ドクターからの健康アドバイス

掲載8  糖質と甘味は中毒になる

脳内報酬系が活性化されると快感を感じる

人間を含めて動物は「気持ちがよい」とか「快感」を求めることが行動の重要な動機になります。このような快感が生じる仕組みは脳内にあり「脳内報酬系」と呼ばれています。脳内報酬系は、人や動物の脳において欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快感の感覚を与える神経系です。
脳の腹側被蓋野から側坐核および前頭前野などに投射されているA10神経系(中脳皮質ドーパミン作動性神経系)と呼ばれる神経系が脳の快楽を誘導する「脳内報酬系」の経路として知られています。

ラットの実験で、この神経系に電極を埋め込んで電気刺激をするとラットは盛んにレバーを押して電気刺激を求めたことから、この神経系が活性化すると快感を感じることが発見されました。A10神経系で主要な役割を果たす神経伝達物質がドーパミンです。ドーパミンはアミノ酸のチロシンから作られるアミンの一種で、人間の脳機能を活発化させ、快感を作り出し、意欲的な活動を作り出す神経伝達物質です。A10神経系が刺激されると、ドーパミンが放出され、脳内に心地良い感情が生ずると考えられています。このシステムは、正常な快感とともに、麻薬や覚せい剤のような薬物による快感や、そのような薬物への依存の形成にも関わることが知られています。脳内報酬系においてドーパミン放出を促進し快感を生じると、それが条件付け刺激になって依存症や中毒という状態になります。コカインのような覚せい剤やモルヒネなどの麻薬のように依存性をもつ物質は、ドーパミン神経系(脳内報酬系)を賦活します。

このような依存性のある薬物は連用すると、同じ量を摂取しても快感の度合いが次第に小さくなります。そのため、快感を得るためにさらに摂取量を増やすようになります。さらに、その薬物が入ってこなくなると、ドーパミン神経系が低下し、不安症状やイライラ感などの不快な気分が生じます。これが禁断症状(離脱症状)です。このように、脳内報酬系を活性化して依存性になる薬物では、次第に摂取量が増えることや離脱症状の存在、その薬物の摂取を渇望することなどが特徴です。

糖質と甘味は脳内報酬系を刺激する

糖質も甘味も薬物依存と同じ作用をすることが動物実験などで明らかになっています。快感を求めて甘味や糖質の摂取を求め、次第に摂取量が増え、摂取しないとイライラなどの禁断症状が出てきます。ラットの実験で、コカインよりも甘味の方がより脳内報酬系を刺激するという結果が報告されています。つまり、甘味はコカインよりも中毒(依存性)になりやすいという実験結果です。砂糖の多い食品や飲料の過剰摂取は甘味による快感によって引き起こされ、これは薬物依存との共通性が指摘されています。そこで、甘味による依存性(甘味中毒)と薬物に対する依存性(薬物中毒)のどちらが強いかを比較する目的で実験が行われています。

この実験では、ラットを2つのレバー(ドアの取手)があるケージに入れ、一つのレバーを押すとコカインが静脈注射され、もう一つのレバーを押すとサッカリンの入った水を20秒間だけ飲めるような仕組みを作って実験しています。するとほとんどのラットはサッカリンの入った水を飲むレバーを多く押したという結果が得られたのです。サッカリンは砂糖の200倍以上の甘味があるカロリーゼロの人口甘味料です。コカインは中枢神経を興奮させて強い快感を得るので薬物依存症(薬物中毒)になりやすい覚醒剤です。サッカリンの代わりに砂糖でも同じ効果でした。サッカリンに対する嗜好はコカインの投与量を増やしても変わらず、コカイン中毒になったラットを使ってもサッカリンの方を選ぶという結果が得られました。つまり、この実験結果は、甘味に対する中毒はコカイン中毒よりも勝るということを示しています。

ラットやヒトを含めて多くの動物において、甘味に対する味覚受容体は砂糖の少ない太古の時代の環境で進化したため、高濃度の甘味物質に対しては適応できていません。現代社会において日常的になっている砂糖が豊富な食事によって味覚受容体が過剰に刺激されると、脳において過剰な報酬シグナルとなるので、自制のメカニズムを超えてしまい中毒になってしまうのだと、この論文では考察しています。

糖質は脳内麻薬の産生を増やす 

グルコースは脳神経の主なエネルギー源です。したがって、糖質の多い食事で血糖が上がることは脳にとっては快感となり、報酬系を活性化するように糖質を求めるようになります。また、甘味自体が味覚神経系を介して報酬系を活性化します。さらに、甘味物質や糖質は脳内麻薬と言われるβーエンドルフィンの産生を増加させることがラットを用いた実験で報告されています。エンドルフィンは「体内で分泌されるモルヒネ」という意味です。マラソンなどで長時間走り続けると気分が高揚してくるランナーズハイと呼ばれる現象はエンドルフィンの分泌によるものとの説があり、性行為をするとベータ・エンドルフィンが分泌されると言われています。つまり、甘味物質や糖質は脳内報酬系のドーパミンと、脳内麻薬のエンドルフィンを増やすことによって、強い快感を感じるようになります。

砂糖の主成分である蔗糖はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が繋がった2糖です。高フルクトース・コーンシロップ(果糖ブドウ糖液糖)はグルコースとフルクトースが混ざった糖液です。グルコースは脳のエネルギー源として報酬系を活性化し、フルクトースはグルコースの2倍の甘さがあるので甘味によって報酬系を活性化すると考えられます。つまり、砂糖や高フルクトース・コーンシロップは中毒になりやすい食品と言えます。甘い果物も蔗糖とグルコースとフルクトースが一緒に含まれるので中毒になりやすいと言えます。

多くの人々の食事において、精製した糖(蔗糖や果糖や異性化液糖など)は人間の歴史においてつい最近まで存在しませんでした。しかし今日では、このような精製した糖の豊富な食事が増えています。そして、糖質や甘いものが止められない人が増えています。これが、肥満や糖尿病が急激に増えている原因にもなっています。甘味や糖質に対する中毒は、甘味や糖質を断つことによって克服することは可能です。甘い食品が止められない人は、自分が中毒になっていることに気づいて、甘味や糖質依存から脱却する努力が必要です。

ドクタープロフィール

銀座東京クリニック 院長 福田 一典 (ふくだ かずのり)

経歴

  • 昭和28年福岡県生まれ。
  • 昭和53年熊本大学医学部卒業。
  • 熊本大学医学部第一外科、鹿児島県出水市立病院外科勤務を経て、昭和56年から平成4年まで久留米大学医学部第一病理学教室助手。
  • その間、北海道大学医学部第一生化学教室と米国Vermont大学医学部生化学教室に留学し、がんの分子生物学的研究を行う。
  • 平成4年、株式会社ツムラ中央研究所部長として漢方薬理の研究に従事。
  • 平成7年、国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長として、がん予防のメカニズム、および漢方薬を用いたがん予防の研究を行う。
  • 平成10年から平成14年まで岐阜大学医学部東洋医学講座の助教授として東洋医学の教育や臨床および基礎研究に従事した。現在、銀座東京クリニック院長。

<主な著書等>
「がん予防のパラダイムシフト--現代西洋医学と東洋医学の接点--」(医薬ジャーナル社,1999年)、「からだにやさしい漢方がん治療」(主婦の友社,2001年)「見直される漢方治療~漢方で予防する肝硬変・肝臓がん」(碧天舎,2003年)など。

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