掲載9 植物性カンナビノイドを使用して内因性カンナビノイド系を調節し、他の器官に良好な影響を与えることができるか?
マリファナを医療の目的で使用することへの関心が高まっていることについて聞いたことはありますか?この問題は、世界中の人々の間で悪評と懸念が高まっている問題ですから、きっと耳にしたことがあるでしょう。マリファナは、精神活性効果があるテトラヒドロカンナビノール(THC)を含有することから、娯楽目的で吸われてきました。しかし、マリファナや大麻のような植物は、植物性カンナビノイドとして知られる多くの付加化合物を含んでいます。これまでに、何かしら植物性カンナビノイド、カンナビジオール(CBD)について聞いたことはあるのではないでしょうか。100種類を超える植物性カンナビノイドが発見されていますが、そのなかでもカンナビジオールは最も広く使用されています。さらに、人類を含む動物は、内因性カンナビノイド系と呼ばれるものを有していることが明らかになっています。内因性カンナビノイド系は他の器官と一体となって機能し、健康維持、物理的/精神的安定の維持に役立っています。科学者たちは、中枢および末梢神経系に存在して複数の細胞内シグナル伝達経路に関与する2つの受容体CB1とCB2を発見しました。植物性カンナビノイドとは何か、内因性カンナビノイド系がどのように機能するのかを理解するための科学は、過去30年間でかなり進歩しました。植物性カンナビノイドの科学的評価は主に経験によるもので、食欲、運動学習、疼痛、消耗疾患、化学療法による悪心と嘔吐に関連する複数の特定の症状についてしか試験が実施されていません。なぜなら、植物性カンナビノイドが社会的に望ましくない精神賦活性を有していることと、マリファナは多くの分野において合法性の問題があるからです。
それにもかかわらず、内因性カンナビノイドの重要性に対する認識は急速に高まっています。しかし、マリファナは世界的に禁止されているため、残念ながらほとんどの科学者や臨床医はこのことを知りません。内因性カンナビノイド受容体、内因性カンナビノイド、そしてこれらの生合成と生分解酵素が内因性カンナビノイド系を構成します。これを発見したことによって、内因性カンナビノイドの人間の健康における生理学的/病態生理学的役割を特定するための研究が始まったのです。このシステムは恒常性を調節するために役立ち、その受容体はすべての主要な臓器全体(特に脳)に遍在します。病気の状態は、少なくとも部分的にはこのシステムの調節不全によって発生すると仮定されています。つまり、このことによって植物性カンナビノイドが様々な健康障害の治療の選択肢として有効であることを最終的に証明できる可能性があるのです。さらに、内因性カンナビノイド系の発見によって植物性カンナビノイドと内因性カンナビノイド系の相互作用の研究が増加しました。
2種類のカンナビノイド受容体CB1(主に中枢に存在)とCB2(末梢を中心に主に免疫系細胞に発現)は、in vivoにおける複数のカンナビノイドの効果に似た働きをします。CB1とCB2、これらのGタンパク質共役受容体、そしてそれらの合成と代謝酵素を発見したことによって、健康や疾患における内因性カンナビノイド系の働きを研究するための前臨床試験が進められるようになりました。CB1受容体は哺乳類の脳で最も豊富なGタンパク質共役受容体であり、脳よりもはるかに低い濃度であるものの、ほぼすべての末梢組織や細胞の種類に存在することが知られており、重要な調節機能を担っていることが認識されています。CB1は、例えば、高脂肪、アテローム生成食、肥満のような病理学的条件でも存在します。CB2受容体の存在は概して免疫および造血細胞に限られていますが、その機能に関連性の高い発現が、脳の特定の領域、心筋、腸、内皮細胞、血管平滑、クッパー細胞、膵外分泌および膵内分泌、骨および生殖器官/細胞、および様々な腫瘍でも見られます。
