よい脂肪、悪い脂肪の見分け方
脂肪…というと、健康にあまり良くない印象を持たれる方が多いかもしれませんが、脂肪にも様々な種類の脂肪があり、食事の中に含まれる脂肪は、必ずしも全てが悪いものというわけではありません。
米国心臓協会の2017年8月のコメントでは、例えば、アボカドや青魚などに含まれる多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸には、「悪玉」コレステロールやトリグリセリドの値を下げる作用があります。一方、チーズ、バター、クリームなどに含まれる飽和脂肪酸は、取り過ぎないように制限する方がよいでしょう。こうした脂肪は心疾患リスクを上昇させ、血液中の「悪玉」コレステロールの値を上昇させることがあります。
一切摂取しないように、避けた方がよい脂肪もあります。トランス脂肪酸、硬化油、ヤシ油・パーム油などです。こうした脂肪は主に市販の焼き菓子などに含まれますが、飽和脂肪酸よりもさらに「悪玉」コレステロールの値が上昇しやすく、心疾患リスクも高まります。
糖尿病発症率に特定のトランス脂肪酸が関連
高齢者では特定の脂肪酸(TFA)が糖尿病発症に関連することが、米ハーバード大学のWang氏らによって「Diabetes Care」2015年6月号に掲載の論文で報告されました。
Cardiovascular Health Studyから、1992年時点の血液試料があった非糖尿病2,919例の血中リン脂質を、89年および96年時点の問診結果があった4,207例から食事中のトランス脂肪酸量を推定し、2010年までの糖尿病発症との関連を調べました。その結果、トランス脂肪酸濃度が高いほど糖尿病発症のリスクが上昇していました。また、食事データで追跡したところ、総トランス脂肪酸摂取量およびリノール酸摂取量が、糖尿病発症リスクと関連していたことが示されました。
トランス脂肪酸が認知症リスク上昇に関連か
また、トランス脂肪酸を多く含む食事は、糖尿病だけではなく認知症リスクを上昇させる可能性があることが、九州大学衛生・公衆衛生学教授の二宮利治氏らによる新たな研究で明らかになりました。血液中のトランス脂肪酸濃度が高い人では低い人に比べて、後年に認知症を発症する率が50~75%高かったことが明らかになったということです。研究結果の詳細は、「Neurology」2019年10月23日オンライン版に掲載されました。
今回の研究は、認知症のない60歳以上の日本人1,628人(平均年齢70歳)を対象としたもので、研究開始時に対象者の血中トランス脂肪酸濃度を測定したほか、特定の種類の食品の摂取頻度に関する調査も実施しました。平均10年の追跡期間中に377人が認知症を発症しましたが、血中トランス脂肪酸濃度を値に応じて4つのグループに分けて分析したところ、最も高かった群では407人中104人が認知症を発症し、発症率は1,000人年あたり29.8人(「人年」は被験者数と観察期間をかけたもの)。トランス脂肪酸濃度が2番目に高かった群では407人中103人(1,000人年当たり27.6人)、最も低かった群では、認知症の発症は407人中82人(1,000人年当たり21.3人)にとどまりました。
研究グループは、血液中のトランス脂肪酸濃度上昇に最も寄与する食品についても検討しました。その結果、ペイストリーズ(ケーキなどの甘い菓子類)の寄与が最も大きく、マーガリン、飴やキャラメル、クロワッサン、乳成分を含まないクリーミングパウダー、アイスクリーム、せんべいがそれに続きました。研究結果を受け、二宮氏は「トランス脂肪酸を避けるべき理由がさらに増えた」と語ります。米国では、2018年に食品へのトランス脂肪酸の使用が禁止されましたが、含有量が0.5g未満の食品は「トランス脂肪酸ゼロ」と表示してもよいため、一部の食品には依然としてトランス脂肪酸が含まれているということです。同氏はそうした現状を踏まえ、「米国では、ごく少量のトランス脂肪酸の添加が許容されており、そのような食品をたくさん食べれば摂取量が増える。また、その他の多くの国では今もトランス脂肪酸の使用が認められている」と懸念を示しています。
その一方で二宮氏は、世界保健機関(WHO)が2023年までにトランス脂肪酸を全世界から排除することを呼び掛けていることに言及し、「このような公衆衛生的活動が、心疾患などトランス脂肪酸に関連するさまざまな疾患を低減させるだけでなく、世界中の認知症予防に役立つ可能性がある」と期待を示しています。