ドクターからの健康アドバイス

掲載12  肝細胞がんに対する予防戦略 3)ウイルス排除と抗炎症対策

3)ウイルス排除と抗炎症対策

肝臓の中にがんができる場合、大きく分けて二種類あります。肝細胞がんのほかに胆管細胞がんです。胆管細胞がんはウィルス感染とほとんど関わりませんで、おこる頻度は肝細胞がんに比して著しく低いです。

つまりB型肝炎ウィルスあるいはC型肝炎ウィルスにかかっていなければ、肝細胞がんになる可能性は極めて低いわけで、ひとまず安心してよいわけです。

ただし過度な飲酒は控えた方がよく、アルコールによる肝硬変はおこりますし、肝細胞がんにもなります。不思議なことに、ウィルス感染のある方々はおおむねアルコールがお好きのようで、これではその方々の肝臓には二重苦となりましょう。

ところで、上記のように肝硬変になってから肝細胞がんがおこりやすくなるわけですが、その背景には二つの要因が深くかかわります。ひとつには肝硬変状態での肝細胞の持続的な壊れと持続的な再生です。もうひとつは肝細胞の壊れにともなう慢性炎症です。

炎症細胞のつくり出す活性酸素は再生を続ける肝細胞のDNAを傷つけ続けます。こうした必然的なできごとは、今まで述べてきました生活習慣病としてのおとなのがんの起こりかたと同じことになっているのです。つまり慢性炎症ががん発生の促進的な役割(プロモーター)を果たしている点です。

B型肝炎ウィルスによる肝硬変の場合とC型肝炎ウィルスによる肝硬変の場合では、その後の肝細胞がんになる危険率に差があります。後者のほうが5年経っても、10年近くたっても肝細胞がんが発生しつづけます。

一方、B型肝炎ウィルス感染の肝硬変では5年後くらいから頭打ちになって肝細胞がんが起こらなくなる傾向があります。肝臓の一部を針でとって調べる肝生検という病理検査で、炎症細胞の程度がわかります。

肝硬変になった後でも炎症反応が強いほど、肝細胞がんが発生しやすい傾向があります。このことから、肝硬変になってからも炎症を抑える漢方薬や抗炎症作用のあるバイオブランのようなサプリメントは試みるべきものといえましょう。

ところで、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスのことが十分に解明されてきた現在では、上記のような過ちはなくなり、そして輸血の血液が十分に安全管理されています。先に発見されたB型肝炎ウィルスの感染患者数はどんどん減少しています。またC型肝炎ウィルスの感染患者数も減少傾向です。

一方治療薬として、さまざまなウィルス排除の薬剤が開発されてきていますが、ウィルスの細かい種類によってはいまだに効果は十分ではありません。肝細胞がんにならないようにするためには、まずウィルス排除が先決です。そして抗炎症対策が重要となりましょう。

肝硬変になったとしても、よい食事や機能性食品、ライフスタイルの改善などによるサポートは進行を食い止めることにつながり、発がんの時期を遅らせる力となるはずです。

おわりに

医学研究の歴史をひもとくと、「肝細胞がんはウィルス発がんか?」という点で大変重要な意義を持っています。しかし、B型肝炎ウィルスあるいはC型肝炎ウィルスが肝細胞のDNAあるいはRNAにくみこまれてがん化させたという直接的な証拠はいまだに見出されていません。
つまり今のところ、上の質問はNoという答えです。そのような現状分析から、私なりの仮説に立ってお話しもうしあげました。

<文献>
多羅尾和郎 他:C型肝硬変の血清ALT(GPT)降下におよぼす多剤併用療法の有用性に関する検討。臨床と研究 1998;75:184-193.
Oka H. et al: Prospective study of chemoprevention of hepatocellular carcinoma with Sho-saiko-to (TJ-9). Cancer 1995;76:743-749.
Ikeda K. et al: A multivariate analysis of risk factors for hepatocellular carcinogenesis. Hepatology 1993; 18:47-53.

ドクタープロフィール

浜松医科大学(第一病理) 遠藤 雄三 (えんどう ゆうぞう)

経歴

  • 昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。
  • 虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。
  • カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。
  • 現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。
  • 免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題>
生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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