ドクターからの健康アドバイス

掲載5  癌治療におけるサプリメントと役割

癌の発症には、食生活や生活習慣(喫煙や運動不足など)が大きく関与していることが明らかになっています。

特に、食生活が癌発生原因の3分の1以上を占めるとみる研究者が多く、癌を予防する食物の研究から、癌予防のためのサプリメントが数多く開発されています。食事による癌予防効果をサポートするという点において、適切なサプリメントの利用は有用であると考えられています。

がん予防のための食生活は、野菜や果物、豆類など植物性食品が豊富な食事を行い、動物性脂肪や赤身の肉の取りすぎに注意する、というのがコンセンサスになっています。このような食生活を守ればサプリメントの摂取は不要であるという意見もあります。

しかし、生体の免疫機能や抗酸化機能が癌顕在化の抑制に作用していることは多くの研究で示されており、免疫機能も体内の酸化防止の能力も20歳台をピークにして加齢とともに徐々に衰えていくという事実から、抗酸化性物質や免疫賦活作用を有する食品やサプリメントを積極的に摂取することは、癌の発生予防や再発予防に有益であると多くの研究者は考えています。

癌予防においては、活性酸素や発癌物質の害を軽減するもの(抗酸化物質など)、免疫機能を活性化・増強するもの(βグルカンなど)、あるいは癌予防の食生活で推奨されているω3不飽和脂肪酸を含む魚油、大豆イソフラボン、食物繊維、茶カテキン、乳酸菌などを製品化したものが利用されており、これらを日頃から適量を利用することは、健康増進や癌予防の観点から有用だと考えています。

癌患者の多くが、栄養素の不足、体力や免疫機能や抗酸化能の低下、血液循環や消化吸収機能の障害など多くの問題を抱えており、これらの問題を減らすことが、癌治療の効果を高め、再発予防に有用であることは常識的に納得できます。

癌の標準的治療(手術・抗がん剤・放射線治療)は、正常組織の障害や体力や抵抗力の低下を招く欠点があります。手術侵襲によって体力消耗や生体防御能の低下が起こり、消化器系の切除手術では、術後に消化吸収能の障害が残って栄養状態の低下が起こります。

抗癌剤や放射線治療は、ともにフリーラジカルを発生し、正常組織の障害も引き起こし、DNA変異を引き起こすため発癌性があり、その結果、抗癌剤や放射線治療の晩期後遺症(副作用)として二次癌の発生も問題になります。体力や免疫機能の低下は癌の再発や転移のリスクを高め、感染症を引き起こす原因にもなっています。

このような癌の侵襲的治療による体力や免疫機能の低下を改善するために、栄養素の補充や滋養強壮・免疫増強・抗酸化などの作用を有するサプリメントの適切な使用は、理論的には有用であると考えられます。

ただし、がん細胞に対する直接効果を過大に期待することは間違いです。また、癌治療中は、医薬品との相互作用によって治療を妨げたり、副作用の原因となる場合もあることを理解しておく必要があります。

厚労省研究班が行った調査では、がんセンターやホスピスなど127施設の患者3094人のうち4割強が民間療法を受けうち9割が健康食品を摂取していたと報告されています。米国の報告でも、癌患者の20?55%がサプリメントを利用している実態が報告されており、癌患者におけるサプリメントの利用はグローバルな傾向だといえます。

しかし、「主治医にサプリメントの使用を告知していないケースが多い」、「誇大広告が氾濫し、良い面しか言わずに、問題点や注意点についての情報が乏しい」という問題点も指摘されるようになってきました。

実際に、癌患者における間違ったサプリメントの使用例もかなり見られますし、医療機関や販売業者による違法な行為も問題になっています。特に癌治療においては、サプリメントの「適切で正しい使用」ということが今後クローズアップされてくると思います。

ドクタープロフィール

銀座東京クリニック 院長 福田 一典 (ふくだ かずのり)

経歴

  • 昭和28年福岡県生まれ。
  • 昭和53年熊本大学医学部卒業。
  • 熊本大学医学部第一外科、鹿児島県出水市立病院外科勤務を経て、昭和56年から平成4年まで久留米大学医学部第一病理学教室助手。
  • その間、北海道大学医学部第一生化学教室と米国Vermont大学医学部生化学教室に留学し、がんの分子生物学的研究を行う。
  • 平成4年、株式会社ツムラ中央研究所部長として漢方薬理の研究に従事。
  • 平成7年、国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長として、がん予防のメカニズム、および漢方薬を用いたがん予防の研究を行う。
  • 平成10年から平成14年まで岐阜大学医学部東洋医学講座の助教授として東洋医学の教育や臨床および基礎研究に従事した。現在、銀座東京クリニック院長。

<主な著書等>
「がん予防のパラダイムシフト--現代西洋医学と東洋医学の接点--」(医薬ジャーナル社,1999年)、「からだにやさしい漢方がん治療」(主婦の友社,2001年)「見直される漢方治療~漢方で予防する肝硬変・肝臓がん」(碧天舎,2003年)など。

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