ドクターからの健康アドバイス

掲載12  糖質制限のための食事

食べてはいけない食品とは

糖質制限とは要するに「血糖値を上げない食べ物を食べる」ことです。食後に血糖値を上昇させるのはグルコースと体内で消化されてグルコースに変化する糖質(デンプンなど)だけです。脂肪とタンパク質はいくら食べても血糖は上昇しません。炭水化物は糖質(体内に吸収されて血糖値を上げる)と食物繊維(消化管で消化・吸収されないので血糖値を上げない)の2つに分類されますが、体内に吸収されない食物繊維はいくら食べても問題ありません。糖質が少なく食物繊維の多い食品としてキノコ類、海草類、葉菜類の野菜、こんにゃく、おから、小麦ふすまなどがあります。

糖質制限の実践では、食べてはいけない食品、少しなら問題ない食品、いくら食べても良い食品に大まかに分類して、個々の食品がどれに相当するのかを知っておくと食事のメニューを考えるときの参考になります。基本的なことを表にまとめています。

① 原則的に食べてはいけない食品:糖質の多い食品全て

1)穀物を使った食品;米(玄米も含む)、パン類、麺類(うどん、そば、ラーメン、パスタなど)、餅、せんべい、シリアル、トウモロコシ、など

2)砂糖や糖質を使ったお菓子類:ケーキ、まんじゅう、和菓子、チョコレート菓子、ポテトチップス、ポップコーン、アイスクリーム、プリンなど糖質の入ったお菓子全て

3)砂糖や異性化液糖などの入った食品や飲料;味付けに砂糖を多く使った食品の全て、糖類の入った清涼飲料水(コーラ、サイダーなど)やジュース類

4)イモ類や根菜類:ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、レンコン、ニンジン、ゴボウなど糖質の多い野菜

5)甘い果物:ブドウ、リンゴ、バナナ、パイナップル、カキ、ナシ、サクランボ、マンゴーなどほとんど(アボカド以外)の果物、全てのドライフルーツ

6)砂糖やフルクトースの多い甘味料や調味料;蜂蜜、シロップ、ジャム、ケチャップ、ソース

7)揚げ物:天ぷら、トンカツ、コロッケなど

② 少量なら食べてもよい食品:糖質は含まないが摂り過ぎは健康に良くない食品赤身の肉、加工肉、乳製品(牛乳、チーズ、バター)、食用油(菜種油、大豆油、紅花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、コーン油など)
③ いくら食べてもよい食品:糖質の含量が少ないかゼロの食品類大豆製品(豆腐、納豆、枝豆など)、魚貝類、卵、鳥肉、キノコ類、海草類、野菜(葉菜類)、アボカド、ナッツ類(特にクルミ、ピスタチオ)、コンニャク、エキストラバージンオリーブオイル、ココナッツオイル、中鎖脂肪酸中性脂肪(MCTオイル)

 

糖尿病の治療を目標にした糖質制限食に関する書籍には、肉や乳製品はいくら食べてもよい食品に分類されています。しかし、がん予防の研究分野では動物性脂肪の多い肉や乳製品、高温で加熱調理した赤身の肉、加工過程で発がん物質が生成されている加工肉、ω6系不飽和脂肪酸の多い食用油は適度の摂取にとどめるのが望ましいと考えられています。したがって私はがん予防の観点から、動物性脂肪の多い食品や赤身の肉や加工肉(ソーセージ、ハム、ベーコンなど)や食用油は摂りすぎない方がよい(少量なら問題のない)食品に分類しています。

基本を知って自由に工夫する

糖質制限食のレシピ本が多く出版されています。しかし、そのようなレシピ本に頼らなくても、糖質が健康に悪い理由を十分に理解し、表の内容を基本にすれば、食材を買うときに何を買ってはいけないかは判断できます。食事には各人で好みがあるので、どのような食品が良くて、何が悪いのかを知って、あとは自分の好みに合わせて料理を工夫すれば良いと言えます。

健康増進と老化予防の目的の場合の食事では糖質摂取量は1日50g以下を私は推奨しています。野菜や大豆やナッツ類には少量ですが糖質が含まれており、穀類やお菓子類を全く食べなくても、野菜や大豆製食品やナッツ類を多く摂取すれば糖質摂取は1日50g程度に達します。