米国国立衛生研究所によると、内因性カンナビノイド系は多くの末梢および中枢神経系、様々な末梢臓器においてその病態生理学的過程に関与しており、このことは人類に影響を与えるほとんど全ての疾患において、調節機能の活性が治療に役立つ可能性があることを示唆しているのです!In vitro試験や動物のin vivo試験によって、これらのステートメントは裏付けされています。一例を挙げると以下の通りです:(a) 肥満とメタボリックシンドローム、(b)糖尿病および糖尿病合併症、(c)神経変性、炎症、心血管系、肝臓、消化器、および皮膚疾患、(d)疼痛、および(e)がん。これらの研究は、内因性カンナビノイド系は本質的に末梢神経系および中枢神経系と様々な末梢臓器における病態生理学的過程に本質的に連鎖しており、したがって、内因性カンナビノイド系を調節することによって、人類に影響を与えるほとんどすべての疾患に治療効果がある可能性があるのです。閉塞性睡眠時無呼吸症候群、線維筋痛、慢性疼痛、多発性硬化症に関係する睡眠障害、成人における短期的な睡眠の改善に植物性カンナビノイドが有効であることを示唆している科学的根拠はある程度揃っています。正当な研究成果では、植物性カンナビノイドが不安、ストレスや心的外傷後ストレス障害の症状を軽減することが明らかになっています。これらの予備調査の結果によって、植物性カンナビノイドが人間の睡眠障害や慢性ストレスへの反応などの内因性カンナビノイド系の病態生理学的機能をどのように修正するかに焦点を当てた付随研究を実施することになりました。
これまで、植物性カンナビノイドを人間の治療や疾患への介入に使用した研究はほとんどありません。したがって、疾患や障害の治療のために植物性カンナビノイドをどのように使用できるのかということについては、多くの問題が残っています。臨床試験の結果はまだ限られていますが、いくつか重要な点を指摘することはできます。特に、現在一般的な治療法方法がほとんど存在しない神経変性疾患などの分野では、CBDと他の植物性カンナビノイドは有用性と効果を発揮し、さらなる研究による評価が必要な分子を含んでいます。比較的高濃度の植物性カンナビノイドが必要とされている標的がありますが、CBDは顕著な毒性、遺伝毒性、または変異原性もなく血液脳関門を通過することが明らかになっています。CBDの用量は1,200mgと高い忍容性が臨床試験で確認されています。CBDは多様な様式の作用機序を持ち、多くの領域において顕著な治療効果が期待されるため、大麻に含まれるTHCに次いで2番目に広く活用されている植物性カンナビノイドとなっています。したがって、植物性カンナビノイドは様々な障害や疾患を克服するための安全で効果的な物質として、薬理学的にも治療的にも大きな可能性を秘めているのです。
しかしながら、それでも多くの疑問が残されており、これらについては人間を対象とした試験で取り組む必要があります。たとえば、内因性カンナビノイドの細胞内/細胞外作用と、外部から導入されたカンナビノイドの作用は異なっていて、生理学的に異なる結果をもたらす可能性があります。多くのカンナビノイド受容体も内因性、合成、もしくは植物性カンナビノイドかどうかにかかわらず、幅広い範囲の非カンナビノイド受容ターゲットと相互作用し、これらの化合物の薬理学的プロファイルはユニークである場合が多くあります。酵素の代謝やアナンダミドの細胞取り込みを阻害し、分泌された内因性カンナビノイドの細胞外レベルを上昇させることによって、例えば、多発性硬化症、パーキンソン病、統合失調症、高血圧、炎症性腸疾患、アルツハイマー、うつ病、強迫性障害、癌などの効果的な治療戦略が生まれるかもしれません。したがって、まだ調査されていませんが、植物性カンナビノイドが内因性カンナビノイド系を調節するか、また、このことがどのように様々な疾患の症状に影響を与えるのかについては人間を対象としたデータはほとんどないため、これらを評価するためのさらなる研究が必要なのです。植物性カンナビノイドが病気の進行や多岐にわたる疾患の症状軽減に対して発揮する効果を調べる臨床試験を実施して、医療ニーズが満たされていない全て患者のために役立つのか、役立つのであればどのように役立てることができるのかを研究する必要があります。幸い、これまで研究されてきた植物性カンナビノイド治療のほとんどが標的障害からは独立しており、高い忍容性を示していますが、このことはさらなる臨床試験の有望な可能性があります。それぞれの(もしくは混合した)植物性カンナビノイドの効果についての臨床データは、摂食障害、神経変性疾患、情動障害、てんかん、その他の障害についての研究まで活用が広がっているようです。一方、現在のデータは植物性カンナビノイドの有望性を示しているものの、植物性カンナビノイドの内因性カンナビノイド系内における最大の有用性を理解するために、基礎から多岐にわたる分野まで横断的な基礎から臨床科学まで、さらに多くの研究を重ねる必要があります。