「気候非常事態」に世界の科学者らが警鐘

「気候非常事態」に世界の科学者らが警鐘

「気候非常事態」に世界の科学者らが警鐘

WHR 6月地球は「気候の非常事態」に直面しており、思い切った方策をとらなければ人類に計り知れない苦難がもたらされることになる――。そう主張する研究論文が、「BioScience」2019年11月5日号に発表されました。この論文には世界153カ国の科学者1万1,258人が賛同し、共同署名しています。今回は、地球温暖化によって私達が直面する問題について、米国のレポートからご紹介します。

前述の論文の筆頭著者である米オレゴン州立大学教授のWilliam Ripple氏は、「気候変動による地球温暖化は飢餓や疾患を劇的に増加させ、既に人々の健康に打撃を与えている」と説明。気候変動は多くの科学者の予測よりも早い段階から始まり、急速に進行し、その影響は極めて深刻なものだということです。

温暖化による感染症の拡大

また、米ノースウェル・ヘルスのEric Cioe Pena氏も「地球温暖化が既に人々の健康に影響を与えていることは明白だ」とし、一例として、温暖化の進行に伴い蚊やダニの生息地域が北に広がり、多くの感染症がもたらされている問題を挙げています。「今やフロリダ州のマイアミでもジカウイルス感染がみられる。温暖化が進み、熱帯に近い気候になれば、米国全土にジカ熱やデング熱などの感染症が広がるだろう」と同氏は警鐘を鳴らしています。

異常気象の増加

人々の生命と健康を脅かす極端な異常気象は増えるであろうと専門家らは予測しており、Ripple氏によれば、カリフォルニア州で起こった山火事もその一つだと指摘しています。また、Pena氏は「ハリケーンや竜巻も頻発するようになっており、その勢力も増している」と付け加えています。

農産物・漁獲量の減少と飢餓

さらに、専門家らは今後、気候変動の影響で農作物の収穫量が減り、海水の温度が上がれば魚の漁獲量も減るため、飢餓も広がっていくとみています。Ripple氏は「世界では既に数億人の人々が飢餓に苦しんでいるが、今後も気候変動によってその数は劇的に増加する可能性がある」と話しています。

人体の限界を超える暑さを一部地域で観測

また、研究者らの間では、気候変動がこのまま進めば、地球の気温は数十年以内に人体が耐えられないレベルまで上昇することが予測されており、一部の地域では、既にそのような事態に直面していることが、米コロンビア大学ラモント・ドハティ地球研究所のColin Raymond氏らの研究から明らかになりました。詳細は「Science Advances」2020年5月8日オンライン版に発表されました。

Raymond氏らは今回、7,877カ所に上る世界各国の気象観測所の1時間ごとのデータを分析しました。その結果、1979年から2017年の間に、気温と湿度の複合的な指標である湿球温度が摂氏30度に近いかそれを超えた回数は2倍になっていたことが明らかになりました。また、湿球温度で摂氏31度が記録された回数は約1,000回、摂氏33度に達した回数は約80回ありましたが、湿球温度で摂氏31度あるいは摂氏33度という数値は、ヒート・インデックス(暑さ指数)に換算すると、以前は起こり得ないと考えられていた値でした。なお、現在では、人間の体が耐えられる暑さの上限は、湿球温度で摂氏35度と考えられています。

Raymond氏は「人間は誰でも、ある程度の気温や湿度の上昇には順応できる。しかし、一定の閾値に達すると、どれほど健康であろうと、汗をかいても体温を下げることができなくなってしまう」と説明。そして、「人間にもともと備わっているこのような体温調節機能が働かなくなると、熱中症あるいは臓器不全に至る可能性もある」と指摘しています。さらに、そこまで極端に気温が上昇していなくても、高気温の環境に長時間曝されることで、健康に有害な影響が及ぶ可能性はあると指摘されます。
米国の医学団体Medical Society Consortium on Climate and Healthのエグゼクティブディレクターで、米ジョージ・メイソン大学のMona Sarfaty氏は、「気候変動による影響は、熱中症による死亡だけではない。例えば、気候変動による大気汚染の悪化は、心臓や肺の疾患を抱えている人たちにとって危険な環境をもたらす。気温や湿度の上昇により、ライム病やジカ熱などの昆虫が媒介する感染症も増える。また、海面上昇により豪雨や洪水が増えると食料や飲料水が汚染され、それが疾患の原因になり得る」と説明しています。

地球温暖化回避のために

Ripple氏らは、地球温暖化を遅らせるためには、以下の6つの政策を直ちに講じる必要があるとしています。

  • 化石燃料の使用削減に向けた規制などの大規模な省エネ対策の実施
  • メタンやすす、ハイドロフルオロカーボンなどの大気汚染物質を速やかに削減。これにより今後数十年間に温暖化の進行速度を半減できる可能性がある
  • 二酸化炭素などの温室効果ガスの制御に重要な役割を果たす森林や草地、湿地などの自然生態系を復元し、保護する
  • 動物性食品を減らし、植物性食品を主体とした食習慣に切り替える。家畜の飼育にはより多くの資源を必要とし、また、メタンなどの温室効果ガスの排出にもつながっている
  • 人間の生活は生物圏に依存しているとの認識に立った世界経済にシフトし、自然生態系の開発を見直して地球を健全な状態に保つ
  • 現在、1日当たり20万人以上増加している世界人口の安定化に向けた政策を推進する

Ripple氏は「われわれは緊急事態に直面しているが、今すぐに効果的な行動を起こせば、壊滅的な気候変動を回避することができるかもしれない」と話しています。

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