「音楽療法」に期待される様々な効果

「音楽療法」に期待される様々な効果

「音楽療法」に期待される様々な効果

WHR5月音楽は気分を高めたり、ストレスを和らげたり、時には気分転換や癒しになったり、日々の生活の中で、様々な形で私達に関わっていて、その効果から健康にも役立つと考えられています。今回は、音楽の健康に対する効果について、海外のレポートからご紹介します。

 

「音楽療法」が心筋梗塞後の不安や痛みを軽減する

音楽は、心臓にも良い影響を与えるという研究があります。音楽を1日に30分間聴くと心筋梗塞後の胸痛や不安が軽減するという研究結果を、ベオグラード大学(セルビア)のPredrag Mitrovic氏が、米国心臓病学会と世界心臓病学会の合同オンライン会議(ACC/WCC 2020、3月28~30日)で発表しました。同氏は「音楽療法は簡単かつ安価に行える上、心筋梗塞を起こした全ての患者に有用だと思われる」と述べています。

米国では、心筋梗塞から回復した患者のうち約9人に1人は、心筋梗塞の発症から48時間以内に胸痛や不安を経験するとされるため、再発予防や胸痛軽減のために薬物療法が行われます。Mitrovic氏らは今回、標準的な治療に自宅で簡単にできる音楽療法を組み合わせることで、心筋梗塞後の胸痛や不安を和らげることができるかどうかを調べました。

研究では、心筋梗塞を発症後2日以内に胸痛を経験した350人の高血圧患者を対象に、半数を心筋梗塞後の標準的な治療を行う群に、残る半数を標準治療に加えて音楽療法を毎日行う群にランダムに割り付けました。音楽療法を行う患者群には、できるだけ目を閉じて座った状態で1日に30分間、音楽を聴いてもらうという音楽療法を7年間にわたり継続してもらいました。その結果、7年後には、標準治療群と比べて音楽療法群では不安と痛みの感覚、痛みによる苦痛がより軽減したことが分かりました。

ただし、Mitrovic氏らは今回、音楽療法は心筋梗塞の標準治療に併用して行っており、「音楽療法だけで心筋梗塞が治療できるわけではない」と強調しています。専門家の一人で、米サンドラ・アトラス・ベイス心臓病院のGuy Mintz氏は「音楽療法がうまく作用して、標準治療に上乗せ効果をもたらす可能性がある」と話しています。

アルツハイマー病患者の興奮や不安、音楽で軽減か

また、アルツハイマー病患者の焦燥性興奮(アジテーション)や不安などの軽減に、患者が好む音楽を聴かせる治療法が有効である可能性を示した研究結果が「The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease」4月のオンライン版に発表されました。この研究では、アルツハイマー病患者に自分で選んだ音楽を聴いてもらい、機能的MRI(fMRI)を用いた脳画像検査を実施した結果、脳の全領域において機能的回路の伝達度が高まっていることが確認されたということです。

今回の研究グループの一員で米ユタ大学医学部放射線学のJeff Anderson氏によると、アルツハイマー病患者では徐々に記憶力が低下しても、脳内の「顕著性ネットワーク(サリエンスネットワーク)」と呼ばれる機能は維持される場合が多いということです。顕著性ネットワークは、感動を誘う音楽を聴いたときなどに心が揺さぶられるような状態になることと関連する脳機能的回路であり、今回の研究では比較的機能が保たれやすい同回路を音楽によって刺激できる可能性が示されたと同氏は説明しています。

今回の研究ではアルツハイマー病の患者17人を対象に、好きな音楽を聴いたときの脳活動の変化をfMRIによる脳画像検査で調べました。まず、患者にとって特別な歌を複数、自分で選んでもらい、選んだ音楽を20秒間聴いてもらったときと、無音の状態のときにfMRIによる脳画像検査を実施して脳活動の変化について比較検討しました。その結果、患者が選んだ音楽を聴いたときには脳内の顕著性ネットワークや視覚ネットワーク、遂行機能ネットワークといった皮質-皮質および小脳皮質ネットワークにおける脳領域間の機能的回路の伝達度が高まっていることが分かりました。

研究論文の最終著者で同大学アルツハイマー病ケアセンターのNorman Foster氏は「アルツハイマー病患者では早期に言語や視覚性記憶が障害されるが、個人個人向けにアレンジした音楽プログラムによって、特に見当識を失っている患者の脳を活性化させる可能性がある」との見方を示しています。Anderson氏も「音楽によって、アルツハイマー病の症状をより管理しやすくし、治療費の削減や患者のQOL向上につなげることもできるかもしれない」と期待を寄せています。

運動時の音楽でパフォーマンスや気分が向上か

音楽は、運動を長く続けるために有用で、適切な曲を選ぶと、パフォーマンスが向上する可能性さえあることが、「Psychology of Sports and Exercise」9月号に掲載されました。

米国の運動ガイドラインは、中等度から強度の有酸素運動を1週間に150分以上、または高強度の運動を1週間に75分以上行うことを推奨していますが、運動が好きではない人にとって、これはハードルの高い目標かもしれません。しかし、この10年の間に、運動中に音楽を聞くことが有効であることを示した研究が増えつつあります。今回の研究では、スプリント・インターバル・トレーニング(SIT)の実施時にやる気の出る音楽を聞くことにより、運動を楽しむ気持ちだけでなく、パフォーマンスも向上する可能性があると結論付けています。

研究では、SIT中にポッドキャストを聞いた場合や、何も音声を聞かなかった場合に比べ、やる気の出る音楽を聞くと被験者のピークパワー発揮能力および心拍数が向上することが示されました。また、音楽を聞いた場合、運動後の楽しさについての被験者の評価も高かったことが明らかになりました。研究論文の著者の一人である英ブルネル大学スポーツ・運動心理学教授のCostas Karageorghis氏は、「運動を続けられそうにない人や、すぐにやめてしまう人も、この方法なら楽しみながら続けられるかもしれない」と述べています。運動に音楽を取り入れるのであれば、まずはテンポが120bpm程度で始まる曲を集めたプレイリストを探すことをKarageorghis氏は勧めていますが、このテンポは早歩きの速度に相当します。ただし、音量には注意する必要があり、隣の人と支障なく会話できるくらいが適正音量であるとのことです。

Karageorghis氏はこれまでの研究で、きつい運動でも、音楽を聞きながら行うと、何も聞かない場合に比べ、疲労は感じていても気分は向上することを明らかにしています。

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