掲載2 乳児と大人の腸内細菌のちがい
新生児の腸内に細菌がすみつくまで
ヒトは母体の胎内にあるときは無菌の環境で育つ。新生児として生まれると間もなく、皮膚や気道、消化管などの粘膜で細菌が増殖しはじめる。出生後はじめて排泄される胎便は通常無菌であるが、誕生の翌日には、ほとんどの新生児の糞便内に大腸菌(E.coli)腸球菌(Enterococcus)、クロストリジウム(Clostridium)、酵母などが出現し、哺乳後、細菌数は急激に増加し、生後1日目にはほとんどの新生児の糞便内に大腸菌、腸球菌、乳酸桿菌(Lactobacillus)、クロストリジウム、ブドウ球菌(Staphylococcus)などが認められるようになり、総菌数は1011/g以上になる。生後3~4日目頃、ビフィズス菌(Bifidobacterium)が出現しはじめ、はじめに出現した大腸菌、腸球菌、クロストリジウムなどは徐々に減少し、5日目頃にはビフィズス菌が最優勢となり、新生児の腸内菌叢のバランスはほぼ安定する。
母乳栄養児と人工栄養児の腸内菌叢
母乳で育てられている乳児(母乳栄養児)は、ミルクで育てられている乳児(人工栄養児)より消化不良症や赤痢などの腸内疾患や感冒にかかりにくく、死亡率も低いことが知られており、その原因の一つとして腸内菌叢の差異があげられている。すなわち、母乳栄養児の菌叢は単純で、ビフィズス菌が最優勢(90%以上)であるのに対し、人工栄養児の菌叢は複雑で、ビフィズス菌は母乳栄養児より菌数が低く、大腸菌や腸球菌も優勢に出現し、また、大人の糞便に最優勢菌として出現するバクテロイデス(Bacteroides)、ユウバクテリウム(Eubacterium)、嫌気性レンサ球菌(Peptococcaceae)などの嫌気性菌が検出される。
離乳期から大人の腸内菌叢
乳児の発育が進み、離乳食を摂るようになると腸内菌叢は大人に似てくる。その特徴はバクテロイデス、ユウバクテリウム、嫌気性レンサ球菌などの嫌気性菌群が増加し、大腸菌、腸球菌が減少することと、ビフィズス菌の菌種・菌型のパターンも乳児特有のB.infantis、B.breveが消失して大人のビフィズス菌であるB.adolescentis、B.longumが優勢に出現することである。 幼児の腸内菌叢のパターンは、大人とほとんど同じパターンである。
老人の腸内菌叢
老人においては総菌数がやや減少し、ビフィズス菌は検出されない個体がみられるようになり、菌数も減少し、これとは逆に、ウェルシュ菌が多くの老人で検出されるようになり、菌数も著しく増加する。また、乳酸桿菌、大腸菌、腸球菌も増加の傾向がはっきりみられる。この現象は腸内菌叢の老化とみることができるが、宿主の生理機能の老化が腸内菌叢に影響をおよぼした結果が、さらに老化を促進することにもなると考えられる(図)。