がんや神経変性疾患などの難病の治療目的では、1日の糖質摂取量を40g以下(場合によっては20g以下)に制限し、中鎖脂肪酸やω3系不飽和脂肪酸やオリーブオイルを多めに摂取するケトン食を推奨しています。糖質1日20gは野菜を普通に食べていればほぼ達してしまう量です。糖質制限の是非や許容できる糖質摂取量に関してはいろんな意見がありますが、旧石器時代に人類は長い期間、糖質摂取量は1日10gから125g程度であったという報告を基準にしています。 ここでは健康増進と老化予防を目的とした糖質制限の食事の基本を解説します。

1)砂糖や異性化液糖(果糖ブドウ糖液糖や高フルクトースコーンシロップなどと呼ばれる)の入った食品はできる限り食べないようにします。製品になった食品を購入するときはラベルの原材料名や栄養成分表示をチェックして、砂糖や異性化液糖やグルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などの糖類を添加した食品は摂らないようにします。

2)穀物は基本的には摂取しません。しかし、1日の糖質摂取量を50g以下、1回の食事当たり20g以下に制限する条件であれば、少量の穀物の摂取は許容できます。その際、血糖を上げずインスリンの分泌を刺激しない食べ方があります。穀物を摂取する場合は、精白していない食材(玄米、全粒穀物、全粒粉など)を主体にします。そして、食物繊維やタンパク質の多い食品を先に食べて、糖の吸収を遅らせる工夫をします。ただし、20gの糖質というのは、おにぎり2分の1個、食パン1枚くらいしか食べられません。

3)糖質を減らす分、エネルギー源となる栄養素(タンパク質と脂質)をしっかり食べることが大切になります。このとき、健康に良い脂肪と悪い脂肪を知り、健康に良い脂肪(オリーブオイル、ω3系不飽和脂肪酸、中鎖脂肪酸)を多く摂取します。加工肉や赤身の肉は減らし、大豆やナッツ類や魚介類の摂取を増やします。

4)糖類の入った飲料水は飲まないようにします。人工甘味料の入ったカロリーゼロと表示された飲料も安全ではありません。多く飲まない方が良いと言えます。

5)甘い果物はあまり食べないことが大切です。果物が健康に良いというのは、それに含まれるビタミンやフラボノイドなどの抗酸化物質が含まれるからです。最近の果物は甘いだけでこのような健康に良い植物成分が少なくなっています。フルクトース(果糖)は糖化作用が強いので、加工食品に添加されているフルクトースだけでなく天然のフルクトースの摂取量を減らすことも大切です。レモンやライムのような糖類の少ない柑橘系の果物を少量摂取する程度であれば許容範囲です。

6)高温で調理した食品は食べ過ぎないようにします。高温で調理すると糖化最終生成物(AGE)が増えるからです。AGEは炎症と酸化ストレスを高め、組織のタンパク質のクロスリンク(架橋)を促進して、動脈硬化や皮膚の老化を促進し、寿命を短くします。

以上のような注意点を理解して、日常の食生活から糖質の摂取量を減らし、調理法や食べ方を工夫すると糖質の有害作用を最大限に減らすことができます。

ストレスを溜めない糖質制限食

最近は、小麦ふすまなど食物繊維を利用した糖質の少ないパン類や、コンニャクイモや豆腐を使った麺類なども販売されるようになっています。どうしてもパンや麺類が食べたいときはこのような糖質を減らした食品を利用して糖質制限のストレスを軽減することもできます。糖類の含まれる食品は摂取しないことが、体の老化を遅らせ、がんや動脈硬化など様々な病気を予防する基本です。若々しい状態で健康寿命を延ばすには糖質摂取はできるだけ減らすのが基本です。

しかし、あまり厳密な制限はストレスになります。たまに精製していない糖質を少量食べることは許容範囲です。たまに息抜きすることも必要です。その時に、小麦ふすまやコンニャクイモや豆腐やおからなど糖質の少ない材料を使ったパンや麺類の食品は便利です。糖質を食べるときにも、食物繊維(野菜、豆、キノコ、海草類)やタンパク質(肉、魚、卵)の多い食品を一緒に摂ると急激は血糖値の上昇を防げます。

