のためにナトリウムの摂取を制限するように指導してきました。食塩の摂取は、最初に一世紀以上前から懸念されるようになりました。1904年にフランスの医師達は、自分たちの患者で、心臓病の危険因子とされる高血圧が見られる患者のうち、6人が食塩を多く摂取していたことを報告しました。1970年代にブルックヘブン国立研究所(米国)のルイス・ダールが、食塩が高血圧を引き起こす「明確な」証拠があると主張すると、食塩摂取に対する懸念が高まりました。彼の実験では、ラットに500g/日(人間換算)のナトリウムを与えることによって、高血圧が誘発されたのです。(現在、平均的なアメリカ人は1日当たりナトリウムを3.4g、つまり食塩にすると8.5gを消費しています。)
実験方法は当時よりも正確になっており、食塩摂取量と不健康との相関関係には疑問が持たれます。Intersaltは1988年に発表された大規模な研究で、52ヵ所の国際研究センターから選ばれた被験者を対象に血圧とナトリウム摂取量を比較しましたが、ナトリウム摂取量と高血圧症の有病率との間に相関関係は見られませんでした。実際に、最も塩分摂取量が多い約14g/日のグループでは、最も塩分摂取量が少なかった約7.2g/日のグループよりも血圧中央値が低かったことが明らかになりました。
最新の研究である「フラミンガム子孫研究」(ボストン大学医学部の研究者が主導)では、正常血圧である30歳から64歳の健常な男女2,632人を16年間にわたって追跡調査しました。研究者は、被験者の血圧測定値とナトリウム摂取量を比較しました。すると、意外にも一日当たりのナトリウム摂取量が少ない被験者の血圧の方が、より多くのナトリウムを摂取している被験者の血圧よりも高かったのです。この研究の著者の一人であるリン・ムーアは、「ナトリウムを制限した食事療法が、血圧に対して長期的に有益な効果があるという証拠は見られませんでした。近年のナトリウム摂取についての指導が誤っている可能性があることを示す証拠が増えていますが、私たちの調査結果は、それに1件の事例をさらに追加したことになります。」
この研究では、塩分の摂取量を減らすことによって、正常血圧もしくは高血圧の人の心臓発作、脳梗塞、もしくは死亡リスクを低減できるという強力な証拠を得ることはできませんでした。ヨーロッパの研究者達が2011年5月にアメリカ医学会誌で発表された論文で、ナトリウムの尿中排泄量が少ない被検者ほど、心疾患による死亡リスクが大きいことを報告しました。これらの調査結果は、「過剰な塩分は不健康である」という通念に対して疑問を投げかけます。ただし、ナトリウムをMSG(グルタミン酸ナトリウム)として摂取することによって、有害作用が生じる可能性はあります。MSGは、血圧を上昇させる可能性があることが研究で明らかになっています。タイと中国における他の研究でも、MSGと代謝性疾患、糖尿病、肥満との関係が指摘されています。味噌や醤油のような伝統的な調味料からナトリウムを摂取することをお勧めします。
ナトリウム摂取量について、それでも疑問や心配があるのであれば、一般的には食事で(理想的にはなるべく野菜から)より多くのカリウムを摂取することがよいでしょう。カリウムは、ナトリウムと同様に体内の体液と電解質のバランスに不可欠なミネラルです。カリウムの豊富な食事を食べることによって、ナトリウムが血圧に及ぼす影響を打ち消す可能性もあり、またそれによって腎臓結石を発症するリスクを減らすことができると考えられます。カリウムの一般的推奨量は一日あたり4,700mgです。
心血管疾患を避けるために最善の方法は、野菜が豊富な食事によって、ナトリウムとカリウムのバランスをとることです。また、納豆由来タンパク質分解酵素や、魚やオキアミ由来のオメガ3脂肪酸が豊富なオイルのように、血管疾患に役立つ健康食品もあります。