気候変動は健康にも影響する

気候変動は健康にも影響する

気候変動は健康にも影響する

WHR 9月近年、地球の気候変動が大きな問題となっています。今回は、このような気候変動が私達の健康に及ぼす影響について、アメリカのレポートからご報告します。

 

「気候変動と戦おう」米国の内科医ら呼びかけ

米国内科学会(ACP)は、「温暖化と天候パターンの変化により関連する疾患が増加し、人々の健康が蝕まれつつある」との声明を発表しました。同学会では、温室効果ガスの排出を抑えることで、気候変動と戦うことを呼びかけています。同学会会長のWayne Riley氏は、「地球温暖化に伴い、呼吸器疾患や熱射病、感染症が増加している。気候変動への対処を始めないと、こうした健康被害はますます増えるだろう」と述べています。詳細は「Annals of Internal Medicine」オンライン版に2016年4月19日に掲載されました。

同学会では、気温上昇により、オゾン汚染、山火事の煙、牧草や樹木などから生じるアレルゲンの増加、熱に関連する疾患(熱疲労、熱射病など)、虫が媒介する疾患(ジカウイルス、デング熱、チクングニア熱など)、飲料水が媒介する疾患(コレラなど)、そして精神疾患(自然災害に関連する外傷後ストレス障害やうつ病、熱波に伴う不安やストレスなど)の発生が増加することを指摘しています。ACPでは医師会員に対し、地域社会で気候変動の政策について話し、診療のエネルギー効率を率先して高めるよう促しています。また、省エネルギーや建物の緑化などを通じて、二酸化炭素排出量を低減できるとも呼びかけています。

激しい雷雨が高齢者の呼吸器疾患の症状悪化に関連

温暖化による激しい雷雨が、高齢者の呼吸器疾患に悪影響を与えていることを示唆する研究結果が明らかになりました。米ハーバード大学医学大学院医療政策部門のChristopher Worsham氏らによるこの研究では、大規模な雷雨に先立って生じる大気の変化が、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を持つ高齢患者の呼吸器症状を悪化させ、救急外来の受診リスクを高める可能性が示されたということです。詳細は「JAMA Internal Medicine」8月10日オンライン版に発表されました。
Worsham氏らは今回、1999年1月~2012年12月の全米の気象データと、65歳以上のメディケア受給者の同期間の追跡データを収集。これらのデータを用いて、大規模雷雨と呼吸器症状による救急外来受診の関連について検討しました。Worsham氏らがデータを詳細に調べた結果、呼吸器症状による救急外来の受診件数は、大規模雷雨の前日に最も増加することが判明しました。

このような結果についてWorsham氏は、「高齢者の呼吸器症状による救急外来の受診件数は、雷雨に先行して生じる気温の上昇や粒子状物質の飛散数の増加などの大気の変化と時を同じくして増加することが明らかになった」と説明しています。粒子状物質は塵や埃、火災で生じる煤、自動車の排気ガス、工場などから排出される種々の排気物質などの微小な物質を指します。同氏は、これらの微小物質は、人々の肺の中まで入り込みやすく、気道に刺激を与え、喘息やCOPDを増悪させる場合があると指摘します。専門家の間では、温暖化の進行に伴い、雷雨の激しさも増すことが予測されています。そのことからも、Worsham氏は、環境の変化が人々の健康に影響を与え得るという、今回の研究で得られた知見の重要性を強調しています。

気候変動で花粉症の有病率が高まる?

最近、アレルギー症状が出る時期が早まった、あるいは症状が長引くようになったと感じていたら、その感覚は正しいかもしれません。メリーランド大学(米国)応用環境医学准教授のAmir Sapkota氏らの研究から、気候変動によって季節にずれが生じ、例年より3週間以上も早く春が訪れた地域では、花粉症の有病率が14%高まることが明らかになりました。同氏は「気候変動は生態系に影響を与え、その影響はわれわれの健康にも及んでいる」としています。この研究結果は「PLOS ONE」2019年3月28日オンライン版に発表されました。

Sapkota氏らは今回の研究で、NASAから提供された高解像度の衛星データを用いて、植物が緑色に変化した時期に基づき、2001~2013年における米国全土の春の緑化や開花が始まった時期を調べました。また、この情報を、2002~2013年に米疾病対策センター(CDC)が収集した米国人を代表する標本データと関連づけ、春が始まる時期が早まったり、遅くなったりすることが健康に及ぼす影響について検討しました。

その結果、春の緑化や開花のタイミングが早まると花粉症の有病率は高まることが明らかになりました。Sapkota氏は、春の始まりが早まると木々の開花も早まるため、例年よりも早く花粉が飛散し始め、飛散期間が長期化したことが影響した可能性があるとしています。ただ、春の訪れが遅くなっても花粉症の有病率には上昇が見られました。例年よりも春の訪れが3週間以上遅かった地域でも、花粉症の有病率は18%高まることが分かりました。この結果は、Sapkota氏にとって予想外で、その理由は明らかではないとしていますが、「幅広い種類の木や草花が同時に開花することが、アレルギー症状を悪化させる一因ではないか」と推測しています。

この研究には関与していない、米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)公衆衛生学シニア・アドバイザーのJohn Balbus氏は、今回の報告を受け、「全国規模の健康データに基づき、開花時期やその期間の変化が花粉症の有病率と関連することを初めて明らかにした研究だ」と評価しています。

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