ドクターからの健康アドバイス

掲載3  自己とは?非自己とは?(3)アレルギー

アレルギーとは

これまでの内容で、私たちのからだに備わった「生体防御システム」が「自己と非自己」という枠組みのなかでいかに絶妙なのか、その一端でもガッテンして頂けたのではないでしょうか。

いよいよ、免疫系の乱れた反応とくに「過剰な反応という病態」について話を進めていきましょう。これはとりもなおさず「アレルギー」イコール炎症を理解することにほかなりません。これは、以前に触れましたように、「オミコシワッショイ」と担ってくれている白血球たちの反乱にほかなりません。

反乱状態を詳しくのべる前に、アレルギーということばの誤解について触れておかなければなりません。皆さんが使っている「アレルギー」と「病態としてのアレルギー」とでは大きく異なります。結論から先に申し上げますと、皆さんの理解している「アレルギー」は「病態としてのアレルギー」のごく一部にすぎません。

この誤解は免疫学研究の発展史によるものですから、皆さんがまちがっているのではありません。かくいうわたしも無意識に誤解して「アレルギー」ということばを使っていることに後で気づくことがあります。アレルギーということばからお話した方がよいでしょう。

アレルギーは英語で「Allergy」と書きます。「-ergy」はエネルギーの「en-ergy」とことばの根っこ(ギリシャ語)は同じで、まさに 「力」を意味します。一方、「allo-」は「異なった」あるいは「似て非なるもの」というニュアンスがあり、英語では「other」に近いです。つまり、アレルギーとは「変でおかしくなった他の免疫の力」ということばで置換えることができます。以下に二つの例を挙げておきます。

今を盛りと咲き誇っている「現代の医学」は、医学史的には「allopathy」(アロパシー)と呼ばれることがあります。一方の伝統医学の「naturopathy」(ナチュロパシー)と対峙しています。ほかに「homeopathy」(ホメオパシー)という一派があります。皆さんにもなじみなことばが出てきたとおもいます。

この場合の「アロパシー」ということばのなかには「異なった」のほかに「対抗して」というニュアンスが含まれています。たとえば風邪を引いて発熱した場合に、熱を下げようとする考え方は「アロパシー」的です。

日本人の一般常識では、発熱した時には当たり前のようにふとんの中でじっとして汗をかいて発汗させようとするでしょう。この考え方(習慣)はホメオパシー的です。

ところが、欧米では水を入れたバケツの中に足を浸してからだ冷やそうとします。また、ふとんをかけたりせず、むしろ冷やそうとします。つまり上がった体温を冷やそうとする習慣があるのです。筆者がヨーロッパに留学した折に感じたこの奇妙なカルチャーショックは未だに忘れることが出来ません。これを見習おうとしない気持ちは、その後も今も変わりませんが。

現代医学の治療法の考え方は病気に対して“ものの見事”に対抗的です。皆さんはそう思いませんか?細菌感染に対しては抗生物質で徹底的にやっつけるというアロパシーの考え方は、現代医学の思想(イデオロギー)です。私達は、この医学思想の恩恵に知らず知らずのうちに浴しているのはいうまでもありません。

もう一つの例は「allograft」ということばです。日本語では「臓器移植」です。この場合の「allo-」とは家族でも他人でも全ての自分以外のヒトです。人間という意味では同じ動物種ですが、「自分でない変わった他人=other」なのです。では一卵性双生児同士は「homo-」となります。一方、二卵性双生児同士は「allo-」です。生物学的に厳密な関係が、「杓子定規」に決まっているのです。

I型アレルギー

というようなわけで、厳密な意味でアレルギーということばがヒトに備わった生理学的反応と「異なった病態」として「治りづらい炎症」(アレルギー)という形で認識されてきました。一番ありふれて目立つ病態現象であり、医者達を治療方法でこまらせた病態が、いわゆる「一番目のアレルギー」だったのです。

今でいう「気管支喘息」「アトピー」「花粉症」「食物アレルギー」などの一群の病態です。これらの病態の極端な緊急事態は「アナフィラキシー」という致命的な呼吸困難での死亡です。これは昔から大変恐れられており、今でも同じでしょう。

この病態の研究は「疫病を免ぜられるしくみの研究である」免疫学の次の目標でした。この研究に没頭され世界の人々に影響を与えた研究者が石坂公成先生ご夫妻です。ご夫妻は、この治りにくい病態にかかわる免疫グロブリンIgE(レアギン)の発見者として医学史に銘記されているのです。

アレルギー病態のクームス分類

このほかに「治りづらい免疫病態」アレルギーにかかった患者さんたちを臨床的に観察、治療していくうちに、難病は一番目のアレルギーのほかに三つのグループにわけて理解されるようになりました。

イギリスの臨床免疫学者であるクームス先生のグループは免疫、炎症病態をアレルギー病態の四群分類として提唱しました。この分類は患者病態を理解するのに大変重要なヒントを与えたと考えられ、現在でも世界の医療に浸透しています。

教科書的に示しますと以下のようになります。

I型アレルギー(即時型アレルギー、アナフィラキシー型)
II型アレルギー(細胞障害型)
III型アレルギー(免疫複合物沈着型)
IV型アレルギー(細胞性免疫型、遅延型)

これらの病態の分類は、さまざまな症状で悩まれた患者さんがたを綿密に観察した結果であり、病態診断として確立します。診断から治療方法の開発ということで、何とか症状を和らげようとする対症療法が工夫されてきました。現代医学はこれらのアレルギー病態に対して当初は十分に力を発揮できなかったのですが、アロパシーの現代医学は近年になって面目躍如の対抗医療を開発してきています。

しかしナチュロパシー的あるいはホメオパシー的な手段も捨てがたい効果を発揮しています。これらの症状という現象はまさに「免疫と炎症」そのものですので、次回で「炎症とは何か」について、このアレルギー四型との関連性で詳しく説明していきましょう。このテーマ「自己と非自己」の究極の目標はがん免疫療法ですので、しばらくご辛抱いただきながら期待していてください。

ドクタープロフィール

浜松医科大学(第一病理) 遠藤 雄三 (えんどう ゆうぞう)

経歴

  • 昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。
  • 虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。
  • カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。
  • 現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。
  • 免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題>
生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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