緑黄色野菜に多く含まれるプラボノイドなどのポリフェノール類は糖化と酸化を防ぐ作用があります。ジャガイモや人参やゴボウのようにイモや根菜類は糖質を多く含むので、糖質の少ない葉菜類(ホレンソウ、小松菜、ニラ、パセリなど)を多く摂取します。

果物には糖類が多く含まれる

フルクトース(果糖)は血糖やインスリン分泌を高めないため短期的にはメリットがありますが、長期的には様々なメカニズムで健康に悪いことが最近は指摘されています。食品に添加された砂糖や異性化液糖に含まれるフルクトースの摂取量が問題になっています。天然のフルクトースの摂取源である果物が健康に悪いかどうかは議論のあるところです。しかし、甘い果物にはフルクトースだけでなくグルコースや蔗糖も多く入っているので、あまり多く食べることは問題です。

多くの果物は100グラム当たり10〜20グラム程度の糖質を含みます。レモンやグレープフルーツでも100グラム当たり8〜10グラムの糖質を含みます。リンゴやブドウや梨は100グラム当たり10グラム以上の糖質を含み、バナナは100グラム当たり20グラム以上の糖質を含みます。がんや循環器疾患の予防に野菜や果物が良いという考えが普及していますが、糖質の多いものは避けることが大切です。その中で例外がアボカドで、100g当たりの糖質は1g以下で、食物繊維を5g以上含み、脂肪が15g以上でオリーブオイルと同じオレイン酸が豊富です。

甘い果物には、フルクトースとグルコースと蔗糖が一緒に含まれています。例えば、スイカは可食部の90%が水分で、タンパク質が0.6%、脂肪が0.4%で、残りの9%がグルコースやフルクトースや蔗糖などの砂糖類です。蜂蜜は砂糖よりも健康に良いと考えられていますが、蜂蜜100g中にはフルクトースが42.4g、グルコースが33.8g含まれています。蜂蜜も摂り過ぎると健康には悪いと言えます。フルクトースはインスリンの分泌を少ししか刺激しませんが、グルコースと一緒に摂取するとグルコースによるインスリン分泌を増強します。フルクトース自体にがん促進効果があり、タンパク質の糖化作用と糖化最終生成物(AGE)の産生能はグルコースより強いといわれています。つまり、フルクトースとグルコースの摂取量が多いと、相乗的にがん細胞の増殖を促進し、正常細胞の老化を促進することになります。最近の研究ではフルクトース(果糖)がグルコースより健康に良いという考えは否定されています。

本コラムでは糖質制限のメリットを解説しました。糖質を多く摂取していたら老化が進行し、認知症や寝たきりになるリスクが高くなります。一方、糖質摂取を減らせば、健康な状態で100歳以上の長寿を達成できる可能性が高くなります。

ドクタープロフィール

銀座東京クリニック 院長 福田 一典 (ふくだ かずのり)

経歴

  • 昭和28年福岡県生まれ。
  • 昭和53年熊本大学医学部卒業。
  • 熊本大学医学部第一外科、鹿児島県出水市立病院外科勤務を経て、昭和56年から平成4年まで久留米大学医学部第一病理学教室助手。
  • その間、北海道大学医学部第一生化学教室と米国Vermont大学医学部生化学教室に留学し、がんの分子生物学的研究を行う。
  • 平成4年、株式会社ツムラ中央研究所部長として漢方薬理の研究に従事。
  • 平成7年、国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長として、がん予防のメカニズム、および漢方薬を用いたがん予防の研究を行う。
  • 平成10年から平成14年まで岐阜大学医学部東洋医学講座の助教授として東洋医学の教育や臨床および基礎研究に従事した。現在、銀座東京クリニック院長。

<主な著書等>
「がん予防のパラダイムシフト--現代西洋医学と東洋医学の接点--」(医薬ジャーナル社,1999年)、「からだにやさしい漢方がん治療」(主婦の友社,2001年)「見直される漢方治療~漢方で予防する肝硬変・肝臓がん」(碧天舎,2003年)など。

他のコラムを見る
TOP