掲載21 自己とは?非自己とは?(21) 大腸と腸内細菌
大腸における腸内細菌
大腸の内容物は盲腸、上行結腸部では液状で、横行結腸から下行結腸では半流動から徐々に固形化していきます。この事実は肛門までの間に大腸内容物は99%の液体成分は吸収されつくすということを意味しています。吸収されるものは文字通りの単なる水だけではありません。消化しつくされたさまざまな物質を含んでいます。内容物と大腸上皮細胞とのかかわりが極めて緊密な関係であることは「がんシリーズ」の大腸癌発生のところで詳しく述べました。
大腸では腸内細菌は菌量ならびに細菌種類が小腸に比して格段に増加します。大腸内容物によっても変動が著しいことになります。抗生物質などが投与されますと、腸内細菌叢に大変動が起きます。こうした大腸内環境からの免疫系への影響は多大なものがあります。この末梢でのできごとは、自律神経系ならびに血液循環系を介して視床下部に大きな影響を与える情報となります。
潰瘍性大腸炎
クローン病の説明の際に触れました潰瘍性大腸炎も慢性炎症性疾患であります。この病気の初発部位は肛門部で、徐々に右結腸部へと広がっていきます。抗生物質によってかえって症状を悪化させることが多く、むしろ炎症を抑える薬が使われます。潰瘍は浅く、丁度食べ物の流れとは逆行して広がっていきます。これはクローン病のように潰瘍が深くなることはなく、粘膜表面を這うようにびらん(浅い潰瘍)が広がっていく進行性の慢性炎症性疾患です。抗炎症剤やステロイドなどの免疫抑制剤、場合によっては、末梢血液から好中球を除去することで炎症を抑えることもあります。重症例では、炎症性サイトカインの代表格のTNFαに対する単クローン抗体を投与して、炎症を押さえ込むことが行われています。この病気は若いヒトに多く、学生の病気ともいわれることがあります。学生のとくに試験の時期に発生することで知られています。つまり過剰なストレスと潰瘍性大腸炎が密接にかかわって発症します。そして消化管内の環境と粘膜上皮細胞、免疫細胞、自律神経系のかかわりが病像に深く影響しています。この慢性炎症が大腸癌発生に深くかかわっており、発癌予防という意味でも潰瘍形成を抑えていかなければなりません。