大気汚染による健康リスク

大気汚染による健康リスク

大気汚染による健康リスク

Aerial view of Shanghai at sunset, China近年、大きな社会問題となっている大気汚染。環境への影響はもちろんのこと、私達の健康に対しても大きなリスクをもたらします。今回は、環境汚染による健康リスクについて、英国と米国の研究をご紹介します。

 

大気汚染、曝露30年後も死亡リスク上昇

大気汚染(スモッグ)による早期死亡リスクの上昇は、数十年後まで続くことが長期研究で示されました。この知見は、「Thorax」に2016年2月8日オンライン版に掲載されたものです。研究著者である英インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnna Hansell氏は、「大気汚染が特に心疾患や肺疾患に影響を及ぼすことは十分に裏づけられている。今回の研究の新しい点は、極めて長期間にわたり追跡したことと、1970年代からの大気質の評価を用いて詳細な大気汚染評価を行ったことにある」と述べています。

今回の研究では、英イングランドおよびウェールズの各地域の大気汚染レベルを約40年にわたり観測し、1971、1981、1991、2001年の大気汚染レベルを推定しました。1971~1991年には、主に石炭や石油などの化石燃料に由来する黒煙と二酸化硫黄による大気汚染レベルを測定。さらに2001年には、微粒子による大気汚染についても測定しました。微粒子には土や海塩などの自然由来のものと、工業や建築に関連するものがあり、ごく小さな粒子は肺の奥や血流にまで入り込むこともあるということです。汚染への曝露が最近であるほど影響は大きくなり、2001年の大気汚染曝露が1単位増えると、2002~2009年の死亡リスクは24%上昇することが示されました。

さらに、対象地域に居住する36万8,000人の健康状態を追跡した結果、気管支炎、肺気腫、肺炎などの肺疾患のほか、心疾患による死亡が大気汚染曝露と強く関連する可能性が高いことが判明しました。Hansell氏は、昔の曝露よりも最近の曝露のほうが重要だと指摘する一方、「大気汚染が生涯の健康に及ぼす影響については、さらに研究を重ねる必要がある。今回の研究は、汚れた空気を吸うことは期間の長短にかかわらず良くないという根拠を裏打ちするものである。国内外で大気汚染レベルを低減するために、総力を尽くしていく必要がある」と同氏は述べていいます。

海外旅行では滞在先の大気汚染に注意を

また、たとえ短期間でも大気汚染レベルの高い都市に滞在するだけで健康を損なう可能性があることが、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のJesus Araujo氏らによる研究から分かったという。詳細は、「Circulation」2019年11月20日オンライン版に発表されました。

長期にわたる大気汚染物質への曝露が心血管疾患リスクを上昇させることは以前から知られていましたが、大気汚染レベルが高い地域に短期間滞在するだけでも健康に影響があるのかどうかについては不明でした。そこで、Araujo氏らは、2014年または2015年の夏に中国の首都、北京に10週間滞在したロサンゼルス在住の健康な成人26人を対象に、今回の研究を実施。北京への出発前、到着後(北京に滞在した年が2014年の群では到着から8週後、2015年の群では到着から6週後)、およびロサンゼルスへの帰国後の3度にわたり、対象者から血液および尿の検体を採取し、脂質酸化反応や炎症の程度、大気汚染物質の曝露量などについて調べました。なお、対象者の平均年齢は23.8歳で、全員が非喫煙者でした。

その結果、いずれの群においても北京滞在中、酸化した脂質の増加と、それに起因する心血管の炎症レベルの上昇、心疾患に関連する酵素の機能の変化など、身体の健康状態に関連するバイオマーカーの悪化が認めら、対象者の尿中の大気汚染物質濃度は、ロサンゼルスにいたときと比べて北京滞在時には最大で800%上昇していました。なお、研究期間中の大気中の微小粒子状物質(PM2.5)の濃度は、ロサンゼルスと比べて北京では平均で371%高値でした。

Araujo氏らは、大気汚染が深刻な都市を訪問する際に、健康問題のリスクを低減させるためにできる対策として以下を挙げている。

・屋外でのランニングやハイキングといった激しい身体活動をしないようにする

・心疾患がある人は、滞在期間をできるだけ短くする

・長期滞在が避けられない場合は、できるだけ空気清浄機が整備された屋内で過ごすようにする

なお、Araujo氏らによると、世界で大気汚染が最も深刻な都市は、北京をはじめとする中国やインドのいくつかの都市が挙げられますが、ロンドンやパリでさえもWHOが定めた大気汚染に関する基準値を上回っているということです。

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