ドクターからの健康アドバイス

掲載1  人類の乳酸菌との出会い

発酵乳発祥の地方

発酵乳(酸乳、凝乳)の歴史は古く、人類が有蹄草食動物を群れとして飼い馴らし、その乳を食物として用い始めた時代にまで遡るとされている。発酵乳が食物として利用されて広まった主な地域としては、1)北欧 2)コーカサスを含む東西ヨーロッパ 3)旧ソ連邦の南部地域から中国西部、モンゴルにかけての地域 4)インド・ネパールの地域である(図)。
これらの地域は乾燥地帯が多く、水と草を求めて移動生活をする遊牧民が、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダなどから得られる乳を主要な食料の一つとして生活していた地域であり、また亜熱帯で高温な地域も多く含まれている。
このような地域においては、搾った乳は放置しておくだけで、混入した微生物、主として乳酸菌の増殖によって酸乳となり凝固し、酸乳となった乳は、むしろ他の微生物の増殖が抑えられて保存性を増し、また独特な風味が加わって、飲んでみたら味がよく、次第にこのような形態がそれぞれの地域で定着していったものと想像される。

乳酸菌の発見 

フランス・リールは、テンサイ糖を原料とするアルコール工業の中心地であったが、テンサイ糖発酵はしばしば酸敗して大きな打撃をうけ、1857年、醸造業者はパストゥールに援助を求めた。パストゥールは、アルコール発酵槽の微生物を調べ、酸敗したときは、糖が乳酸となるいわゆる乳酸発酵に変わっており、微生物も、別の微生物(乳酸菌)に変わっていることを発見した。これが最初の「乳酸菌の発見」である。

またこのとき、パストゥールは、酸敗した発酵槽に乳酸菌が酵母よりも熱に弱いことから、低温滅菌法(パストゥーリゼーション)を考案した。この頃、芽胞細菌を滅菌するための、120℃滅菌(高圧滅菌)や100℃3回滅菌(間歇滅菌)などの滅菌法も開発された。

ビフィズス菌とアシドフィルス菌の発見

1899年、パストゥール研究所のティシエは、母乳栄養児の腸内には空気のあるところでは発育しない嫌気性乳酸菌が、最優勢であることを見つけ、この菌をビフィズス菌(Bacillus bifidus communis)と命名した。
それ以来今日まで、この菌は小児科領域で乳児栄養の鍵を握る腸内細菌として、常に中心話題となって登場することになり、「乳児の腸内にビフィズス菌を増やす研究」、すなわち、「ビフィズス因子」の研究もはじまった。その翌年、オーストリヤ、グラーツ大学の小児科医モローは、人工栄養児および年長児の糞便から、もう1種類の乳酸菌を発見し、アシドフィルス菌(Bacillus acidophilusLactobacillus acidophilus )と命名した。

メチニコフのヨーグルトによる不老長寿説

ロシア生まれの生物学者で後の半生をフランスで送ったメチニコフは、「人間の老化や動脈硬化などは腸内腐敗が原因であると考え、ブルガリア地方には長寿者が多く、ヨーグルトを多食しているところから、ヨーグルトには腸内腐敗を抑える乳酸菌が生きており、この菌を摂れば長生きできる」という『ヨーグルトの不老長寿効果』を発表し、1907年、著書「The Prolongation of Life(寿命延長論)」で詳細に説明した。

図2

ドクタープロフィール

東京大学 名誉教授 光岡 知足 (みつおか ともたり)

経歴

  • 東京大学農学部獣医学科卒業。
  • 同大学院博士課程修了。農学博士。
  • 理化学研究所主任研究員、東京大学教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を歴任。
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